ストロングスドウくん

令和のGTO #1巻応援

ストロングスドウくん 瀬澤ノブコ
兎来栄寿
兎来栄寿

ちょうど四半世紀前の1998年に反町隆史さんと松嶋菜々子さん主演のドラマ版が始まり、大人気を博した『GTO』。私は和久井繭くんが大好きでした。何なら『GTO パラダイス・ロスト』も連載中なのですが、「『GTO』ってまだやってるの!」と驚く人も多いかもしれませんね。 そんな『GTO』のDNAを感じさせる、同じくマガジン系レーベルから送り出された型破りな教師が主人公で一癖も二癖もある生徒や同僚たちと渡り合っていく学園群像劇です。 骨格は同じではありますが、いわゆるZ世代の生徒たちを描いていることで現代的な読み味となっています。配信者として人気になっている子がいたり、スマホを持っているのが当たり前であったりする時代。女子高生がSNSや動画を見てお金持ちのキャバ嬢に憧れていることが一部で話題となっていましたが、現代ならではの教師の大変さはあるでしょうし、その一部が描かれます。それ以外でも、そこかしこで令和的な価値観が現れてきます。 しかし、『3年B組金八先生』と『GTO』でもガワは大きく違っても根底にあるものは共通していたように、『ストロングスドウくん』も時代が違う作品であっても通底するものがあります。それは、どこまで行っても究極的には人間対人間の物語であるからでしょう。結局、子供が信頼できる大人というのは本気で自分たちのことを考えて向き合ってくれる大人です。 須藤先生はヒゲにサングラスの巨漢で見た目こそカタギに見えず、職員会議をサボって屋上で筋トレしているような自由人ですが、その部分ではどの教師よりもしっかりとしており魅力的です。1巻では描かれないのですが、連載中の部分で明かされつつある須藤先生がどうしてそういう風になっていったのか、というエピソードがとても好きです。 脇役である西先生の物語にも良い味があり、もちろんたくさんの生徒たちにもそれぞれの物語があって、学校という特異な空間の中での群像劇として秀逸です。 これから先、更に面白くなりそうでテーマも深まっていきそうですので楽しみです。 なお、作者の瀬澤さんのこちらの読切も非常にお薦めです。 第89回 青年部門 大賞「さらば太陽」瀬澤ノブコ(25歳・東京都)|小学館 新人コミック大賞 https://shincomi.shogakukan.co.jp/viewer/89/04/201.html

特別じゃない、君が特別。

主人公になれない主人公 #1巻応援

特別じゃない、君が特別。 あむ
兎来栄寿
兎来栄寿

先月完結巻の2巻が発売した『私が15歳ではなくなっても。』で、その異才を遺憾なく発揮していたあむさん、やはり好いです。 『うちのアイドルが可愛いすぎる! アンソロジーコミック』に収録されている、あむさんの「特別じゃない、君が特別。」。こちらを単話で買って読むこともできます。シーモア先行配信で1ヶ月前に発売していましたが、今日から他の電子書店でも展開されているようです。 まず、表紙絵の引きが強いですよね。今をときめく『【推しの子】』にも負けていないと感じます。そして、その画力がかわいい部分だけでなくエグい部分にも用いられているのが良いです。 アイドルアンソロ収録作品ということでアイドルを題材にしており、『私が15歳ではなくなっても。』ほどまではダークではないのですが、輝くスターたちの裏で燻って儚く消失していく地下アイドルの、現実にもあるであろう無数の物語のひとつが描かれます。それはまるで、小さな星の輝きを太陽がまるごと飲み込んで巨大な力で宇宙から消失させてしまうかのように。 自分のマイナスの立ち位置を正しく認識して、すべき努力を言語化して、少しずつでも前に進もうとするその先に待ち構えるもの。短編だからこそ描ける特別ではないから特別で、主人公ではない主人公。 「夢を追う時」から始まるモノローグは蓋し名言です。 あむさんの描くマンガをもっともっと読みたいと思わせてくれる、24Pです。

葬儀屋タケコ~あなたの最期、叶えます【電子単行本版】

理想の葬儀を叶えてもらえるとしたら #1巻応援

葬儀屋タケコ~あなたの最期、叶えます【電子単行本版】 高山繭
兎来栄寿
兎来栄寿

あなたは、自分の葬儀をどのように執り行って欲しいですか? 私はとりあえず吉野山に灰を撒いてもらえればそれ以上望むことはないのですが、高校生の時はMALICE MIZERの「虚無の中での遊戯」を葬式のBGMにして欲しいな〜などと思っていました。 35歳の主人公の健子は、結婚を考えていた恋人が実は妻帯者で、別れた後に自分も妊娠していたことを流産した後に知り、敗血症になり3週間入院して、会社を辞めて実家に帰るという過酷なスタート。 再会した幼馴染から仏具屋さんが葬儀屋さんになることも結構ある、特別な資格の取得なども必要なく本人のやる気次第という話を聞いて「ご本人様プロデュース葬」を行う葬儀屋を開業する準備を進めていきます。 葬儀とはいっても、死後のことばかりではなく生前葬という選択肢もあり、しかも多様化の現代にあってはもし望むならいろいろな形が可能になるのだなと考えさせられました。 恋愛関係に発展することを匂わせる良いメンターや、 「商売はアイディアとご縁!」 と、勇気づけてくれる顧客との出逢いもあり、周囲の温かい協力も得ながら少しずつ社会復帰を進めて行く様が良いです。誰かに喜んでもらえる仕事ができることで、自分自身も再び笑顔になることができる。人の世の素敵なサイクルに、読んでいるこちらも温かい気持ちになります。 しかし、葬儀に際しては人間の醜い部分を見ざるを得ないこともあり一筋縄では行かないだろうなということも強く感じさせます。時には失敗もしながら、それでも失敗した時こそチャンスでもあるということもエピソードで描いていきます。 男性ふたりと三角関係になる部分も見所のひとつでありつつ、少し変わっていながら誰にとってもいつか関わる仕事マンガとしても、一度大きな挫折をしてしまった人が人生を立て直す普遍的に誰かを勇気付けられる物語としても味わえる作品です。

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