兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
何の変哲もない日常風景が舞台であっても、殺人のような大きな事件ではなく今もどこかで起きているようなありふれたことを題材にしても、面白いミステリーは描けるという良いお手本のような作品です。 同じバス停から通園する子供を持つ、月村家・西井家・雪田家・高見家の4家族がメインメンバー。ある日、母親たち4人が話し込んでいる隙に子供たちの誰かが高級車に傷をつけてしまいます。一体誰がやったのか? 犯人はわからないまま高額の賠償金を支払わねばならなくなり、それまで仲の良かった4人はその事件をきっかけに諍いが起きたり距離を取ったりすることになり、生活が変わっていきます。 七夕の短冊に「ひとをけしたい」と書いたライムくん。 社宅で起きたボヤ騒ぎ。 続発する自転車のサドル損壊事件。 ある真相を知る人物の存在。 不穏さを煽るできごとが次々と起こりながら、物語は実にサスペンスフルに駆動していきます。 かわいらしい絵柄ながら、人間社会における歪みが表出したキャラクターたちのリアルさが見事です。特に、断片的な情報しか得ていないにも関わらず、真実を知った気になって誰かを断罪しようとしたり、それによって更に当事者を傷つける結果を生んだりしてしまう人間。そして、それに対してほとんど罪悪感などあるわけもないという。現実でも仮想空間でもありふれた人間の在りようですが、非常に恐ろしいです。 ママ友や子育ての闇の部分が、うまい具合にサスペンスの雰囲気と溶け合っています。それでも、醜い部分だけではなく人間の良い面も描かれているところは一抹の救いです。 すべての謎は、最終的に綺麗に氷解します。そこで一旦スッキリはするのですが、その更に奥底にあるものに対して考え始めるとまた大きな難題の壁が立ちはだかるような気分です。1冊完結のミステリーマンガとしては非常にお薦めです。
名無し
1年以上前
ネタバレがあるので注意ですがある程度知ってても十分楽しめると思います。 タイトルにある"惨殺"が始まるまでにちょっと時間がかかるけど(1巻の時点では殆どない)、2巻で村長が観覧車で×××てからの畳み掛けがすごい。 こういう、人がたくさん死ぬ漫画はどんな死に方をしてくれるかどうかが結構大事で、そういう意味では丹沢先生の最期は本当にいい。あんな状態でめちゃくちゃ長いセリフをダラダラ吐いてるのも含めいいです。ギャグとホラーは紙一重ってこういうこと!と改めて思います。 ヤバい村を描いた漫画のなかでもトップクラスにいい漫画なんじゃないだろうか。ただしグロ注意。 終わり方も良かった。 全体を見れば死にものぐるいで脱出して、大事な人と再会できて、ほんの少しでも明るい未来が想像できる、気持ちのいいラスト…のはずなのに、細かいところでモヤッというか、イラッというか、いつもは心の奥にしまってるツッコミ魂が呼び覚まされるような気持ちにさせてくれるのが武富漫画なのかな。もちろんそれ含めてこの作品なので、文句じゃありません。 作中でもあとがきの座談会でも続編をほのめかしているのでいつか描いてくれると信じてます。