兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
『マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~』や『吉祥寺少年歌劇』の町田粥さんが、担当編集のK成さんと共に当事者として「大人の発達障害」についていろいろな方々の話を聞いていくエッセイマンガです。 K成さんといえば、マンガ好き界隈では和山やまさんを2000字の長文DMで口説き落とした事件が有名ですが(そこから『女の園の星』が生まれたのは素晴らしいですね)、他にも ・高野ひと深さん『ジーンブライド』 ・池辺葵さん『ブランチライン』 ・ためこうさん『ジェンダーレス男子に愛されています。』 など錚々たる作品・作家さんの担当をされています。個人的には西つるみさんの作品でのイメージも強いです。私は町田粥さんの作品が大好きなこともあり、連載開始時から親近感を持って読んでいました。大事なテーマを丁寧に扱いながらも、笑いも多く取り入れられていて楽しみながらたくさんの学びを得られる内容です。 本作では、カメントツさんなどの同業者や、発達障害の方の支援を行なっている企業の方、医師など、発達障害の当事者や発達障害に詳しい方々が出てきて諸々の角度から語られます。 それぞれの人ごとにそれぞれの特性があり、「ケアレスミスが多く、クラスの忘れ物チャンピオン」「片付けが苦手でカーテンフックは取れたまま」「やりたくないことはやれない/先延ばしにする」、「マルチタスクは苦手だがひらめきやデザイン力には秀でている」、「書類の管理や毎日コツコツが苦手」、「フリマサイトでの発送作業が無理」、「人の顔や名前を覚えるのが苦手」などなど、実例を伴ってさまざまな事例が語られます。 それに対して、「約束をしない」、「カバンを替えない」、「家から出ない」、ヘルシオやホットクックやドラム型洗濯機を活用するなど実践的な対策も多々。何かしらか社会で他の人と上手く行かないと思っている人が読むと、自分もこの類型なのかもしれないと解って大きな助けになるかもしれません。私自身も当てはまる項目が結構あるので、1度診断を受けてみたいなと思わされました。 また、カメントツさんの「よく会話はキャッチボールと言われるが、キャッチボールでなくて良い」という件はなるほどなと思わされました。考え方ひとつを知るだけでも、進む相互理解が溢れています。 心の病気ではなく、脳の働きの違いである発達障害。いまだに理解から程遠い環境もあると思いますが、この1冊を読むだけでも相当に解像度が高まり世界が優しくなるのではないかと思います。スーパーで朝だけ放送を流さない静かな時間帯を設けることで、情報量の多さに苦しくなる人の助けになるなどは日本の店舗でも広まって欲しいです。 また、発達障害の当事者が苦手なことを最初から明文化しておくのはお互いにとっての不幸の芽を刈り取ることに他なりませんし、それが自然にできる社会になれば良いと思います。 余談ですが、『ポポロクロイス物語』や『ボクと魔王』が好きな方に食いつくところ、好きです。
名無し
1年以上前
周期的にどこか遠くへ行きたくなります。ギアナ高地かゴビ砂漠かヒマラヤか…。想像は膨らみますが、実際にはせいぜい飯能で僕の冒険心は終了です。ただ、もし僕が頑健な体と知性(と美しさと財力)があれば、宇宙に行ってみたいと思い、たまに空を見上げるることがあります。  この「MOONLIGHT MILE」も二人の男がヒマラヤの頂上から月を見上げるシーンより、物語がはじまります。世界中の極地に立った二人は、さらなる頂を目指すために宇宙を目指すのです。  二人の内の一人、猿渡五郎は日本の建築会社に就職しありとあらゆる重機の資格を取得し、宇宙空間での建設業務に従事するビルディング・スペシャリストを目指し、もう一人の“ロストマン”と呼ばれるウッドブリッジはアメリカ空軍に入隊し、そこからパイロットとして宇宙を目指します。  紆余曲折を経て、二人がISS(国際宇宙ステーション)で再会するのは7年後。しかしこれはまだ物語の序盤、1巻の出来事でしかありません。そこから、宇宙開発の表舞台を吾郎、軍の陰謀うずまく裏舞台をロストマンが主人公となって、宇宙開拓史が描かれて行きます。  「MOONLIGHT MILE」の凄いところは、この宇宙開拓史が事細かに、もしかしたら本当にこうなるかもしれないというリアリティをもって描かれているところです。ビルディング・スペシャリストとなった吾郎は、次世代エネルギー開発“ネクサス計画”のため、様々な任務をこなします。月面上の作業用機械の開発を手伝い、月往還船の建造を行い、そして第一次月遠征隊の一人として月面のエネルギー開発の最前線基地を建設します。  一方、ロストマンは宇宙における軍事的な覇権を推し進めるアメリカ軍のパイロットとなり、表舞台で宇宙開発が世界の注目を集める中、中国とアメリカの高高度戦闘が行われます。「表舞台か… 軍事利用こそ宇宙開発の真の姿だぜ 悪夢に染まらなきゃ、一番遠い場所には立てねえさ…」そう言いながら確実に任務をこなし続けるウッドブリッジは、やがてアメリカ宇宙軍の要人となります。  ふたたび吾郎とロストマンの道が交差するのは、表舞台と裏舞台がひっくり返るタイミングになるのですが、そこまでいたる夢の様に壮大な開発現場の個人の思いと、人類社会を左右する各国の思惑がからみ、壮大な物語になっているのです。  現在の世界状況の延長線上にある、想像しうる未来を描いた第一部が終わり、想像を越えたディストピアを描く第二部は現在も進行中。「MOONLIGHT MILE」が描ききるのはどのような人類の未来なのか、興味は尽きません。
兎来栄寿
兎来栄寿
1年以上前
アラサーではなくアラサン(アラウンド傘寿)。でも、すこぶる元気な「乙女」(と書いて「ばあさま」と読む)たちのパワフルギャグ×ハートフルストーリーです。 孫の恋路を全力応援して、『へうげもの』みたいな効果音でしたたかに笑みを浮かべるばあさま。 夏休みに田舎に遊びに来た完璧な小学生を、勉強から解き放ちジャンクフードや娯楽で堕落させることに命を賭けるばあさま。 周りがどんどん結婚や出産といったライフイベントを重ねていく中で孤独死を迎えたくないと焦燥感に駆られる34歳独身女性を優しく元気づけるばあさま。 亡くなったじいさんと友人のカップルへの秘めた想いを解放させながら創作意欲に駆り立てられ、液タブを使いこなしSNSでも人気を博すばあさま。 4人のばあさまたちがエネルギッシュに楽しそうに躍動する姿は、読んでいるこちらも活力をもらえます。 高らかに飛ばされるデスジョークの数々も秀逸です。世間でも高齢者による川柳であったり、18歳と80歳の違いであったり、高齢者の悲哀や辛苦は笑いへと置換されがちです。聞いている方からすると反応に困るデスジョークですが、考えてみればそれも運命を受け入れる適応規制のようなものかもしれません。 ″人生が計画通りに行くことなんて 皆無!! 今後失敗なしで生きていくなんて絶対に 不可能!!″ という、28歳から5年付き合ったけど「結婚は考えられない」と彼氏と別れた女性に対するばあさまの教えは至言です。 辛いことは多くても、たまに良いこともある人生を全力で生きていきたい。そんな風に思わせてくれる一冊です。
SS
SS
1年以上前
大好きすぎて感想がうまくまとまらないので今まで書けずにいましだが新刊(5巻)の最高さに居ても立っても居られず書き込みです。ここまで既に読んでる人は5巻はもう最高すぎるので姿勢を正してバッチリ受け取れる状態で臨んでいただきたい。これはもうここでしか得られないきらきらが詰まっています。最高。 この作品は、初っ端から最高なんですけど、巻を追うごとに最高の種類が変わります。パフェみたいな感じというんでしょうか…全層美味しいんだけど層によって美味しさがまた違うというか。最初はいっしょにキャンパスライフを楽しんでいるような、言い方がほんとによくないんですが、なんとなく恋愛戦力外女子かな、みたいな、ある意味環境でなんとなくそう思われたり自分も思ったりしたことがある女の子の気持ちがリアル。共感もできたり、へーそんなふうに思うんだ?と思ったりできるかもしれません。LINEマンガで連載されてただけあって(?)LINEでのやりとりが非常にリアルです。現代の少女漫画だなー!ととても趣深い。からの、いまの感動を述べたいので間の巻も最高なんですがとりあえず5巻の素晴らしさなんですけど、これはもう私たちの夢が形になった!!というか、こ、これこれーーっっさいこうーーっっという正直さっきまでリアルな道を歩いていたと思ってたら、途中から虹の上を歩いていた的な、そんな最高な見たかったものを見せてくれるストーリーになっています。最高。私は多分今レインボーの上にいる。マジで。