「架空戦記」でもあり「歴史」でもあるアルキメデスの大戦 三田紀房starstarstarstarstarmampuku極上の「負」のカタルシスだった。 日本が第二次大戦に突入しそして敗戦するまでを描いた戦記モノで、架空の天才軍人・櫂直(かいただし)が明晰な頭脳と冷静な分析によって開戦を、ひいては敗戦を回避すべく孤軍奮闘する話。 犠牲を払いながら手を尽くしても戦争へ突き進む軍部を止められず、事態は坂を転がり落ちるように悪化の一途をたどっていく。巻数にして30巻を超える長い長い無力感と喪失感を味わいながら、物語終盤ミッドウェー海戦で惨敗、櫂は軍を離れ、そのまま終戦、東京裁判を経て完結へ。 勝利も復讐も俺TUEEEも、およそ快感と呼べるものを与えられないまま、ずっとしんどい思いをしながら読み続けることになるものの、読後感は不思議と悪くない。むしろ心地よいまである。なぜか。 「いわんこっちゃない!」と叫びたくなるような負の感情のカタルシスの連続、喪失感、破壊(と再生)、櫂の決意と忠誠、わずかな希望……。一言であらわすなら、「大人の味すぎる娯楽」って感じ。mampuku3ヶ月前『アルキメデスの大戦』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。アルキメデスの大戦三田紀房mampuku3ヶ月前『あかね噺』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。あかね噺馬上鷹将末永裕樹mampuku3ヶ月前『夜明け前に死ぬ』のお気に入り度をstarstarstarstarstar_borderにしました。夜明け前に死ぬ大北真潤『ダンジョン飯』最終巻、丸ごと一冊哲学者だったダンジョン飯 九井諒子starstarstarstarstarmampuku自由にいきるとは何か 欲望とは何か 社会で暮らしていくとはどういうことか 善悪とは何か 食べるとはどういうことか 現実世界を遥かに凌ぐ多様な人種、生物種、民族、価値観が絡まり合いながら各々がそれぞれの“明日”と向き合っていく。 猫のように気ままに振る舞ってきた獣人のイヅツミはいざ自由な地上に放り出されたことで、本当の自由とは何かという問いに直面する。 そんな戸惑う彼女にマルシルは、嫌いな野菜も我慢して食べ、よく運動し、健康で長生きしてほしいと懇願する。すなわち、自由とは何かという深遠なる問いに対する一つの手がかりとして、「健康に生き続けること」こそが自由を叶える方法なのだと一つの“道”を提示したではなかろうか。 というか自由とか欲望とか語りだすと収集がつかなくなるので簡潔にまとめると、たとえファンタジー世界であろうと変な奴らばっかであろうと、飯を食うという普遍かつ不可避な事象の前ではその人なりの哲学や生き様が現れる。人は思考や欲求によって食事をし、食事によって作られた体、食事によって生きながらえた生がまた新たな思考や欲求を生むのだ。mampuku3ヶ月前『ダンジョン飯』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。ダンジョン飯九井諒子想いが濃すぎて原液どばどばなのに後味スッキリアタックシンドローム類 吉沢潤一starstarstarstarstarmampuku効果音などを作る「サウンドクリエイター」とアクション漫画としての「喧嘩」が予想外の化学反応を起こす、第一部ともいうべき前半部分。虚構と現実が入り混じりながら詩的にかつ美しく読者を幻惑する。 そして後半部分では、散りばめられた布石を余さず回収しながら、ただただ勧善懲悪でカタルシス満点のストーリーに熱狂させられる。 そしてラスト(エピローグ)で全体の真相が明らかにされる。一本の映画のような、丹念に編み込まれたストーリーだ。 悪を打ち倒しヒーロー気分に酔いしれる主人公にまんまと感情移入させられ、クライマックスを迎えるとそこにはまさかの裏切りが待っている、この読み口は朝井リョウの小説とよく似ている。節々でルサンチマンやシャーデンフロイデを刺激してくる描写が多いがこれもおそらく作者の罠に違いない。 この意地悪なラストへの感じ方は、受け取り手によって様々だろう。無敵の人や弱者の人たちが傾倒してしまいがちな安易で極端な思想や異世界モノのような居心地の良いコンテンツに対して皮肉でもあり、救いへの希望でもあるのだ。 ちなみに各話のサブタイトルには、色々な映画や音楽などの名前がそのままつけられている(『ネヴァーマインド』『タクシードライバー』など)。作中、私が気づいてない小ネタや引用がまだまだあるのかもしれない。いずれ読み返したときには今とは違う読み方ができるのではないかと楽しみだ。mampuku3ヶ月前『アタックシンドローム類』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。アタックシンドローム類吉沢潤一mampuku4ヶ月前『平和の国の島崎へ』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。平和の国の島崎へ瀬下猛濱田轟天終末を旅する少女が、人々の想いに触れ、出会い、別れウスズミの果て 岩宗治生starstarstarstarstarmampuku現代よりちょっと進んだサイバーパンクみのある近未来世界のポストアポカリプス。怪物と疫病によって崩壊し汚染された世界を“浄化”しながら人類の生き残りを探して旅をする少女。 説明口調を極力排して没入感を高めてくれているため、「破滅後50年経つのになぜ食料があるのか」「なぜ主人公の少女は感染しないのか」など、読んでいて「あれ?」と思わせる謎が結構あとになってから判明したりする。登場人物に愛着が増して没入度が高まっていくにつれ、情報量も少しずつ増えていく。SF特有の、情報の物量でいきなり殴られるあのハードルの高さがなく、とても読みやすい。mampuku4ヶ月前『ウスズミの果て』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。ウスズミの果て岩宗治生職業漫画の極致でもあり、実は美少女漫画でもある神田ごくら町職人ばなし 坂上暁仁starstarstarstarstarmampukuこの作者の漫画を初めて読んだが、いったい何者なんだ…… トーチらしい漫画といえばそうだが、果たしてどれだけの知識、取材、リサーチがあればこれほどの解像度で江戸の街が描けるのか。陳腐なコメントになってしまうが職人たちの息遣いや染め物や木材の匂いなどさえも感じられるほど。 ただそれだけでなく、職業モノの短編としてとにかくストーリーがエモい。特に1巻後半の『左官』にはクリエイター物の魅力が詰まっている。江戸というひとつの場所と時代を切り取っていながら、悠久の時間をも感じさせる。 少し幼い顔立ちの女の子が主人公の話が多いのも特徴だ。職人漫画というやや堅苦しくなりそうな舞台がぱっと華やかかつ柔らかくなる、という一般的な美少女漫画的な効果も確かにありつつ、三者三様に奮闘する彼女たちの姿に、この時代にも色々な女性の生き方があったのだろうなと想像させられる。 « First ‹ Prev 1 2 3 4 5 6 … Next › Last » もっとみる
「架空戦記」でもあり「歴史」でもあるアルキメデスの大戦 三田紀房starstarstarstarstarmampuku極上の「負」のカタルシスだった。 日本が第二次大戦に突入しそして敗戦するまでを描いた戦記モノで、架空の天才軍人・櫂直(かいただし)が明晰な頭脳と冷静な分析によって開戦を、ひいては敗戦を回避すべく孤軍奮闘する話。 犠牲を払いながら手を尽くしても戦争へ突き進む軍部を止められず、事態は坂を転がり落ちるように悪化の一途をたどっていく。巻数にして30巻を超える長い長い無力感と喪失感を味わいながら、物語終盤ミッドウェー海戦で惨敗、櫂は軍を離れ、そのまま終戦、東京裁判を経て完結へ。 勝利も復讐も俺TUEEEも、およそ快感と呼べるものを与えられないまま、ずっとしんどい思いをしながら読み続けることになるものの、読後感は不思議と悪くない。むしろ心地よいまである。なぜか。 「いわんこっちゃない!」と叫びたくなるような負の感情のカタルシスの連続、喪失感、破壊(と再生)、櫂の決意と忠誠、わずかな希望……。一言であらわすなら、「大人の味すぎる娯楽」って感じ。mampuku3ヶ月前『アルキメデスの大戦』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。アルキメデスの大戦三田紀房mampuku3ヶ月前『あかね噺』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。あかね噺馬上鷹将末永裕樹mampuku3ヶ月前『夜明け前に死ぬ』のお気に入り度をstarstarstarstarstar_borderにしました。夜明け前に死ぬ大北真潤『ダンジョン飯』最終巻、丸ごと一冊哲学者だったダンジョン飯 九井諒子starstarstarstarstarmampuku自由にいきるとは何か 欲望とは何か 社会で暮らしていくとはどういうことか 善悪とは何か 食べるとはどういうことか 現実世界を遥かに凌ぐ多様な人種、生物種、民族、価値観が絡まり合いながら各々がそれぞれの“明日”と向き合っていく。 猫のように気ままに振る舞ってきた獣人のイヅツミはいざ自由な地上に放り出されたことで、本当の自由とは何かという問いに直面する。 そんな戸惑う彼女にマルシルは、嫌いな野菜も我慢して食べ、よく運動し、健康で長生きしてほしいと懇願する。すなわち、自由とは何かという深遠なる問いに対する一つの手がかりとして、「健康に生き続けること」こそが自由を叶える方法なのだと一つの“道”を提示したではなかろうか。 というか自由とか欲望とか語りだすと収集がつかなくなるので簡潔にまとめると、たとえファンタジー世界であろうと変な奴らばっかであろうと、飯を食うという普遍かつ不可避な事象の前ではその人なりの哲学や生き様が現れる。人は思考や欲求によって食事をし、食事によって作られた体、食事によって生きながらえた生がまた新たな思考や欲求を生むのだ。mampuku3ヶ月前『ダンジョン飯』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。ダンジョン飯九井諒子想いが濃すぎて原液どばどばなのに後味スッキリアタックシンドローム類 吉沢潤一starstarstarstarstarmampuku効果音などを作る「サウンドクリエイター」とアクション漫画としての「喧嘩」が予想外の化学反応を起こす、第一部ともいうべき前半部分。虚構と現実が入り混じりながら詩的にかつ美しく読者を幻惑する。 そして後半部分では、散りばめられた布石を余さず回収しながら、ただただ勧善懲悪でカタルシス満点のストーリーに熱狂させられる。 そしてラスト(エピローグ)で全体の真相が明らかにされる。一本の映画のような、丹念に編み込まれたストーリーだ。 悪を打ち倒しヒーロー気分に酔いしれる主人公にまんまと感情移入させられ、クライマックスを迎えるとそこにはまさかの裏切りが待っている、この読み口は朝井リョウの小説とよく似ている。節々でルサンチマンやシャーデンフロイデを刺激してくる描写が多いがこれもおそらく作者の罠に違いない。 この意地悪なラストへの感じ方は、受け取り手によって様々だろう。無敵の人や弱者の人たちが傾倒してしまいがちな安易で極端な思想や異世界モノのような居心地の良いコンテンツに対して皮肉でもあり、救いへの希望でもあるのだ。 ちなみに各話のサブタイトルには、色々な映画や音楽などの名前がそのままつけられている(『ネヴァーマインド』『タクシードライバー』など)。作中、私が気づいてない小ネタや引用がまだまだあるのかもしれない。いずれ読み返したときには今とは違う読み方ができるのではないかと楽しみだ。mampuku3ヶ月前『アタックシンドローム類』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。アタックシンドローム類吉沢潤一mampuku4ヶ月前『平和の国の島崎へ』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。平和の国の島崎へ瀬下猛濱田轟天終末を旅する少女が、人々の想いに触れ、出会い、別れウスズミの果て 岩宗治生starstarstarstarstarmampuku現代よりちょっと進んだサイバーパンクみのある近未来世界のポストアポカリプス。怪物と疫病によって崩壊し汚染された世界を“浄化”しながら人類の生き残りを探して旅をする少女。 説明口調を極力排して没入感を高めてくれているため、「破滅後50年経つのになぜ食料があるのか」「なぜ主人公の少女は感染しないのか」など、読んでいて「あれ?」と思わせる謎が結構あとになってから判明したりする。登場人物に愛着が増して没入度が高まっていくにつれ、情報量も少しずつ増えていく。SF特有の、情報の物量でいきなり殴られるあのハードルの高さがなく、とても読みやすい。mampuku4ヶ月前『ウスズミの果て』のお気に入り度をstarstarstarstarstarにしました。ウスズミの果て岩宗治生職業漫画の極致でもあり、実は美少女漫画でもある神田ごくら町職人ばなし 坂上暁仁starstarstarstarstarmampukuこの作者の漫画を初めて読んだが、いったい何者なんだ…… トーチらしい漫画といえばそうだが、果たしてどれだけの知識、取材、リサーチがあればこれほどの解像度で江戸の街が描けるのか。陳腐なコメントになってしまうが職人たちの息遣いや染め物や木材の匂いなどさえも感じられるほど。 ただそれだけでなく、職業モノの短編としてとにかくストーリーがエモい。特に1巻後半の『左官』にはクリエイター物の魅力が詰まっている。江戸というひとつの場所と時代を切り取っていながら、悠久の時間をも感じさせる。 少し幼い顔立ちの女の子が主人公の話が多いのも特徴だ。職人漫画というやや堅苦しくなりそうな舞台がぱっと華やかかつ柔らかくなる、という一般的な美少女漫画的な効果も確かにありつつ、三者三様に奮闘する彼女たちの姿に、この時代にも色々な女性の生き方があったのだろうなと想像させられる。