ピサ朗
ピサ朗
1年以上前
90年代の少年誌競馬漫画の中でも間違いなく名作なのだが、人によってはキツい部分も多い珍作でもある。 まず馬のリアルさは素晴らしい、当時連載されていた競馬漫画の中でも馬が本当に美麗でサラブレッドらしい体型とサイズ比、そしてストーリー面の見どころとして、徹底して馬に情熱を注ぐホースマンたちの熱いドラマが本当に素晴らしい…。 競馬人情漫画というかロマン漫画というか人と言葉が通じないからこそ、ホースマンたちは馬の機嫌を損ねないようにしながらも調教を付け、どんな騎手も名馬に出会うために必死の営業を掛けたり、レースの葛藤や競馬界の厳しさなどもしっかり描かれている。 特に他の競馬漫画ではフィクションであっても忌避されがちな予後不良や落馬事故を、初期の段階で正面から描く事のは珍しく相当の悲劇性がある。 安易なお涙頂戴にはしていないが、競馬ファンならこれらの悲劇を正面から描くという事がどれだけの物かは想像できると思う。 …しかし、このロマン・人情部分が行き過ぎに見える部分も多く、血統から見ても作者の趣味全開というか、主人公最初のお手馬はサンデーサイレンス産駒なのだが、2番目のボムクレイジーはなんと90年代半ばだというのにグリーングラス産駒(母の父シンザン)で、明らかにこのボムクレイジーの登場以降レース部分は美麗な絵でぶっ飛んだ少年漫画的演出方向に行ってしまう。 マキバオーなんかもぶっ飛んだ部分はあるのだが、デフォルメの効いた絵柄や曲がりなりにも駆け引きなどを少年漫画に落とし込んでいたりで、違和感は小さくなるように気を払われていたが、こちらはリアルな絵柄で時計も頻繁に出すのだが展開の派手さが凄い分、違和感もでかくなっている。 初期は競馬用語の解説などもしっかりしているし、架空の馬券予想も一応それっぽくされていて競馬初心者にもおススメできるが、ボムクレイジー以降のレース部分は少年時代なら違和感なく見れたかもしれないが、青年以降の読者は競馬人情物語を引き立たせるための舞台装置と見た方が良いかもしれない。 実際ホースマンや優駿たちの熱いドラマは初期から終盤に至るまで非常に熱く、男臭く、間違いなく名作なのだが、ブラッドスポーツ、レースとしての競馬部分はそちらに比べて作者の夢とロマンが強すぎて、なまじ競馬好きだとノれるかどうかはかなり分かれると思う。 ただそれを差し引いても名作と言えるだけの熱量のドラマが展開されており、競馬を知らない人の方が楽しく読めるかもしれない。
ピサ朗
ピサ朗
1年以上前
ギャンブルの恐怖、不快感、やるせなさ、人間の弱さ、クズさをこれでもかと描いていて、ネガティブな感情しか持てない最低の漫画なのだが、怖いほど、不快なほどむしろ優れたジャンルとなるホラー漫画と同じくギャンブル依存症の啓発漫画として見るならばこの酷さはむしろ絶賛すべき部分であろう…。 少々向こう見ずというか考えが浅いようには見えても、まともな人間だった主人公が些細な切っ掛けからパチンコに目覚め、完全な人間の屑に堕ちていく様は絶句するしかない。 恐るべきは「誰もがこう成り得る」というのを感じさせる生々しさで、登場するキャラクター全員パチンコを覚える前は、多かれ少なかれ善も悪も抱えた平凡な人間だという描かれ方なのだが、パチンコを覚えた途端善性を投げ捨て人間の悪性を恐るべき勢いで増大させていくのである。 そしてその被害にあうのは依存症者の財布だけでなく家庭そのもの、要は犠牲者は子供であるというやるせなさと生々しさが実に強烈、しかもそこまで身を崩しておきながら、ストーリー上の制裁的な部分が全く描かれず、ココもまた生々しい…。 普通の漫画なら破滅するか死の制裁か立ち直るか、そういう部分が入るがそんな救いも終わりも一切なく、最後のオチも恐怖しかないというか、もう勘弁してくれと言いたくなるその後が想像できる物で、ただただ一度ダメになった人間はダメなまま平気で生きていくという、そりゃそうだろうけど、そんな描かれ方を読まされるこっちの身にもなってくれと言いたくなる。 絵柄はファミリー4コマさながらの読みやすい物で、ストーリーも分かりやすく理解しやすいのだが、描かれている人間の醜さと屑さは理解を拒みたくなる強烈な物で、とにかく読んでいると精神を抉られる。 自分はここまでギャンブルにハマってないと思う人も多いだろうけど、些細な切っ掛けが有ればあっち側にいたというのを否定するには、でてくる人間が普通過ぎて、正直断言できないのがまた怖い。 ギャンブルの怖さを描くという点ではこれ以上ない作品で、恐怖と不快感はある種ホラー漫画やグロ漫画と同じく、マイナスだからこそ評価すべき部分でもあるが、それでも圧倒的な不快感は人に勧めるのを躊躇う物で、実際にパチンコ公営競技やガチャ、一番くじにハマってる人に見せても「自分はマシ」だと思わせかねないキャラクターの深刻な依存症っぷりはもう誰に見せるべき作品なのか分からない。 おススメはしないし、見て不快になってもしらないが、その強烈な内容と読みやすさの両立という点では、漫画としては相当に上手さを感じさせる作品ではある。