ナベテツ
ナベテツ
1年以上前
仏教ってなんだろう。多分、ほとんどの人間は気にせずに生きていると思います。お墓参りをする。お葬式で手を合わせる。法事でお坊さんの話を聞く。日常向き合う機会はそんなに多くは無いけど、でも欠かすことは出来ない。 ブッダの説いた教えと、今の日本で日常に溶け込んでいるお坊さんとの距離は、恐ろしく離れています。そして、その距離に対して本気で向き合うお坊さんがいたとしたら―。 作者の朔ユキ蔵先生は、エロスとタナトスを描く作家さんなのですが、この作品は我々の人生に(恐らく)欠くことの出来ない日本の仏教というものを題材にして、自分の持つ作家性とテーマを発揮した作品だと思っています。 主人公の佐伯清玄は日本の坊主としてではなく、仏陀の教えを実践する宗教者として生きていきたいと願っていながら、己の抱える煩悩を捨てることが出来ず、揺れ続けています。 読者は清玄の揺れる心情と、展開される物語に心揺さぶられながら最後まで作品を読み続けることになると思います。 ラストシーンの美しさは、一瞬の時間を永遠のものとした詩のようであり、だからこそ読者の脳裏に忘れ難く刻まれます。最近完結した「神様の横顔」とともに広く読まれて欲しい。そう願って止まない傑作です。
nyae
nyae
1年以上前
受験シーズン真っ只中に行われる校内コーラス大会の練習や準備に追われる様子を賑やかに描いた1冊。途中までピンとこなかったんですが、最後のセンター試験と言っていて、あ、これまさにいま(物語の中でいうと2019年夏)を生きている高校生の話なんだと気づきました。人によっては失敗できない大変な状況だったりするんですね。 そんな忙しい中でやらなければならないコーラス練習。本来ならば適当に済ませて大事な試験勉強の方に時間を使いがちな気もしますが…なにがクラスをひとつにしたのか、そのきっかけが「優秀な成績をおさめたクラスに与えられる学校オリジナルの手ぬぐい」というところが高校生らしくて可愛らしいのです。 また、あらすじにもあるようにクラス内にいくつも発生する「片思いの連鎖」も見どころ。ほんとどこまで続くのこれ!?という感じ。 いろんなものを乗り越えて大会の本番を迎えたクラスはどんなステージを見せてくれるのか。私は鳥肌が立ちました! 1冊完結でさほど長くない話ですが、みんないい子たちなので、これからいろんな辛いことたくさんあるかもだけど頑張って生きてね…と謎の目線で読んでしまった。
ひさぴよ
ひさぴよ
1年以上前
月刊少年シリウスでスタートした「3×3EYES」の高田裕三先生のSF超大作(決定事項)です。 1巻の帯にある通り、”集大成”と銘打ってるだけに、初っ端からエンジン全開。出し惜しみなくド迫力の戦闘シーンが繰り広げられ、導入の1巻から既にスペクタクルな展開になってます。 ストーリーは地球外からやってきた地球外機甲化AI「シュネルギア」という巨大なロボ(のようなもの)に乗る運命となった少年少女たちの物語。 シュネルギアを巡り、国連軍とアンバックという組織が激しく対立し、少年と少女は敵対する組織同士、シュネルギアに搭乗し戦う運命に巻き込まれてゆくのです…。 主人公・二ノ宮シロの見た目も性格も、歪んでなくて心優しい性格なのがいいですね。闇を抱えたどこかの乗らない少年と違って、駄々をこねないでシュネルギアにササッと乗ってくれるあたり、話が早いです。 シュネルギアはパイロットと協調する事で機能をアンロックし、あらゆる機能が進化していく仕組みになっています。 AIのような思考回路も存在しており、このAIの性格が非常に人間臭くて面白い。物語のサポート役として欠かせない存在となってます。 ちなみに、シュネルギアとは、ラテン語で「協調」を意味するそうで、作中で度々「シュネルギアしよう!!」「今を切り抜くためにシュネルギアを!!」という熱い決めセリフとして使われているのが、最高に格好いいのです。 まだ1巻が出たばかりですが、各話にめっちゃ気になるサブキャラたちが配置されていて、名前すら明かされていません。 おそらく他のシュネルギアの搭乗者となるのではないでしょうか。 次巻がとても楽しみです。
ナベテツ
ナベテツ
1年以上前
自分は確実におたくなんですが、コスプレという分野に興味はそれほどなくて、話題になっていたから読んだのですが、本当に色々考えさせられ、心に深く突き刺さりました。 もしこの作品を読んで何も感じない人は、幸運なのか無趣味なのか想像力がないのか、そのどれかだと思います。 コスプレイヤーがいつまでコスプレを続けるのか。その問いかけを「容姿」だけに限定して読んでいるならば、無縁に考えるかもしれません。しかし、この作品が問いかけ、そして考えさせるのは、誰にとっても「年齢」というのは無縁ではいられないからです。 例えば、身体を動かす趣味、ランニングやスキー、草野球やサッカーやフットサルを一番の趣味にしている人は、それを加齢によって諦める未来を想像してしまうと思います。あるいは、スタンディングのライブに行けなくなる年齢。老眼で文字か読めなくなる未来。この作品の表象はコスプレですが、読者は恐らく、自分自身にとって大事な趣味というものを諦める瞬間を、嫌でも考えてしまうのではないかと思います。 勿論、結婚や出産で趣味と離れてしまうことはあると思います(作中でも語られています)。しかし、多分我々の生きている「今」は、それらの人生のイベントの後でも趣味を続けられる環境がある程度整えられています。 かつて、「老いは恥ではないのだよ」と語って40歳を過ぎてからチャンピオンにカムバックしたボクサーもいました。しかし、どうあっても「老い」は現実に訪れるものです。寿命が伸びている今、自分が趣味を諦めることになる可能性について考えることは、体験として貴重なものなのではないかと思います。