ナベテツ
1年以上前
仏教ってなんだろう。多分、ほとんどの人間は気にせずに生きていると思います。お墓参りをする。お葬式で手を合わせる。法事でお坊さんの話を聞く。日常向き合う機会はそんなに多くは無いけど、でも欠かすことは出来ない。
ブッダの説いた教えと、今の日本で日常に溶け込んでいるお坊さんとの距離は、恐ろしく離れています。そして、その距離に対して本気で向き合うお坊さんがいたとしたら―。
作者の朔ユキ蔵先生は、エロスとタナトスを描く作家さんなのですが、この作品は我々の人生に(恐らく)欠くことの出来ない日本の仏教というものを題材にして、自分の持つ作家性とテーマを発揮した作品だと思っています。
主人公の佐伯清玄は日本の坊主としてではなく、仏陀の教えを実践する宗教者として生きていきたいと願っていながら、己の抱える煩悩を捨てることが出来ず、揺れ続けています。
読者は清玄の揺れる心情と、展開される物語に心揺さぶられながら最後まで作品を読み続けることになると思います。
ラストシーンの美しさは、一瞬の時間を永遠のものとした詩のようであり、だからこそ読者の脳裏に忘れ難く刻まれます。最近完結した「神様の横顔」とともに広く読まれて欲しい。そう願って止まない傑作です。