キセキ~3.11に生まれた命~

キセキ~3.11に生まれた命~

2011年3月11日、東日本大震災発生当日。数知れぬ命が失われたその日、被災した東北3県で104人の赤ちゃんが生まれた。表題作『キセキ ~3.11に生まれた命~』は、その1/104の物語。震災の日に出産した母・史佳の姿を詳細に描く渾身のドキュメンタリー。史佳は、自宅で開いていたアロマ教室でのレッスンを休みにして間近に控えた出産に備える。お腹の中の子どもにはすでに「虎」と名づけ、ベガルタ仙台のアカデミーコーチの夫・誠と共に産まれてくるのを楽しみにしていた。運命の3月11日、陣痛で苦しむ史佳とつき添う誠は、後に「東日本大震災」と呼ばれる大地震に見舞われる。雪のちらつく駐車場に一旦は避難するものの、出産の瞬間は目の前に迫っている。めちゃくちゃに壊れ電気は全て止まってしまった病院の中で、奔走する看護師たちに支えられ、史佳と誠の命がけの出産が始まった! 表題作に加え、主婦となった女性たちの内面をみずみずしく描かれた珠玉の2編を収録。 『あの海に、恋をした。』は、平凡な主婦・真保の想い出旅行の物語。結婚して埼玉に住む真保だったが通った高校は鎌倉にあった。その想い出の地に高校時代の友人たちと一泊旅行に出掛ける話が持ち上がる。後悔の残る青春の地に複雑な想いを持ちつつも、友人たちとの旅行を楽しみにしたいた真保。けれど友人たちには次々と急用が入り、気づけばひとり。帰ろうか、とも思った矢先、立ち寄った冬の鎌倉の海で華麗にサーフボードを乗りこなす男性を見かける。それは真保の初恋の人、高校時代に憧れた同級生・水瀬明広だった……。 『engage-エンゲージ-』は趣味がインスタの平凡な主婦・尚美が病院で受けた診断結果に衝撃を受けて姿を消すところから始まる。妻が残すインスタ投稿の意味を探りながら彼女を追いかける夫。夫婦が辿り着いたその場所は? 「平凡な日々にも数え切れないドラマがある」実力派漫画家・折原みとの描き出す、大人の少女漫画にときめこう。

県立御陀仏高校 3

県立御陀仏高校

前巻のご紹介で、この作品は文章でご案内することが不可能であると、書いています。文章を連ねるほど、シュールで、けた外れの作品世界を損ねてしまう気がするからです。この破天荒な作品が登場した時代、日本はバブルの絶頂を迎えていました。バブル経済を懐かしがる方もいらっしゃいますが、一方でこの狂乱の時代はかけがえのない価値を取り返しのつかない形で破壊し、多くの人々がその潮流とともに自分を見失っていきました。しかし、「県立御陀仏高校」の視点は、あくまでも漫画表現を創造的に読者に届ける、というプロのこだわりに貫かれています。描かれる世界がいかに破天荒で、シュールであっても、漫画を愛する人の感覚の「普遍」に著者は語り掛けています。猫十字社氏は時代に全身体でぶつかりながらも、必死にそれを突き抜けようとしたと感じられます。本作において、ギャグ作品の構成に新たな深化を示した猫十字社氏は、この後、分野を横断してファンタジー作品の傑作「幻獣の國物語」(クィーンズセレクション所収)を執筆します。改めて、著者の苦闘に沿い、「お茶会」→「黒もん」、→「御陀仏」と読み進んで頂くと、傑作ファンタジー「幻獣の國物語」の世界も新たな色彩が加わるかと思います。本作の巻末にはそれぞれ「業猫」という作品が収録されています。時代と対峙した猫十字社氏の真摯な生き方が垣間見られると同時に、この後に続くファンタジー作品の孤高の輝きを生み出した背景を読み取れます。

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