金沢シャッターガール

一期一会を撮った夏

金沢シャッターガール 桐木憲一
名無し

金沢で生まれ育った女子高生・花菜は高校では写真部所属。 写真が好きだが将来は写真の道へ、と決心しているわけではない。 母親が反対しているから、というより、結論を先送りにして、 母親と本気で向かい合わない中途半端な状態だった。 夏休み、花菜はドイツから来た写真家・ユーリと知り合い、 撮影の手伝いをすることになる。 ユーリは父がドイツ人、母が日本人。 ユーリが物心つく前に離婚した母は 故郷の日本の古都、ここ金沢にいるらしい。 ユーリの来日・金沢訪問は母親を探すのも目的だった。 だがユーリは必死にガムシャラに母を探すつもりはないらしい。 「写真も出会いも偶然の産物」と。 そんなユーリに花菜は、金沢出身の文豪・室生犀星の詩、 「誰かをさがすために」を読み伝える。 この漫画は北陸新幹線の金沢開通を記念し連動した、 タイアップ的な漫画らしい。 だからだろうけれど、金沢観光案内的に、 写真撮影スポットを巡り紹介する面が盛り込まれた ストーリーになっている印象を受けた。 観光案内漫画としても良く出来た漫画だと思う。 しかしカメラや写真撮影に知識がない自分には、 この漫画を写真や撮影が好きだ、という人からみたら どう評価するかは判らなかった。浅いのか深いのか。 良く言えばライト感覚での金沢紹介漫画、 悪く言えばインスタ映え撮影スポット紹介漫画、 そんな漫画かな、と思いながら読んでいった。 だが外国人とのハーフでありながら金沢の文化や街並みを愛でて、 それでいて母親に焦がれ、慕いながらも自然体でいるユーリ、 普通の女子高生だが、それだけに、そしてそれ以上に 思春期的な悩みを持っていた花菜とのストーリーが だんだんと面白く、考えさせられる話になっていった。 ユーリ自身は自然体で写真を撮っているが、 それは漠然と撮っているというのとは違うらしい。 一方、この漫画にはユーリや花菜以外の写真家も登場する。 最初からモデルを使いアングルを決めて撮影する写真家とか。 それはそれで価値を認めている感じがした。 けして、自然体が良い、演出は駄目、というものでもないよ、と。 どうやら写真撮影にも色々な価値感やスタイルがあるのだな、 人それぞれの人生や情愛や価値観もいろいろあるように、 読み終えて、そういうことが判ったようなつもりになった。

渡り鳥とカタツムリ

キャンピングカーで愛犬とおいしいコーヒーと

渡り鳥とカタツムリ 高津マコト
兎来栄寿
兎来栄寿

ワニブックスによる新レーベル「Chrunch Comics」レーベルの初単行本です。 青い空と海、白い砂浜をバックに笑顔を浮かべる男女と犬。白+青を基調にし、帯までオシャレにデザインされて夏の爽やかさを演出する外装に心が踊ります。 ただ、軽やかな表紙に反して物語の始まりは少しだけ重いです。表紙に書かれた青年・雲平はややブラックな会社で働いていることに疑問を覚え、退社したいと思いながらも親には止められているという状況。そんな時に、彼を自殺志願者かと思った絵本作家のつぐみと出逢います。 つぐみはアルビレオ号と名付けたキャンピングカーに乗り、愛犬のうめまよと共に全国を旅する絵本作家の女性。その自由奔放な生き方に雲平は刺激を受け、彼も行脚に繰り出すこととなります。 自分だけの秘密基地で移動しながら愛犬と戯れる豊かな時間。行きたいと思ったところに行けて、各地の温泉に入ったり美味しいものを食べたりする日々。これに憧れを持たない人がいるでしょうか! 読んでいたら、ミルで豆から挽いたコーヒーの香りを楽しみながら、ポップアップルーフで満天の星空を眺める豊かな時間を過ごしたくなります。 まったく手が届かないことではないものの、今の生活があるためにその選択肢を取れないという人も多いでしょう。しかし、一歩踏み出せばこういう世界で生きることもできるのだと教えてくれます。 旅先で出逢うさまざまな人との交流模様も面白く、各地の美味しそうな名物なども登場し、旅の醍醐味を疑似体験できます。実際の旅と同じように良いことも悪いことも起きますが、それがいい。読んでいて心が晴れやかになっていく物語です。

商店街ものがたり

愛にあふれた商店街のものがたり

商店街ものがたり サンバ前川
野愛
野愛

人間模様がしっかりあって、とんでもなく悪いやつは出てこなくて、もどかしくなったりちょっとだけすれ違ったりしながらもすんなり読めてちゃんとエロい。つまりはとてもよいBLでした。 数年ぶりに帰った地元で、相変わらず可愛いけど大人になった幼なじみと再会するのがまず良い。 大人になったなあ…と思ったら大人になりすぎちゃってドエロいビッチになっちゃってるのも良い。 ドエロいビッチなのに相変わらず可愛くて、俺がいないとダメだって思わされちゃって、でも商店街のために誰よりも奮闘してる立派な人間になっていて…寂しいような切ないような気持ちになってしまうんですね。 テンポ良く進む割に主人公・翔大と幼なじみ・麻琴の心模様はしっかり描かれているので、しっかりがっつり感情移入できます。 純情ビッチ麻琴が可愛くて可愛くて仕方ないし、可愛いだけじゃなく芯の強さや愛の深さも伝わります。麻琴とそういう関係になってる商店街の男たちも案外いいやつらなんです。 いいですね。いい商店街ですね。これからもみんな幸せでいてくださいね…!という気持ちになりました。 BのLの作品のことを「山なしオチなし意味なし」なんて言葉であらわすこともあるけれど、人を愛したら山も谷もあるしハッピーエンド以外のオチなんていらないし人が愛し合うことに意味があるとかないとかどうだっていいじゃないか。 2人が幸せならなんだっていい。この商店街には愛がある。

八百森のエリー

野菜の流通で繋ぐもの、繋げる意味

八百森のエリー 仔鹿リナ
名無し

グルメ漫画でもありビジネス漫画でもあり 人間ドラマでもあるという感じがする良い漫画。 いきなり第一話から第三話くらいにかけて 青果市場・仲卸という野菜流通の現場が とてもリアルに判り易く描かれている。 漫画らしく都合よすぎではあるがテンポが良いし、 深刻な場面も適度に愛嬌のある展開で面白く読める。 その中に野菜への愛着と人間関係の愛情みたいなものも ちゃんと、たっぷりと入っているが、 けしてくどくなく、ベタベタしたところがない。 まさに新鮮野菜の風味が生きている煮物、 という感じの美味しい面白さ(笑) グルメ漫画は、美味いが絶対、になりやすい。 ビジネス漫画は、リアルに描きすぎると怜悧な感じになりやすい。 人情漫画は強く描きすぎると、重くてクドクなりがち。 その点「八百森のエリー」は、どれかの要素が突出しすぎたり することがなくて話が上手く整っている感じがする。 バランスがとれているというか。くどくなくて後味がいい。 読後感は健康的に良いと言ってもいいだろう。 野菜をメインに扱った漫画だけに。 リアリティがない?部分をあえてあげるとすれば、 やたらと長身イケメン、ややジャニーズ系、少々BLっぽい、 そんなキャラが市場男子として多数登場することか(笑)