火消しの鳶

江戸の魅力が濃縮された60ページ

火消しの鳶 坂上暁仁
なかやま
なかやま

350年前の江戸に住む人々を繊細に描きつつ、魅せるアクション部分は迫力のある見開きとセリフ回しで、非常に読み応えのある一作 江戸時代の「火消し」をテーマに取り扱った本作品 当時の江戸は紙と木で出来た世界的な人口過密都市 そのため、火事は人々の命取りです。そんな人々を火事から守るのが町火消でした、彼らは町人で構成された消防隊で、普段は大工などの本職をこなしつつ火事の際には現場へ急行します。 ※タイトルの「鳶」は「鳶職(とびしょく)」の事を表していると思います そんな町火消は江戸の人々のヒーローだった! ■この作品の魅力 『その1:画力とスピード感』 表紙にもなっているシーンが当時の消火方法 「建物を壊して火を止める」まさにそのシーンとなっています。 建物を壊すまでの流れがスピーディー&ダイナミック&カッコイイが揃っています。 流れるように壊していくのですが、そのスピードに自分も巻き込まれるような引き込み力があります 『その2:書き込みと読み応え』 もしお手元にこの作品があるのであれば、最初は勢いに任せて読み そのあと、ひとコマひとコマ絵画を見るように見てください おそらくこの作品にはモブと言われる登場人物は存在しません、描かれている江戸の人々全員に生活が見えてきます。 この部分は元々作者さんの二年間の火消しの研究成果としてアウトプットが本作品の出自ということがあると思います。 『その3:鳶の目線で描かれる江戸』 主人公たち火消しは「鳶職」をしているため、作中に高い目線での江戸の町並みがこれまた繊細に描かれます。 自分はあまり、江戸という町をこの目線で多く描く作品を見たことがなく新鮮でした。 ■こんな人にオススメ シンプルなヒーロー物作品としても読んでもいいですが、味わえば味わうほど味が出る作品で、1話読み切りでありながら色々な想像を膨らますことが出来る作品です。 普段同人誌読まな無いけど、読み切り作品が好きな人に是非読んでもらいたい一作です。 この作品は2020年2月のコミティア131にて発行された同人誌です ※同人誌にも関わらず登録してくださったマンバさんに感謝、ありがとうございます https://twitter.com/sakakky1090/status/1227121287186636800

完全版 ピーナッツ全集

海外漫画の最良の入り口

完全版 ピーナッツ全集 チャールズ・M・シュルツ 谷川俊太郎
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

ビル・ワターソン『カルヴィン&ホッブス』のクチコミに書いたことだが、日本では本当に海外の漫画が読まれない。 この『ピーナッツ』ですら、「スヌーピー」というキャラクターを知る人の数に比べたら(いや、日本国民全員でしょう、それは)、実際に漫画を読んだ人は驚くほど少ないだろう。 とは言え、谷川俊太郎の美事な仕事によって、『ピーナッツ』は版元を変えながら、延々と刊行され続けている。誠に喜ばしいことである。(アメリカへ会いに行った谷川に、シュルツが「翻訳できるなんて、あなたは私よりもジョークが上手いんでしょうねえ」と感謝していた記憶がある) ごく最近刊行が始まった『完全版 ピーナッツ全集』は、本書「15」が第1回配本分となる。 個人的には、70年代のピーナッツが、今の日本人読者にとっては一番違和感なく楽しめると思うので、できれば、近いうちに刊行されるであろう「12~14」を、まずはお薦めしたい。 ちなみに、50年代や60年代は、結構絵柄が違うので、少し戸惑うと思います。 いや、もっと正直に言うと、ツル・コミック『PEANUTS BOOKS』か角川書店『SNOOPY BOOKS』、例の縦長の、横に英語が載ってるヤツを古本で探して読むのが一番良いですよ。 なんと言っても、我らが西の巨人いしいひさいちの『ドーナツブックス』が思いっ切り形をパクった、4コマ漫画の聖典なのですから。 とにかく、海外の漫画(コミック・ストリップ、カーツゥーン)を読み味わうということにおいて、これほど日本人にとってイージーな作品はない。 チャーリー・ブラウンもサリーもルーシーもライナスもシュレーダーもピッグペンもペパーミントパティも、皆、我ら極東の民と同じように人生に悩む「隣人」である。スヌーピーはいつだって、尊大で小心でええカッコしいで、魅力的だ。 『ピーナッツ』なら、誰でも海外の漫画を心から楽しむことができるのだ。 そして、この極めた優れた「入り口」を通ることが、世界中の漫画へのパスポートになる、と自分の経験を考えて断言できるのです。