ご主人様と獣耳の少女メル

「保護」から本当の愛情へ…

ご主人様と獣耳の少女メル 伊藤ハチ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

人間不信から老メイドと共に、大きな屋敷に閉じ籠ってきた女性は、老メイドの提案で一人の獣人を引き取る事にした。メイドとして働く獣人の少女・メルと、主人となった女性は、互いを思い遣る優しい関係を築いていく……。 ♡♡♡♡♡ 英国風世界観の美麗さと冒頭2話の優しいお話に、何処までも温かな物語が続いていくことを願ってしまう。しかし、事はそう簡単には進まない。 第3話から語られ始める「獣人」の設定は、ついスルッと受け入れてしまいそうになるが、「国家の保護管理」を示唆するワードがどうしても心に引っかかる。そうするとメルが日頃装着しているある装具が、妙にリアルな重さを常に思い出させるようになる。 世間を知らないメルは主人に信頼を寄せ、心安らぎ、親愛の情を寄せる。そして主人もメルの純粋さに、次第に「人を信じる心」を思い出す。 心を交わし、温もりを確かめ合う二人と、それを支える老メイドの生活は穏やかで、心温まる。しかし、メルの親愛の情が別のものに変容し、主人がそれを受け入れたいと思った時、「獣人」の設定はメルの装具のように生々しく二人に纏わり付く。 優しい日々に不安を潜ませ、二人の行く末の幸福を祈る物語として、または「国家・管理・差別」といった問題意識の寓話としても重みのある作品だ。

OLさんと猫のはなし

日向で寄り添う、寂しい二人。 #1巻応援

OLさんと猫のはなし 嵩乃朔
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

対外的には強い女として、孤独を抱えて生きているOLの伊勢見小春は、雨の夜に木陰で震える子猫を拾った……はずだったのに……。 人の姿と猫の姿を行き来する「化け猫(自称)」の幼女を、無碍にできないOLが庇護する……寂しい二人が寄り添う生活が、始まる。 ♡♡♡♡♡ 猫の人間変化といえば猫又が有名だが、あれは長寿の猫がなるもの。産まれたばかりのこの「化け猫」が、どういう存在なのかは1巻では明かされない。 そういうこと以前に、寂しそうな子猫を拾った小春は、そのヤンチャぶりや、考えの分からなさに振り回され、苛立ってしまう。 小春はそんな子猫を面倒臭いと思いながらも、つい孤独な子猫をかまってしまう。寂しさを抱える小春の相反する行動に、どうしても共感してしまう。 一方子猫の方は、常に何かに怯えている。少しずつ安心していく彼女……名前を付けられ、明るい笑顔を向ける瞬間の愛らしさが、心に染みる。 幾つかの出来事を経て、二人の間にはまだ、温かな信頼感が生まれたばかり。2巻に続く新たな展開が仄めかされるが、とりあえずはクルクル表情の変わる愛らしい猫耳幼女と不器用な保護者の、ぎこちなくも温かい交流に、優しい気持ちを貰いたい。

ココログイン

あなたの心に、繋がりたい♪ #1巻応援

ココログイン こがわみさき
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

「ココログイン」という言葉がもう、ステキな発明だと思うわけです。 ゲーム世界を始め、何らかの特殊空間・時間軸に自己が接続する事を「ログイン」と言うなら、他人の精神、もしくは自分の内面の未知の領域に接続する瞬間を「心にログイン=ココログイン」と呼ぶのは、ちょっと冒険の匂いがしてワクワクする。 相手の心を探り、暗中模索しているうちにふと、隠れていた秘密に触れた瞬間を「あっ今、ココログインした」なんて言ってみるのは、なかなかしっくりくるなぁと、この連作集を読んで思ったりしました。 心の繋がらなさと、心が繋がる瞬間の諸相を描いた連作集『ココログイン』。優しく晴々とした気分をくれる。 ●Hocus Pocus 東北地方の高校に、方言を話さない転校生が転入。慣れない響きの言葉を使う者に対しての、微妙な距離感と憧れはいずれ……。 ●Träumerei(前後編) お昼休みの校内放送は誰が話している?秘密を巡る男子と女子とおじさん先生と。 ●Contact(前後編) ゲーム世界の友達とオフ会。リアルなコミュニケーションに自信の無い二人が、現実クエストに挑む! ●Grandma's Song(前後編) 好きだった祖母はボケたのかな……同じ魔法少女アニメを見続ける祖母は、私の彼氏に頬を赤らめ……どういう事!? ●My Place 滅多に家から出ない少女が気になる少年と、少女を守りたい隣人。 ●In Other Words 空を飛ぶ夢は不安の夢。そう告げる男子をじっと見る女子。思い当たる節はあるのだ。

ゆりなつ

甘美…島の民宿に百合の花咲く!

ゆりなつ もちオーレ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

とある島の民宿「かがや」は女性だけの一家で切り盛りする小さな宿。そこには様々な女性二人組がやって来る。 女性二人組の来客に対応する度、従業員の姉妹達はそれぞれに「萌え上がる」。長女は二人を百合方面にからかい、次女は横目で二人を伺い、三女は二人を盗撮・盗聴しようとし(コラっ)、五女は自分が何とかしなきゃ!とソワソワする。 そんな百合民宿では次々百合カップルが生まれる一方、姉妹達はそれぞれの「姉妹百合」に身を焦がす。さらには彼女達の母の、民宿の女将も、板前の姉(姉妹の叔母)といい感じ……。 何だこれ、百合成分が濃すぎる! 2ページに一回は悶えてる……。 しかし決して、甘く楽しい恋愛がストレートに描かれはしない。 描かれるのは、プライドのために相手の弱みを突き、優位に立って安心を得ようとする者と、それを受け止める者の様々な在り方。そして相手を安心させてマウントを解き、素直にさせて、ようやく向き合う瞬間の高揚感! こんな脳味噌がはち切れそうな幸せな読書体験があるから、「百合」はやめられない。そう思わせてくれる作品だ。 ♡♡♡♡♡ 例えば1巻を読んで気に入ってもらえたら、出来れば2巻の前にもちオーレ先生の別作品『出会い系サイトで妹と出会う話』を読んでいただきたい(『出会い系サイトで〜』は、わかりづらいが2巻ある)。表題作でどうにも救われなかった一人の女性のエピソードが、『ゆりなつ』の2〜3巻に描かれている。

出会い系サイトで妹と出会う話

愛しさとやましさ…からの、多幸感。

出会い系サイトで妹と出会う話 もちオーレ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

同性愛特有の苦しみとして「やましさ」があるのは、お分かりいただけると思う。 道ならぬ恋に身を焦がし、罪悪感に陰で泣き、恋そのものを捨てようと苦しむお話を、百合好きは狂ったように読み漁り、似たような話で何度も泣きむせぶ。それが自分にとって真に迫った、大切な感情だから。 それがさらに、血の繋がった者……姉妹同士の恋愛であった時の、背徳感とNo Future感。しかし絶望的であればあるほど、奇跡的に2人が結ばれた時の多幸感たるや……! 本作単行本の「無印版」と「ー333日目ー版」の半分を使って語られる、まるで実録物みたいなタイトルの表題作は、出会いはタイトル通りなのだが、姉妹が互いに秘めていた気持ちと、ままならず離れていた時間の重さ、そしてあり得ない偶然の出会いの奇跡を何とか繋ぎ止めようとする、強い気持ちに胸打たれる。 強い想いは却って嫉妬にもなり、一筋縄ではいかない姉妹の関係に目が離せなくなる。こんなに重い苦しみと執着と、愛情と多幸感、なかなか味わえない。 他に掲載されている短編も、やましさや嫉妬、憎しみがちょっと歪んだ愛情へとスライドしていく「昏い」トキメキに満ちていて、一つ一つが印象深い。 萌えや少女漫画的「可愛さ」を排したもちオーレ先生の絵柄は、昏い感情表現や、下衆なコメディに合っている。特に恥ずかしさ、やましさ、悪巧みの表現は癖になりそう。そして恋に落ちた女性は、却って可愛く見えてくる不思議。 ♡♡♡♡♡ それにしても表題作で姉に振られた女性に関して、扱いが酷いので可哀想……という貴方は、『ゆりなつ』全3巻をご覧いただきたい。第3巻で……!

仲谷鳰短編集

安心と信頼の仲谷鳰ブランド

仲谷鳰短編集 仲谷鳰
兎来栄寿
兎来栄寿

『やがて君になる』仲谷鳰さんの初短編集。ただし、9篇の内の5篇は百合アンソロジーの『エクレア』に収録されていた作品のため、熱心なファンにとっては既読作品が多いであろう点は注意。 とはいえ、『エクレア』の中でも正直に言って突出してハイレベルなことも多い仲谷さんの作品群。改めて読み、つくづくマンガを描くのが上手い方だなと再確認しました。特にラスト1,2ページでの展開やセリフ回しが絶妙で、短編で輝く部分です。 「勇者は三回世界を救う」は本書の中で唯一のアナログペン入れ作品だそうですが、端然とした絵の魅力は何ら変わることがありません。また、珍しく百合要素のない話でもありますが、純粋にどんな話を描いても面白くできるだろうなということが伝わってくる作品でもありました。 作品自体ももちろんですが、同人誌発で商業デビュー作ともなった表題作「さよならオルタ」と『やがて君になる』の双方に横たわる「人が誰かになろうとする行為」についての言及など、幕間の的確な自己作品分析も面白かったです。 百合好きにはもちろん、そうでない方にもここを経て願わくば『やがて君になる』まで辿り着いてみて欲しい、お薦めの一冊です。

カゼキル GREAT TRAIL RUNNERS

読むと駆け出したくなる!「トレイルランニング」という世界

カゼキル GREAT TRAIL RUNNERS 本橋ユウコ YAMAP
兎来栄寿
兎来栄寿

名前は知ってるけれど、詳しいことは知らない。そんな世界を描いた作品というのは興味深く読めるものです。 本作が描くのは「トレイルランニング」。舗装されていない山野を駆け抜けるスポーツです。元々中学で陸上を頑張っていたものの最後にしてしまった大失敗により競技から離れてしまった主人公が、高校生になりトレイルランニングに出逢う所から物語は始まります。 私の地元である奈良県の吉野山でも、「弘法大師の道」として空海の歩んだと言われる吉野山〜高野山までの道を駆けるトレランが開催されています。山上からの美しい景色を見るために普段から数時間程度の山歩きは楽しみでしかない私は、多少の興味も持っていました。 作中でも、過酷な競技ではあるものの自然の中で得られる安らぎや綺麗な景色、そしてその環境で走ることで走る自体の楽しさを改めて主人公が見出していくシーンに爽快感があります。体を動かすのが好きな人なら、トレイルランニングをしてみたくなるかもしれません。 また、同じ高校生男子のトレイルランナーとして癖のあるキャラも多数登場。群像劇的な側面でも今後もより楽しみです。