~ガキの頃から~ 一色まこと短編集

いい短編が多い

~ガキの頃から~ 一色まこと短編集 一色まこと
ひさぴよ
ひさぴよ

昭和50年代世代から見ても、全てがノスタルジックで、一回り上の世代の、思い出の記憶を見ているような気持ちになる。作品内にがこの時代だったからこその描写があるので、今の若い人が読んだらかなりギャップを感じる場面があるかもしれない。そういう時代だったんだなーくらいの感じで読むのが良いと思う。 どの作品の登場人物にも共通するのは、恥ずかしいほど本音を赤裸々に語って不器用にぶつかってく姿。一色まことの描く人物たちは、男女どちらの視点にも長けていて、特に男目線で読んでいると、作者は男性作家なんじゃないかとすら思ってしまう生々しさを感じる。 改めて読み直してみると、3話目の「野郎なんかにゃわかるまい!」をはじめ、女性のルッキズムに関わる話も多く、マンバ通信のトミヤマユキコさんの連載コラム「少女マンガのブサイク女子考」のテーマとも少し被る部分がある。青年漫画とはいえ、同じテーマとして興味があれば読んでみるのも有りだと思う。 https://manba.co.jp/manba_magazine_authors/18 短編の中で、特に好きで何度か読み直してるのは、「いつも一緒」という幼馴染の太った男女が一緒にダイエットするお話。これも見た目の悩みから端を発するストーリーなのだけど、2人が頑張る過程と、オチ終わりは何度読んでも良い読後感があるので、この短編だけでも強くお勧めしたい。もちろん表題作も。 過去の初期短編集「どいつもこいつも」も読みたいのだけど、絶版で未だに読めてないのでいつか読みたい。(電子化のリクエストをしておこう)

シャトル・プリンセス

美しすぎる日本代表の、重責と苦闘。

シャトル・プリンセス 咲香里
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

【世界と戦うアスリート漫画③〜スポーツコラム風に】 2020年3月17日現在、バドミントン女子ダブルスの世界ランキング十傑には、日本ペアが三組入っている。永く日本のトップであった福島×廣田組を、永原×松本組が猛追。そして2016リオ五輪金の髙橋×松友組は、2020東京五輪代表の二枠から遠ざかりつつある。 (2021.7.29追記あり) 新勢力の後塵を拝している髙橋×松友組も、かつては2012ロンドン五輪銀の藤井×垣岩組を乗り越えてきた。 世界レベルの国内選手と争い、乗り越える事で進化してきた、日本バドの女子ダブルス。その源流には、小椋×潮田組という伝説がいた。ルックスと実力を兼ね備えた二人には、余りにも過剰な期待と注目が集まったものだった。 ★★★★★ 『シャトル・プリンセス』の主人公は、日本トップクラスの女子バドミントン選手達。 インターハイを制して高校を卒業した有沢は、勝ち続ける事の重圧からバドミントン自体を辞めたいと考えるが、気迫で圧倒してくる西条に惹かれ、西条とのダブルスを申し入れる。 二人はすぐに頭角を現し、日本の頂点を獲ると世界への挑戦を始める。 界隈からの期待とやっかみ、ビジュアル面での過剰な人気、それに反して結果を残せないことへの批判、そして世界の壁。……2013年発表のこの作品は、恐らく2008年迄に小椋×潮田組が通ってきたと思われる苦闘の歴史をなぞる。 その上で、勝気で正直な西条がストレートに状況への違和感を表明するのを、若いのに落ち着いた有沢が冷静に受け止める、というやり取りで、過剰な重圧を二人で乗り越える過程が描かれ、この二人なら……という期待感が高まる。 長年『スマッシュ!』で高校生のバドミントン競技を描いてこられた咲香里先生が、この世界を見てこられた知見が詰まっているのだろう。観戦者の私が感じていた「オグシオ・フィーバー」への違和感も、当事者達の「それでも競技が注目されたい」という願いも、選手達の複雑な思いも……様々な思惑の絡んだ「女子ダブルス」が描かれていて、これは相当な問題作となるかも、と期待しながら次巻を待っていた。 ……残念ながら1巻で(中途半端な状態で)打ち切りのようだが、今後も各競技で現れるだろう「美しすぎる○○選手」を考え、日本代表の重責に思いを馳せるために、続刊は無いことを念頭に置いて、読んでみてもいいかもしれない。