いぶり暮らし

香りで深まる生活

いぶり暮らし 大島千春
名無し

同棲生活3年目。裕福ではないが貧乏というほどでもない。 倹約生活をそこそこ楽しんだりしながら暮らしている ごく普通のカップル。 互いに美味しいものを食べたい食べさせたいと思って やってみた燻製料理で、二人の生活に彩りと深みが 加わっていく。 二人で作って、わかることがあったり、 燻しあがるのを待ちながら話をして気がつくことがあったり、 一緒に食べて、確認しあうことがあったり。 燻製を作って味わって、味や香りや自分や相手について 初めてわかったり改めて思ったことなどが ゆっくりと二人の生活に生まれて染み込んでいく。 同棲カップルが主人公なので、当然、 二人の会話やそれぞれのモノローグのシーンが多い。 燻製料理の説明やストーリーの説明的な展開とかにも。 そのあたりの描写が凄く良い。 自然な会話で説明くさくない。 燻製が出来上がるまでの30分とか1時間とかのシーンで、 同じ様なコマを背景に二人の会話だけが進んでいく、 みたいなコマが連続したりするのだけれど、 そういうシーンが、単調で些細な変化しかないけれど、 その些細な一言一言それぞれを愛おしく感じたりする、 そんな日常生活を味あわせてくれるような気持ちになる。 派手に賑やかに豪華に料理して味わうのもいいけれど、 静かに燻製料理を作って味わうのもいいな、 それが好きな人と一緒になら尚いいな、と思わせる漫画。

野宮警部補は許さない

巨悪を公憤で撃たずに、小悪党を私憤で弄ぶ痛快さ

野宮警部補は許さない 宵田佳
名無し

警察官っていうのは、なにかあったら 「警察官ともあろうものが」と糾弾される。 一般的な職業に比べ、ストレスの溜まり方が強い 大変な職業らしい。 なのでこのマンガは、警察内部ではホントに こんな低レベルな揉め事が、ストレス解消策として 実際に頻発しているのかもしれないと 思ってしまうリアリティはある。 だからといってストレス解消をパワハラ的、モラハラ的な 理不尽な手段で行使し発散しても良い、とはならないわけで、 そこに悲哀が生じてしまう。 このマンガは、そこからさらに一捻りして、 そういった警察内部の揉め事や問題点を 野宮警部補が論理的でいて、ときに詐欺的だったりする手法で、 小悪党を成敗するという痛快ギャグ漫画に仕立てている。 しかし野宮警部補は、けして正義感や道徳観から 巨悪を正そうとは思っていない。 倫理観で行動をしていない。 子供じみた感情や気分、過去の恨みからの私憤で行動している。 「野宮警部補は許さない!」の、許さない、は けして正義感や公的な憤慨からの「許さない」ではなく、 個人的な好き嫌いや恨みが原動力になっている 「許さない」だと思う。 そこには実は「正義」はない。 だが、だからこそ、薄っぺらい正義感や 実は現実的でない勧善懲悪話よりも 独特な価値感やリアリティによる 爆笑ギャグを感じてしまって面白かった。

綿谷さんの友だち

綿谷さんの"真っ直ぐな言葉"が心に響く

綿谷さんの友だち 大島千春
sogor25
sogor25

相手の言ったことを文字通りに受け取ることしか出来ない女子高生・綿谷さん。「凪のお暇」の凪が"空気を読みすぎる"人なら、彼女は"空気を読むことができない"人かもしれない。そんな彼女と、彼女を取り巻くクラスメイトとの物語。 ともすると綿谷さんは"発達障害"や"アスペルガー症候群"などの"病名"をもって語られる存在なのかもしれない。もちろんそうすることで得られる物語的な効果もあるとは思うけど、今作では特段そういう説明のしかたをせず、あくまでよくある高校での一風景として綿谷さんと周囲の日常を描いている。それによって、極端に空気を読まない綿谷さんの存在がより親身なものとして感じられ、現実感のある物語になっている。 そして、空気を読めないことが"真っ直ぐな言葉"となって周囲の人に届くことにより、分かり合えない」のすれ違いから友だちになるまでの過程が高校生活の1ページとしてキレイに可視化されている。 主人公の振る舞いが周りに影響を与えていくというのは「町田くんの世界」や「スキップとローファー」とも近いかもしれないが、興味深いのは基本的に各話の語りの中心が綿谷さんではなくその"友だち"の側にあること。それは各話サブタイトルが友だちの名前になっていることからも分かるし、後から思い返すと作品のタイトル自体も「綿谷さんの"友だち"」だったと気付かされる。そういう意味ではもしかしたら「桐島、部活やめるってよ」に近い演出なのかもしれない。ただ、他者視点が多いなかで綿谷さんの視点でも要所で描かれており、実際に読んでみるとかなり極端な存在なはずの綿谷さんに対しても感情移入できるように作られている。 綿谷さん視点でも"友だち"視点で見ても、いずれにしても作品全体の"真っ直ぐさ"が純粋に心に響く作品。 1巻まで読了。

野宮警部補は許さない

ゲスをもってゲスを制す痛快ストーリー

野宮警部補は許さない 宵田佳
六文銭
六文銭

警視庁内にある「特別対応室」 ここは、警察内におこるトラブル(ハラスメントとか、怠慢とか)を表沙汰になる前に対応していく部署。 別に「監察」という部署もあって、ここはより大きな事件・不祥事を扱うので、特別対応室は、そのサポートというのが役目。 警視庁内も、一般企業以上にガバナンスが効いてて驚きます。 それだけ暴走しやすいということなのでしょう。 本作は、そんな「特別対応室」のお話。 警察官といえど全員が善人ではありません。 小悪党じみた輩がゴロゴロいます。 この作品が面白いのは、「悪は絶対許さない!」みたいな正義感をもった主人公が情熱的に対応する・・・という展開ではなく、外面だけが良い微妙に性格の悪い主人公野宮警部補が裁いていくところ。 逃げ場のない状態まで証拠を集め、時に嫌らしく、時にネチっこいやり方で、小悪党たちをこらしめていく様は、痛快の一言です。 悪口をノートに書いたりする大人気ない様も、どこかチャーミングに映るから不思議。 2巻以降は、監察とのセクショナリズムや権力抗争など、警察組織の闇が垣間見えてきて、物語にグッと奥行きが出て今後の展開が楽しみです。 ともあれば、基本はゲスをもってゲスを制す!的な展開は、読めば爽快感間違いなしな作品です。

綿谷さんの友だち

正直に生きにくい人間の清涼剤

綿谷さんの友だち 大島千春
六文銭
六文銭

同著者の「いぶり暮らし」が好きで、その作家さんの新作ということで読了。 いぶり暮らしでは、グルメ漫画の面よりも、燻製生活を通しての同居人二人の関係や周囲の人間とのやりとりーーいわゆる「人間模様」が好きだっただけに、この作品はよりその点にフォーカスした作品で、個人的にドンズバでした。 綿谷さんは、周囲とあわせられず、空気も読めず、冗談も通じない、不器用な人間です。 「シャーペンの芯ちょっともらえない?」 と聞かれ 「ちょっとって、具体的にどれくらい?」 と聞き返すような感じ。 言葉通りにしか受け止められず、本音でしか生きられない。 皮肉も通じない。 なんと生きにくいだろうなぁと思いながら、どこか彼女を羨ましく思えてしまう。 周囲にあわせるだけの、風見鶏になっている自分としては。 最初は一人だった綿谷さんも、徐々に理解され、また綿谷さんも理解し(学習とも?)、友だちが増えていって、その過程も読んでいてい気持ちいいです。こういう人が報われるのって、嬉しくなるのです。 また、人間関係うまくいってそうなクラスメイトも、内面では色々問題を抱えていて、今後それがどう展開されていくか楽しみです。

めんけぇなぁ えみちゃん

秋田弁女子の春夏秋冬

めんけぇなぁ えみちゃん 沼ちよ子
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

おばあちゃんと二人暮らしで秋田弁強めの中二女子・えみちゃん。田舎暮らしの毎日はとっても楽しい! 読んでいくと、秋田独自のイベントや風物や食、細かな風習の多さに驚かされる。意外と楽しさいっぱいの秋田を素直に享受し、楽しむえみちゃんは、最初から最後まで純粋で愛らしい。 さらに共に楽しむ方言少なめ幼馴染のかなこ、カルチャーショックを楽しむ東京出身のみよしさんの三人娘が揃うと、途端に賑やかになって楽しい。 食べること大好き、演歌大好き、ゆるキャラ大好きな、まだまだ垢抜けないえみちゃんには、「素直」という言葉がよく似合う。その感性を通して見る世界のきらめきは、例えば『明日ちゃんのセーラー服』と同じような眩しい感動を与えてくれる。 春の芽吹きにときめき、眩しい夏に弾け、秋の実りに喜び、長い冬にも楽しみを見つける、とことん前向きなえみちゃんと、無数に散りばめられた「秋田あるある」を楽しむ、どこまでも明るい秋田漫画。方言を使いたくなる! (ちょっと調べた限りでは、ここまでしっかり秋田を舞台にした漫画って、見当たらない。そういう意味でもレアな漫画かもしれない、多分)