蒼く輝きて~日本最初の女医、荻野吟子~ 単行本版

明治を生きた日本初の女性医師の物語 #完結応援

蒼く輝きて~日本最初の女医、荻野吟子~ 単行本版 寺館和子
名無し

2022年4月4日のDoodleが荻野吟子ということで、長らく積ん読していたこちらの作品を読みました。 医療という閉ざされていた未踏の分野を女性が先陣切って歩んでいく物語ですが、現代に通じる部分が想像より遥かに多く、130年以上昔の話だとは思えないくらい感情移入してしまいました。 https://www.google.com/doodles/dr-ogino-ginkos-171st-birthday 本来であれば、医師になるために一番努力が必要な部分というのは勉学で、そこで存分に苦労すべきです。しかし、吟子さんは学業以外のところに苦労が多すぎる。 「女が医者だなんて」と笑われたり見下されるのは当然で、医師になれる確証のないまま女子師範学校に通ったのち、医学校に通う許可は苦労して勝ち取らねばならず、通えるようになったと思えば女子用の便所など当然なく、さらには同級生からの下劣な中傷・セクハラ。卒業後は開業試験の願書を4度却下される……。 性別関わらず、新たに権利を獲得しようとした際に「既に権利を持っている側が全くしていない理不尽な苦労を課される」というのは今の時代まで変わらないですね。 吟子さんの苦境が描かれると同時に、女子でありながら幼い頃から論語に触れされてもらえて、末っ子でお金には苦労したことがないという部分も描かれ多面的。 ある昔話ではなく、現実にかつて起きた出来事としてリアルに共感しながら最後まで読むことができました。 (1巻のあとがきの「少なくとも明治政府下では成績の不正は行われなかった」という皮肉が強烈でニヤリとしました。笑い事ではないですが…) マジでもう荻野吟子のガッツ、すごすぎる。 並の女なら心が折れてる苦境の連続。 18歳で嫁ぎ夫の不貞で淋病を移され子供が持てない体になり、西洋医学の治療を受けるが男性の医者と医学生にジロジロと陰部を観察されたうえに卑猥な陰口を叩かれ……。 逆境につぐ逆境で、なんで医者になりたいだけでこんなに苦労しなきゃいけないんだとマジで腹が立ってくる。 そんなクソッタレな現実との戦いの中で、吟子さんを応援してくれた人物もたくさんいて熱い。 資金援助してくれた家族、教養ある先達の女性たち(女流画家・奥原晴湖、義姉妹の契りを交わした両宜塾の師範・松本荻江)、伝統的な医学を教えてくれた漢方医の先生、開業を政治家に掛け合ってくれた実業家・高嶋嘉右衛門。 吟子さんが日本初の公許女医となったのは自身の努力の賜物であることは間違いないですが、その陰に女子教育の開拓を支えた人物をたくさんいたのを知ることができ心強く感じました。 読み終わってみて、どこからどこまでが史実で、どこから脚色なのか知るために文献を読んでみたいです。 荻野吟子生誕171年という日に読めてよかったです。

子宮を貸して 単行本版

昼ドラのような怒涛の展開

子宮を貸して 単行本版 朝野いずみ 嵯峨根グミ
六文銭
六文銭

優しい夫に、裕福な生活。 絵に描いたような幸せ家族だったが、子供には恵まれなかった主人公。 何年もつらい不妊治療をするも結果は、妊娠に至らず。 最後の手段として、「代理母出産」を選択。 代理母役は、見ず知らずの他人ではなく妹に依頼。 妹は姉とは対照的で、暴力をふるう夫に、子沢山の貧しい生活。 お金に困っていた妹夫婦は、多額の謝礼金が貰えることで代理母を引き受けることに。 加えて条件として、当面は生活を逆、つまり、姉の家で姉の夫と暮らすことを提示。 姉は妹の家で生活。 姉の裕福な生活を妬んでいた、妹の仕返しである。 順調に代理母での妊娠がすすんでいたのだが、最終的に失敗。 そして、それを隠そうと姉の夫と関係をもって、さらには妊娠してしまうという流れ。 最終的には、この不貞もバレて、夫は寝取られ、そこから、主人公の破滅が始まるのだが・・・ここまででも、なんという昼ドラ的展開!と驚きました。 救いようのない、胸糞悪い感じが、エグいです。 主人公は主人公で過去、元カレとの間に中絶した背景も夫に隠していて、など次から次へと怒涛のように流れこんでくる感じが、 なんと形容していいかわからなくなるくらい、すごいの一言。 最後は、まぁ、体よくハッピーになりましたが、先の読めない(というか、予想の斜め上をいく突拍子のない感じ)それまでの展開に読む手が止まりませんでした。 一気にとけました。

夫はグレーゾーン 単行本版

予想以上に辛かった 発達障害に悩む大人の物語

夫はグレーゾーン 単行本版 秋野さと
六文銭
六文銭

マイペース、人の気持ちがくめない、会話がうまく噛み合わない、マルチタスクが苦手・・・程度の差はあれど、誰しもあるような問題。 それが重度になっても「障害」と判断されず、かといって「正常」とは言い難いほど生活に影響を与えてしまう。 このような人をグレーゾーンというらしいです。 主人公の夫・優斗はこの層に属しており、生活や職場で諸々迷惑をかけてしまっている状況。 同じようなことが、「ケーキを切れない非行少年たち」でもありました。 判断基準が昔と異なることで知的障害と診断されず、まともに治療されなかった人たちが、社会に出て悩み、苦しみ、結果少年院や刑務所に入ってしまうと。 ともに現代社会の闇ですね。 みんなが普通にできることが自分にはできない その悩みは当人しかわからないもので、上述のように空気が読めないから周囲の人もドンドン離れてしまい孤立していく様は読んでいてシンドかったです。 さらに追い打ちをかけるように、一見優しそうにみえる、主人公の友人が不幸を楽しむクズということ。 もう、救いはないのかと。 結局、誰も助けてくれない様が、世間なんてそんなもんだよな~と そのリアリティさに納得してしまいました。 漫画的に優しくて頼りになるお助けキャラなんて都合よくあらわれないもんです。 みんな面倒な人とは関わりたくないんです。 だからこそ、夫婦で支え合い、助け合っていく感じが際立って良かったです。 奥様にこれだけ大事にされているのは、地獄に仏といった感じでしょうか。 この困難を二人で克服し、強く生きて欲しいです。 この社会に、得も言われぬ生きづらさ抱えている人がいることを知るよいきっかけになりました。

電波青年 単行本版

人を殺したラジオ配信者とそのリスナーの孤独な逃避行

電波青年 単行本版 安田佳澄
ANAGUMA
ANAGUMA

殺人を犯したネットラジオの配信者フジオとそのファンの女の子ヨーコが出会い、ふたりで配信をしながら捜査から逃げるというバディロードムービー的な筋書きです。 フジオは孤独な男です。 芸人として成功できず、ネットラジオで承認欲求を満たし、自身の価値をギリギリのところで認めています。彼を評価し、孤独の境界に踏み止まらせているのは顔の見えないリスナーたちだけなのです。 ヨーコが彼のラジオで救われていたのも、フジオと同様に、自分が孤独だと感じていたからです。 互いの孤独を癒やすように共に居ることを選択するふたりの姿は、痛々しくもとても尊いものに感じられます。 皮肉なことにフジオは彼のリスナーたちと出会うことで、さまざまな出来ごとに見舞われ、時には追い詰められ、時には助けられ、運命に翻弄され、のっぴきならない状態に陥っていきます。 優れた物語は「次はどうなるんだろう」という気持ちがずっと持続するものだと思います。自分は一気に読んでしまいました。 フジオの罪の真相と、ヨーコとの孤独な旅路がどこに行き着くのか、ぜひとも見届けてほしいです。

アルキメデスのお風呂 単行本版

ありそうでなさそう?(いやないかなw)素粒子研究所内ラブコメ

アルキメデスのお風呂 単行本版 ニコ・ニコルソン
鳥人間
鳥人間

アルキメデスのお風呂ってあれか、黄金の王冠の逸話かな。 東海村のJ-PARCが監修しているということで、興味を湧いて読んでみた。 弁当屋店員でぽっちゃり女子の原陽子は仕事でもプライベートでもボロボロになり、駅のホームで自殺を図るという、いきなりなんとも重い話からスタートする。 しかし、そのとき助けた人物が(ちょっとおかしな)王子様のような理系男子。二人には意外な接点があり……といった感じでラブコメ展開へとつながっていく。 作中の舞台となるA-PARCは実質、実在のJ-PARCなのだろう。たぶん。筑波のKEKへは一般公開日に何度か行ったことがあるので、そういうときに見聞きしていたので存在は知っていたけど、さすがにこちらは行ったことがない。その内情が見て取れるというのは面白い。 ラブコメ要素には正直あんまり興味がない(笑)が、素粒子の基礎研究という何に役に立つんだかわからない研究と、暗中模索な恋愛模様を交錯させて描く様はなかなか面白い。それに各キャラクターがなかなか個性的で面白いし、1巻時点では各キャラクターの背景に何やら色々抱えていることがありそうで、この先が気になることは確か。おそらく今後登場するであろうエミィも曲者であってほしいなー。