魔法使いだった猫
輪廻転生×ボーイミーツガール×猫 なファンタジー
魔法使いだった猫 みかみふみ
sogor25
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人に興味がなくクラスで浮いてる代わりに猫に異常に懐かれる主人公・雪村咲季。一匹の黒猫に導かれて旧校舎に足を踏み入れた彼は、その猫がとある魔女・ハナの生まれ変わりであり、自身がハナに飼われていた猫の生まれ変わりだということを思い出す。猫に生まれ変わった魔女と少年に生まれ変わった猫の輪廻転生を超えた再会の物語。 …というのが1話のあらすじ。ここまでだととても美しい物語なんですが、もちろんお話はここで終わりません。 咲季は旧校舎での一件を期に同級生・里奈との親交を深めてゆく。里奈のほうは好意を全開に示しているが咲季は(前世が猫だったから?)あまり相手の心情を汲み取ることができずにいて、このあたりの掛け合いはボーイミーツガール感があります。一方のハナのほうは、猫であるその身にまだ魔力を残しており、また魔女だった時代に人間たちに虐げられた過去があり、咲季との再会も偶然ではなくウラがありそうな様子。そして1巻中盤になり現れる謎の第三勢力によりダークファンタジーの様相も呈してきます。 そんな様々な要素が絡み合った本作、さて連載媒体はどこなのかというと、まさかの少年画報社「ねこぱんち」。私は電子書籍派なので書店さんでねこぱんちの単行本がどの辺りに配置されてるのか分からないのですが、表紙も映えますし、できれば秋田書店の少女マンガの付近なんかに配置して頂けるととっても良いんじゃないかなと思う今日この頃です。 1巻まで読了
魔女
モザイク画のような美しさ
魔女 五十嵐大介
名無し
僕の曾祖母は信州の山奥の村でまじない師をしていました。その村は、とにかくマムシが多く、噛まれて死んでしまう人が後を絶たなかったそうです。ある時、通りかかった旅の僧が、うちの先祖にマムシ毒に効く薬草とまじないを伝えました。その力は確かで(実際、マムシ毒に効果があるアルカロイドは植物由来であるそうです)、血清が普及するまではたくさんの人を救ったそうです。その薬草とまじないは代々長男の嫁に受け継がれてきたのですが、それも、ここ三代続いた嫁姑大戦争によって途絶えてしまいました。  自分のすぐ近く、当たり前の生活の中に、超自然的なものとの繋がりがあるのはとても不思議に感じます。  『魔女』に描かれるのは様々な魔女です。草原に住む魔女もいれば、都市に住む魔女、雪国に住む魔女や、ジャングルに住む魔女がいて、それぞれが違う体系の魔法を使います。ただ、自然と人間を仲立ちする者として魔女が存在するということだけが共通しています。  「KUARUPU」で描かれるのはジャングルに住む魔女。森を破壊し、開発しようとする政府に反対する魔女クマリは最後の手段として自分をエサにして森の強力な精霊を呼び寄せます。政府軍は先も見えない白い霧の中、緑の地獄を見るのですが……。クマリたちの一族は自然と共に生き、森を支配する精霊の力を得てきました。しかし、自然から切り離され精霊を信じない人間たちには、生命の尊厳を問う霊の声も届くことはありません。ただ最後に彼らは畏れるべき精霊の世界を目の当たりにするのです。  『魔女』に登場する精霊や魔術の世界は荘厳だったり、気色の悪い異形だったりさまざまなものが描かれています。そこにはモザイク画のような美しさがあります。細やかなものの集まりが全体を構築していくというモザイク画の美しさはこの作品のテーマそのものを表しているようにも思えます  誰かが生み出したもの、作ってくれたものの実態を知らず、出来上がったものの上でしか生活していない我々と違って、魔女たちの生活はそのどれもが自分で得た経験と行動を根っことした地に足がついたもの。今、目の前にあるものとが全ての宇宙につながっている……そんな宇宙を感じさせてくれる、『魔女』稀有な作品なのです。。
ピーチボーイリバーサイド
"正解"のない問いの答えを探し求めるファンタジー
ピーチボーイリバーサイド クール教信者 ヨハネ
sogor25
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元々はクール教信者さんが2008年からwebマンガとして投稿していた作品で、作画としてヨハネさんを迎えてマガジンRにて商業作として連載を開始した作品。 ベースとなる物語は誰もが知る御伽話「桃太郎」。小国の姫・サルトリーヌ(サリー)の住む城に日本から来た少年・キビツミコトが訪れるところから物語が始まる。ミコトを追ってきた鬼が小国を襲ったことをきっかけに、ミコトとサリーの鬼との戦いの旅が始まる…というお話なのだが、単純なバトルものとして展開していかないのがこの作品。 「正義の反対はまた別の正義」という言葉があるが、本来"悪"として描かれるはずの鬼たちの背景もページ数を割いて描かれる。最初こそ人間の生活を脅かす存在として描かれるが、鬼たちが主人公一行を襲う動機も殺された仲間の敵討ちであったり、人間社会から迫害されたことにより生まれた羨望・怨念であったり、徐々に"完全悪"ではない存在として描かれていく。そして、主人公であるミコト・サリーの存在も"完全なる正義"としては描かれない。ミコトは鬼を全て討ち滅ぼすべき存在として捉え、サリーは鬼を対話により分かり合える存在として考え、共存の道を見つけるために旅をする。特にミコトの鬼に対する感情は強烈な怨恨として描かれており、少なくとも鬼に対する思想についてはサリーと完全に対立する形をとっている。(もしかしたらミコトのこの怨恨の感情が人間の心に巣食う"鬼"である、という意味もあるのかもしれない) つまりこの作品は「人間 vs 鬼」というバトルマンガの体を取りながら、ミコト・サリー・鬼という三者の"正義"同士の戦いの物語でもある。大方この鼎立の構造に明確な"正解"を出すことは出来ないが、対立する者同士の共存という恐らく三者の中で最も困難な道を選んだサリーが旅の果てにどのような答えを出すのか、それがこの作品の最大のテーマなのではないかと思っている。 と、すごい畏まった作品紹介をしてみたが、そもそもミコトとサリーの冒険譚として読んでも、亜人との遭遇や人間社会の内部にある差別の構造など様々な困難に直面し乗り越えていく様が面白い。ちなみに共に旅をしていくっぽい書き方をしていたが、ミコトとサリーは基本的には道中を共にしない(訪れた街でたまたま出会うことはあるが)。それは上記の考えの相違も一因なのだがもっと大きな理由もあって…それは本編を読んでからのお楽しみということで。 6巻まで読了