くりことびより

欠落を埋め合う家族の暖かさに涙 #1巻応援

くりことびより 雪本愁二
兎来栄寿
兎来栄寿

1話目を読んだときから目頭を熱くさせられ、その後も毎話心を動かされていて、単行本発売時には激推ししようと思っていました。 それぞれが欠けた部分を抱える家族が、悲しみを背負った上に築き上げていく新たな幸せのハートフルさ・暖かさがとにかく沁みる作品です。 本作は、総二郎(25)と真琴(28)のお互いに子どもを作ることのできない夫婦が、4歳の少女・くり子の里親になり新しい家族として暮らして行く様子を描いた物語。 4歳の子供の興味や好奇心、喜怒哀楽や罪悪感や不安などがとてもビビッドに描かれていて、不意に自分の子供のころを思い出しながら共感してしまうシーンが多々あります。 子供ながらに他人に気を遣ってしまうところであったり、想像の翼を広げて独自の世界を夢想するところであったり。 総二郎が知育菓子の開発企画をする仕事をしていることもあって毎回何かしらのお菓子などを一緒に手作りするシーンが挟まれます。その際に化学的な事象を説明すると、言葉や概念として完全には理解できなくても、くり子なりに頭の中でイメージを生み出していく様子もあるあると懐かしみました。 子供の奔放な言動のかわいさやリアルさは『よつばと!』などを彷彿とさせるものがありながら、本作は諸々の重い感情も描かれているのがポイントです。昔の記憶が欠落しており、その記憶がくり子の言動を通して徐々に蘇っていく総二郎。自分では子供を産めないという残酷な現実を突き付けられたからこそ、人一倍娘を大事にしようとする真琴。くり子もまた、歳不相応な謙虚さや遠慮がちさが見え隠れし、里子に出されているということからも何かしらの過去があったことを思わされます。 そんな3人が、当たり前と世間では言われるような幸せをひとつずつ手にしていく様子に暖かい涙が溢れて仕方ありません。時には失敗もしながら、それすらも小さな幸せな欠片となっていく関係の煌めき。願わくば、その微かで尊い瞬きがいつまでも絶えることがありませんように。 8月を超えて、2023年のパワープッシュ作品のひとつです。

ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ

「ROCA」読んでみた

ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ いしいひさいち
かしこ
かしこ

・朝日新聞「ののちゃん」の連載内で描かれたものをベースに再構成して大幅に加筆修正したものである ・いしいひさいち先生が自費出版で出された ・ポルトガルの民族歌謡ファドの歌手を目指す女子高生ロカが主人公 ・どうやら百合要素もあるらしい ・すごく評判がいい 色んな情報を知って期待値が上がったまま読んだけど超えたと思いました。でも私が一番感動したのは「ロカがインストアライブをやったら客が13人しかいなかったけど、13人全員がサイン入りCDを買った」という回です。分かる人にしか分からないだろうものをやっていくことも本人にとっては幸せだと思うんですけど、でもそれ以上のことがあればもっと幸せなわけで。だからその場にいる全員が認めてくれるって心強いですよね。それが私の中でこのROCA 吉川ロカ ストーリーライブが自費出版で出されたことに重なったりして感動しました。いしい先生にはそんな切羽詰まったものとかないかもしれないけど(笑)。4コマ漫画は読者のその日その時のコンディションで刺さるところが変わるので、感動したポイントは人それぞれ全く違うんだろうな〜。 なんか複雑な気持ちになった時に「サウダージ サウダージ」と言っていこうと思いました。

ローラ・ディーンにふりまわされてる

恋愛クズに振り回されるな! #1巻応援

ローラ・ディーンにふりまわされてる マリコ・タマキ 三辺律子 ローズマリー・ヴァレロ・オコーネル
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

「恋愛クズ」という存在は確かにいる。自分がモテることに自信があって、恋愛をゲームのように楽しんで、いつも自分が好かれていないと嫌で……という人物であると気付いた時には既に振り回された後。あぁぁクズ、お前に割いた時間を返せ! 本作の主人公は、人気者のクズ女に振られては復縁し、を繰り返す女子。別れるたびに友人達に慰められるけれども、何が辛いってクズ女しか見ていない主人公が、次第に親友をなおざりにしてしまうところ。 舞台はアメリカの、同性愛もポリアモリーも当たり前になっているコミュニティー。そこでは多様なパートナーの形、恋愛の形が描かれ、女性同士の恋愛も当然のことと描かる。それゆえ視線は別の点にフォーカスされる。 画面がとてもPOPだったり、ちょっとサイケだったり。ピンク+スミの二色で鮮やかな画面が楽しく、しかしそのピンクは、恋愛に振り回される主人公の閉塞感、息苦しさを演出するようでもある。 恋愛にはまり込んで大切な物を失うのはもったいない、ということがひしひしと伝わる。もっとバランスよく恋愛できないのか……とヤキモキし、渦中にいると気付かない恋愛の難しさに思いを馳せ……と一段上の次元に視点を誘う本作。恋愛と人生の見方がクリアになる、かも。 ※余談だが、本作の「恋愛クズ」はポリアモリーなのかというと、「当事者同士で合意をとった上で行う複数間の関係」がポリアモリーの定義で、それには当てはまらない。作中でも「ノンモノガミー」と紹介されている。