十次と亞一

幻想文学とミステリーと人情 #1巻応援

十次と亞一 コドモペーパー
兎来栄寿
兎来栄寿

切り絵作家でもあるコドモペーパーさんが描く、大正期を舞台にした独特の空気感を纏う作品です。紙の装丁は、その影響もあってかオシャレで素敵なデザインとなっています。時折、普通の絵に交えて切り絵による描写が差し挟まれるのも印象的です。 物語は、タイトルの通りふたりの青年が中心となって紡がれます。 うだつの上がらない漫画家である十次。 色男で売れっ子の小説家でありながら字の書けない亞一。 亞にも「次」の意味があるという点では非常に近しい名前を持つふたりの出逢いから、本作は幕を開けます。 最初は償いから始まり、やがてひとつ屋根の下で暮らすようになり、文字を書くことができない亞一に代わって十次は口述筆記を行います。その、ふたりの力を合わせて幻想文学を作り上げていくところは何とも言えないワクワク感があります。ふたりの関係性を強固にする理由が描かれた上での、134Pのセリフがとても好きです。人間の営みは目に見えないところで誰かに大きな影響を与えているものですね。 しかし、亞一にはどこか妙なところがあり、読んでいるといくつかの謎が出てきます。ある日それは十次に対するとある行為の予告として立ち現れます。コドモペーパーさんの絵は温かみがあってかわいらしいのですが、その絵柄に反して不穏な雰囲気が流れ始めます。 最後まで読めば、すべての謎は綺麗に氷解します。それを踏まえて読む2周目は、端々の描写がまた味わい深くなります。 主人公が物書きであり、また実在の文学作品が登場することもあって文学好きの方はより楽しめるでしょう。そうではなくとも、1冊で綺麗に完結している作品としてお薦めです。

サヨナラゲーム

オムニバス、スピンオフで繋がるカップル複数のシリーズ

サヨナラゲーム 南月ゆう
るる
るる

*サヨナラゲーム 郁の方は多分初めは「好き」というよりも自分に懐いている、好意を持っている後輩が告白断ることで離れていくのが惜しい気持ちはあったんだと思う。そんなことで付き合いだすのはどうかとも思ったけど、そのキッカケがあってこそ要祐の思いが報われたからなー。今後この2人が登場して幸せになってたらいいな。 *チェンジワールド 2人の共通の知人、穂積さん登場。 要祐のことを狙っているかと思いきや密かに郁を気にしてたとは。 要祐は海外赴任になって遠距離にはなったけど、最終的に同棲でハピエン。 郁側の親にはバレてそうだけど、要祐実家の話は今後出てくるのかな。 *ラブネスト 前作で邪魔に入った穂積さんがメイン。 関係が込みいってるー!郁と要祐に仕掛けたように過去にした意地悪から仕返し喰らう話。 昔悪意込みで別れさせたのが好きになった人の弟だったとは。まあそこは自業自得。 ただ、穂積さんの元カレはクズだ。最低。 アイツこそボロボロになればいいのに。 てかナルって何者? *ラブネスト 2nd 前作に引き続き旭と匡人、そして2人の家族関係が中心。 匡人実家。事情を知ったその時のショックと時間かかって理解したという可那子さんがリアル。 でも受け入れる準備ができているなんて素敵だと思う。 旭父が亡くなった時に皆見えた旭と匡人の心の繋がりに涙。 旭と出会って自分の過去の悪業を心から反省したことを行動で示して、恒生の気持ちを溶かした。 どんな過去にも2人が出会う為に意味があった😭 *エンゲージ 3巻まで既読 ラスボス、ナル編といったところ。 節操なし同時進行とか地雷中の地雷👿 なのにどうしてナルはこうも色気があって魅力的なんだ? 完全地雷な人なのにドキドキが止まらないし小悪魔だし美しいし何なのー😻😻😻 ナルのスペックが型破り。 資産すごいしどうなってるんだ? 飄々と余裕かましてたけど、3巻でナルが盟に初恋😻 盟に行く為に今の恋人たちを切ろうとしてるけど、そりゃー上手くいかないよね、あんなに魅力的だし同時進行を合意してるんだから。

人間昆虫記

手塚先生の惜しい傑作!!!

人間昆虫記 手塚治虫
酒チャビン
酒チャビン

なんで人間昆虫記かっていうと、主人公の十村十枝子(本名:臼場かげりさん)が、擬態や寄生を得意としていて、その特技を活かし、各界のトップランナーたちに寄生してはその才能をコピーし、規格外の天才・才女としてのぼりつめていくという物語で、その寄生・擬態のさまを昆虫になぞらえているのだと思います。 演技にはじまり、演出、デザイン、小説執筆、コロシ、ビジネスと、いろいろな分野でトップクラスの実力を身につけて世間をアッと言わせます。 そんな彼女ですが、そうして身につけた才能はあくまでも寄生して擬態したものであって、本当の自分ではなく、彼女自身は虚しさを感じています。 けっこう話は大人向けで、正直主人公は完全に狂人めいているのですが、実はものすごく真面目すぎる性格でピュアだったりもするというところが、なんとなく真に迫っているようでなるほどなぁと思いました。 本作品ですが、正直手塚作品の中ですごくメジャーというわけでもないと思っていたのですが、2011年に実写化されているようですね。全然知らなく、みそびれていたのですが、1970年の作品が40年の時を経て取り上げられ得るというのが、手塚作品の世代を超えた魅力のなせる業!ヅカラーとしては大変嬉しい出来事です!! さて、なぜ惜しいかというと、なんかラストが急足で中途半端に終わってしまっているのですよね〜。。大人の事情等があったのかもしれませんが、主人公が双子かも?とか水野さんのその後は?とかだいぶ回収されなかった要素があるように思われましたので、それらを描き切った完全版を読みたかった!!!それまでの話の流れが最高にノってただけに悔やまれます!!!!

ヤリマンになりたい。

この道をイけばどうなるものか #1巻応援

ヤリマンになりたい。 まおいつか
兎来栄寿
兎来栄寿

「今のダメな自分から脱却して変わりたい」「一度きりの人生を自由に楽しみたい」という人は多いでしょう。 本作では「そのためにヤリマンになりたい」という主人公が描かれます。一見、飛躍しているように思えるかもしれません。が、読めばとても理解できるお話です。 DVを受けていた祖母と、浮気をされた母を持ち2代続く母子家庭で「男なんてダメ」と小さい頃から言い聞かされて育ってきた32歳の市川ももは、母たちからの言葉が呪詛となりHをすることに罪悪感が湧き人生で一度もイケたことのない女性。 そんな彼女が変わる契機となるのが、学生時代は「地味〜ず」仲間だったはずが再会したらヤリマンになっていた友人のひまわりでした。 性に奔放で自由を謳歌するように変貌していたひまわりに憧れるももが、ひまわりを始めとするヤリマンたちに伝導され奥深きヤリマン道を歩んで行く作品です。 「ももちんの人生は、誰のものでもない。変わりたいなら、変われるんだよ」 「自分の、イキたい、ようにヤれ!」 は蓋し名言ですね。 ももの悩みは深刻で、ハプニングバーに行ったり出会いバーで会った男性の家に行ったり、経験値を積み重ねながら何とか自分の人生を解放しようとしていきます。 ただ、悩みの深さに反してかなりコメディ色も強く描かれており、楽しく読むことのできる作品でもあります。 「主導権を握って楽しむ!」 ここに振られた秀逸なルビは、ぜひ読んで確かめてみてください。冨岡義勇もびっくりです。 特にコメディ色が強まるのは、300人と関係を持ち現在は野球選手専門で食っているヤリマンプロの25歳、みゆみゆのパート。 「一回ハメたちんぽは、応援したくなりますよね…」 「明日役立つ、ちんぽ統計学」 などのパワーワード満載。 ズルムケの人より仮性包茎の人の方が好きであるというみゆみゆの言葉には、救われる男性もいるのではないでしょうか。 ヤリマンというと自分の欲望に忠実なイメージが強いかもしれませんが、相手を楽しませることに心を砕いたり、普段から初対面の人にも気を遣い会話を盛り上げようとしたりと自分にない所を持っていることに気付かされ、成長していくももが良いです。 巻末の「まんまん新聞」のちんこぺちぺちダンスなども振り切れていてとても良いです。 リアルな絵だと生々しくなりそうなところも、まおいつかさんの可愛い画風が程よく中和してくれていてちょうど良い塩梅になっています。 果てしなく続く長いヤリマン道を、あなたも本書を読んで知ってみてはいかがでしょうか。