はしっこアンサンブル

早く教えて欲しかった漫画…!苦くて熱いジュブナイル

はしっこアンサンブル 木尾士目
たか
たか

元合唱部としては絶対読まねばと思いつつ積ん読していたこの作品。んも〜〜!!ただただ最高でした。 主人公・藤吉晃(あきら)は声が低すぎることがコンプレックスな工業高校の1年生。彼と同じ1年生には合唱部を作ろうとする「並の精神力ではない」凄みを感じさせる男・木村仁がいて、毎日毎日昇降口で1人で歌っている。 理論的な発声・和音の知識を持つ仁は作中で少年探偵の「コ○ン」と呼ばれるけど、実際その精神力の強さは弱虫ペダルの坂道くんのよう。 なんというか…物事に本気の人間だけが見せる狂気じみた強いハートが仁の魅力で、彼を見ているとあっという間に作品に引き込まれていきました。 仁が主人公の名前を聞いて「三善晃みたいだね」と言った合唱部ジョークにはファミレスで読んでて噴きました!(曲集「生きる」大好きです…!) 工業高校の授業、個性的な友人、家庭環境、人体・歌唱の理論的な解説。 あらゆる要素がまさにハーモニーを作り出していて読み応えがあります。 1巻を読みながら2巻をポチって読破しましたが、2巻は予想だにしない壮絶な展開で圧倒されました…。 でも何より、その重い展開を合唱曲が理論と精神両面から救いをたらすという構成が最高でした!! 今度合唱部の同期と会うときは人数分用意して配ります。 (画像は1巻より)

ロスト ハウス

日本漫画界が到達した、ひとつの極点

ロスト ハウス 大島弓子
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

です。 今も昔も、この高み(深み)にいったものは誰もいない。 間違いないです、ハイ。 以上、終わり。 …っていうので、本当は言いたいことのすべてなのですが、まあ、それもどうかと思うので、もう少し贅言を重ねます。 大島弓子は、どこにでもある、でも「特別な痛み」を、途方もなく切実に、軽やかに描いて、そして常に、魂を照らし温める「救い」へと、読むものを導いていきます。 漫画界に限らない、同時代の文芸や映像など「物語り」表現すべてを見渡しても、大島弓子に比肩する「文学的」深淵を描き出すことが出来たものを、ちょっと思いつくことができない。 この『ロストハウス』が、彼女のキャリアで特に優れた一冊だとは思わないのですが、いかんせん現在流通している本は再編集されたものが多く、初読時の印象を適切に反映させられないので、とりあえず。 あと、個人的に『ロストハウス』は、七十年代からずっと読んでいた大島さんの新刊として、刊行された当時なに気なく読んで(たぶん九十年代中盤)、自分が心から愛好する後続の同時代漫画家さんたちの作品と比べて、それこそ「ケタが違う…」と、打ちのめされた記憶がある、忘れられない本なのです。 「たそがれは逢魔の時間」が収録された花ゆめコミックス版『綿の国星2』が私的には最高なのですが、まあ、大島弓子はどれもメチャクチャ凄いので、どれでも良いんです。 『バナナブレッドのプディング』でも『四月怪談』でも『秋日子かく語りき』でも『毎日が夏休み』でも、とにかく1975年~1995年に描かれたすべての「物語り」が、唯一無二にとんでもなく素晴らしいので、未読のかたは、ぜひ。 (「サバ」や「グーグー」とかは、やっぱちょっと別枠で)

ナタンと呼んで 少女の身体で生まれた少年

1人の少年が身体を手に入れるまでの物語

ナタンと呼んで 少女の身体で生まれた少年 原正人 カトリーヌ・カストロ カンタン・ズゥティオン
たか
たか

 新刊発売を楽しみに待っていた作品。    小さいころは男でも女でもなく「子ども」でいられた主人公・リラが直面した、二次性徴という危機。それをどうやって乗り越えて、男性としての身体と人生を手に入れたのかを成長に合わせてじっくり丁寧に描かれていて素晴らしかったです。    またナタンが「自分は何者なのか」という葛藤や家族との摩擦の中でも、髪を短くしたり、弟のTシャツを着たり、彼女と付き合ったり、自分がやりたいことを貫いた姿がとても心に残りました。    わたし自身は、ナタンのように男の子とスポーツで遊ぶ方が好きな子どもで、当時は大人の女性にはなりたくないと思っていました。とはいえ身体と性自認が一致していたことで、ナタンのような大きな葛藤なくいつの間にか性別を受け入れて大人になることができました。    このマンガを通じて、『自分がたまたま経験しなかった苦しみ』の存在があることを知れて、本当によかったです。     作品の舞台設定に関して、主人公が部屋中にジャスティン・ビーバーのポスターを貼っているシーンやスマホから、舞台は現代(から少しだけ前)なのかなと想像しつつ読んでいましたが、あとがきによると主人公のモデルとなった人物は現在大学生だそうです。    友達とFacebookのメッセージ上で揉めたりクラブに行く描写は、彼が同じ時間を生きているのだととても身近に感じられました。    最後に、出版社である花伝社のnoteがとても素晴らしかったのでここでシェアします!  FtMの方の『一人称のお話』や、原作者が副題に込めた『少女が少年に「なった」物語ではない』というエピソードなど…様々な方の想いを大切にして作られたことが伝わってくる素晴らしい記事なので、ぜひ「ナタン」を読んだ方はチェックしてみてください。 https://note.mu/kadensha/n/n77106bb5c3f9