ワールド イズ ダンシング

芸能の本質をつく#1巻応援

ワールド イズ ダンシング 三原和人
六文銭
六文銭

逃げ上手の若君同様、個人的に室町時代がアツイのですが、 さらに世阿弥の作品まで出て、いよいよ出版社も本気になってきたな! と、ホクホクしております。 世阿弥といえば、「風姿花伝」の著者で、それを秘伝書として後世まで残したのが有名ですよね。 「序破急」という言葉でご存知の方も多いハズ(主にエヴァ経由かもですが) 中でも、「年来稽古条々」は、今でも唸る部分が多いです。 年齢ごとにやるべきことをまとめたその一節は、端的に言えば、以下のような内容。 若い頃は、勢いや華やかさが最も美しい時期のため、実力とは違う点で評価されてしまうことがある。しかし、この時期で一生涯が決まるわけではないため慢心しないように注意が必要。 そして、年とともに、進歩に停滞がみられる時期がくるが、それでも絶望せずジッと耐えて実力を磨く必要性を説く。 そして、30後半から40才までには全てが決まってしまうので、この年代を、これまでを振り返って、これからどうすべきかを考える時期とし、40過ぎたら体力の衰えも重なるため、多くのことはせず得意なことに集中し、後任の育成をすべき・・・という流れ。 大分端折った要約ですが、これが600年以上前に書かれたってスゴイなと思います。 芸能の世界はもちろんですが、ビジネスシーンでもおっしゃるとおりだなと思うフシが多々ありますよね。 若い時代はあっという間なので、若さに奢らず、如何に自分を高められるかが重要だってことです。 本作は、そんな世阿弥の物語。 上記のような何百年も通じる芸の本質をついた本を書いただけに、 芸という、一瞬とらえどころのない世界を、体系的に、ロジカルに分別し考える感じが、純粋に「っぽい」なぁと感じました。 実際、こういう人物だったんだろうという現実味があります。 父・観阿弥との、父と子の関係も良いです。 2代に渡って技術だけでなく、思いが継承されていく感じ、好きなんですよね。 まだ1巻ですが、今、室町がアツイので、色んな意味で今後が楽しみです。

聲の形

何度読んでも心にくる

聲の形 大今良時
六文銭
六文銭

北海道でいじめの痛ましい事件があり、思わず本作を思い出して、再度一気に読んでしまった。 そして何度読んでも心にくるものがある。 いじめの事件を聞くたびに思うんだけど、加害者は、こういう本を読んで何を思うのか気になってしょうがない。 なんにも思わないのだろうか?たぶんそうなんだと思う。 むしろ読まないか。 世間では多様性を重視とか言っているけど、 本当にそんなことが実現できるのか疑わしいし、 都合の良い部分だけ切り取られている気がしてならない昨今。 本作の登場人物が鏡の如く映して、わがふりなおす一助になればと願ってやみません。 内容は、あまりに有名なので割愛しますが、個人的な感想を1つ。 本作が著者との初めての出会いで、名前からずっと男性だと思っていたのですが、後に女性だと知って本作に出てくるエグいいじめの描写に、妙に納得したのを覚えています。 多分に偏見なのですが、女性のほうが、この手の描写や展開が、強く訴えかけるという意味で、上手だと思っているからです。 なんというか、女性のほうが、躊躇がなく強烈だと思うんですよね。 本作も、それが顕著で、気の弱い自分は目を覆いたくなるシーンが多々ありました。 でも、これくらいやらないと残らないですよね。 ぬるいと熱も伝わらないです。 身障者のいじめという、ともすると批判が殺到しそうな危ういテーマを扱っていますが、だからこそ多くの人に読んで欲しいと思える作品でした。 人との差を、人の優劣にしてはならんのですよ。

いばらの王

石化病と怪物の脅威から生き延びろ!SF古城サバイバル #完結応援

いばらの王 岩原裕二
ANAGUMA
ANAGUMA

モンスター映画やパニック映画の仕組みを考えてみると、多くの場合立ち向かうべき危機は基本的にひとつです。サメだったり災害だったりゾンビだったり。 『いばらの王』で最初に描かれる危機は石化病と呼ばれる奇病。主人公のカスミが石化病から逃れるための冷凍睡眠から目覚めるところから本作は始まるのですが、間髪入れずに第二のクライシスが発生。 恐竜みたいなモンスターが襲ってきます(マジで!?)。 病気と怪物、脅威がダブルで襲いかかってくるので単純計算で緊張感が2倍!おまけに古城もボロボロなのでそこかしこに死の危険が転がっています。(個人的に岩原作品で「必ず描いてるな!」と思っている水場の戦闘と潜水イベントもバッチリあります!) 命の危機に対処しながらも石化病の真実、登場人物たちの過去、カスミが抱えていた秘密が次第に明かされていくのがさながらハリウッド映画を見てるかのようなワクワク感。読み始めたら止まらなくなります。 長らく電子版が刊行されていなかったのですが、『DTB』や『ディメンション W』から岩原裕二を知った方はこの機会にこちらも読んでみてほしいです。 張り巡らされた伏線、ゾクゾクするような設定、起伏に飛んだ人間模様がスリリングなアクションとともに描かれる「岩原エッセンス」が本作にもたっぷり詰まってます。

化け猫あんずちゃん

当時の小学生はどんな気持ちで読んでたんだろうか

化け猫あんずちゃん いましろたかし
hysysk
hysysk

割と自分も(後になって気づくと)大人向けのマンガを読んでいたので面白みは伝わると思うが、一般的に想像するような子供向けマンガのドタバタ感や分かりやすいオチはない。 地下道に住んでる大妖怪カエルちゃんとのやり取りが最高。 あんずちゃん「お前ここで何やってんの?」 カエルちゃん「何にもしてないよ 寝たり起きたり」「穴掘るのが趣味だからさーたいくつだと穴掘って遊んでるんだ」 あんずちゃん「かっこいいじゃん」 あるがままの自分でいい、ということではなく、こうなるしかない、みたいなキャラクターがいましろ作品の魅力。何もしてなくてもいい。宝くじで3億円が当たっても、やりたいことはなくていい。 とかく夢や目標を持たなければ駄目だと言われがちな小学生(そしてそれを分かっていて大人が喜ぶようにうまく立ち振る舞えてしまうやつ)にとって、こういうスタンスは目から鱗なんじゃないかと思う。 『グチ文学 気に病む』というエッセイにこの作品を描いている時の話が出てきて面白い。小学5年生が「先生と話がしたいから家に遊びに来てくれ」というファンレターを送ってきたり、宝くじが当たると色んな人がたかりにくる噂は都市伝説であることを担当編集が調べてたり(えらい)。 個人的には、いましろ節が利いてて、モラルの面でも思想的な面でも安心して人におすすめできる作品。