隠し球ガンさん

人情派ベテランスカウト・ガンさん!!

隠し球ガンさん やまだ浩一 木村公一
名無し

野球は全く詳しくないのですがドラフトキングですっかりスカウトマンの熱意と野球選手の人生キャリアをめぐるドラマに魅せられてしまいました。そんな中たまたま他にもドラフト漫画が知り1巻を読んでみたのですがやはり面白い…!! 作中の舞台は1995年頃。 球速120km/hの選手から、金属と木製の違いに悩む大学生五輪選手、アメフトのQB、実績ゼロの内野手、自由契約のベテランまで。 選手の出身校の恩師から家族にまで話を聞き、自費で見に行った試合で選手とほんの僅かに世間話をする。とことん足で稼いでその選手の特性を見抜いたうえで、どのようなキャリアを選択するのが良いか「人生を背負い込む覚悟で」声をかける。 逆に言えば、選手の人生を一番に考えて声をかけないという選択もするということで、この辺に金儲けしか考えていない悪徳スカウトマンと一線を画する人情派な部分がガッチリ出てます。 怪我で自慢の第一歩を失った選手にただのおっちゃんとして自分の昔話をするシーンや、元高校球児の地元熊本まで行き「あの子はこの景色を見てきたんか…」と感じ入るシーンにガンさんの人柄が出てて好きです。 デフォルメがいかにも青年・少年漫画らしい(ちょっとハロルド作石先生っぽい)ところがまたいい。 主人公のガンさんが気のいいおじいちゃんなので、ふざけたり熱く語ったり怒鳴ったり…表情の変化がデフォルメとバッチリハマっていて見応えがありました。 やっぱ野球のスカウトマン熱いな〜!と思えるいい作品です。アンリミで読めるのでぜひ!

利平さんとこのおばあちゃん

令和の今読み返したい、昭和の優しいおばあちゃん

利平さんとこのおばあちゃん 法月理栄
兎来栄寿
兎来栄寿

「味のある老人を描く」というのは一際困難がある作業です。まだ若い作家であれば自分の実体験に即して描くことができないので、他者への鋭い観察眼または豊かな想像力が必要となってきます。そもそも、マンガの主な購買層である若い読者を想定して主人公も若くしておくことで共感しやすくするのがセオリーとなっているところもあります。 実際、1000万部以上の累計発行部数を誇るメガヒット作品群を見てみても、老人が主人公の作品というのはほとんどありません。島耕作や『蒼天航路』の曹操は物語が進むにつれて歳を重ねましたが、最初から老人を主人公に据えている作品というのはやはりメインストリームではありません。しかも、現在よりももっと男性作家が多かったかつての青年誌というフィールドで老婆が主人公となっている作品は非常に珍しいです。 しかし、私は老人が主人公の作品が大好きです。読書は想像力の翼を広げてくれる行為。自分の人生では味わえないこと・まだ経験していないことを擬似体験させてもらえるのが物語の醍醐味です。老人を主軸に描いた作品は、これから往く道について教えてくれる存在です。派手でキャッチーな面白さはなくとも、含蓄に富み心に響く作品が非常に多いのです。 『利平さんとこのおばあちゃん』でも、主人公のおしげさんが一話完結のお話たちの中で年の功によって多くの若人の良きメンターとなるシーンが幾度も描かれます。おしげさんや周囲の人たちの人情の暖かさが、法月理栄さんの朴訥とした絵柄との相乗効果で胸に優しく沁み渡ります。旦那さんを亡くしても、在りし日の思い出を心の中の宝物として日々を精一杯、笑顔で楽しく生きるおしげさんのようになれたら素敵だなと思います。 だら、だに、ずらなどの方言、茶畑でお茶を栽培をしている様子、また『ゆるキャン△』でも扱われたシッペイ太郎の民話や「清水港の名物は〜♪」と歌われるシーンなどから、静岡の片田舎が舞台であることが察せられます。法月理栄さんは静岡の島田市出身だそうなので、静岡県民の方が読めば私以上に共感できるポイントが多くあるでしょう。 ところで異端な余所者へは風当たりの強さがある一方で、誰かの子供に何かあったら「村の子供」として村人全員で一致団結して助け合う。そんな所には良くも悪くも田舎らしさ・日本人らしさが凝縮されているなとも感じました。それが当たり前であった昭和の時代をありありと感じられる物語を、令和になった今読むのも乙なものです。

女ともだちと結婚してみた。

恋の無い結婚に愛はある #1巻応援

女ともだちと結婚してみた。 雨水汐
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

同性婚が法制化された日本を舞台に、二人の女性が試しに結婚してみる、という物語ですが、同性婚についてだけではなく、もっと広く結婚について考えさせる内容だと感じました。 女性同士、友達関係のまま恋愛をすっ飛ばして始める結婚。性格も生活スタイルも違う二人だが互いに生活能力はあり、男女の結婚のような性役割がないので、お互いにどうしたいかを話し合って進める結婚生活は理想的に見えます。 その中で、奔放な相手に恋しているが、その奔放さを愛する故にそのまま受け止めてそれ以上を求めない女性の愛の在り方に打たれる。私はこんな見返りを求めない、大きな愛を持てるだろうか……。 そしてその愛に少しずつ気付く、奔放な女性。彼女が相手を大切にしたい、という感情を獲得する過程……それは思い遣りという、小さな愛を積み重ねる過程。 恋から始める結婚だって、半ば賭け。恋が冷めた時、そこに愛が残るかはその時になってみないと分かりません。盲目な恋の先に残ったのはよくわからん人だった、という可能性は高い。 そんな曖昧な恋に頼るよりも、お互いに過ごしやすい、気楽にいられると感じる相手と暮らた方が、楽しい生活を送れる確率は高い。もし「積み重ねた時間の分だけ愛が生まれる」と言うなら、なおさら一緒にいて楽しい友達と結婚する方が、理屈は合ってる。たった1巻で強い絆を結びつつある二人を見ていると、そんな風に思ってしまうのです。

怪奇まんが道

メンツが豪華すぎるしエピソードはどれも珠玉!!

怪奇まんが道 あだちつよし 宮﨑克
かしこ
かしこ

生い立ち〜ホラー漫画家になるまでの道のりをインタビューして漫画化したものです。本人が描いた自伝ではありませんが、宮崎克の取材力とあだちつよしの漫画力によって本人が描くよりも読み応えのある伝記物になっています! 以下、ひとこと感想メモです。 【1巻】 古賀新一…手塚治虫も登場するし本家マンガ道と同じくらいウルッとしました。 日野日出志…何を思いながら「蔵六の奇病」を描いたかの話が読めてよかった。 伊藤潤二…漫画家になる前は歯科技工士だったことも、デビュー作が「富江」だったことも知らなかった! 犬木加奈子…普通の主婦がホラー漫画の女王と呼ばれるまでになったのは文字通り人生をかけてたからだったんだなぁ…。 【2巻】 御茶漬海苔…編集長に言われた一言が衝撃的すぎる。今だったら大問題になってると思う。 諸星大二郎…本人のインタビューもあるけど諸星大二郎だけ編集者の証言で構成されてる部分が多いので、インタビューでも寡黙だったんだろうなって思った(笑) 外薗昌也…霊感があることも含めてホラー漫画家のイメージそのままの人だと思った。 近藤ようこ…高橋留美子と同級生なことは有名だけど、本人から語られる話を読んだことがなかったのでとても貴重だった。今も交流があるんだなぁ。