塔子さんはいい大人じゃいられない

素直に応援したくなる物語 #1巻応援

塔子さんはいい大人じゃいられない たかせうみ
sogor25
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デザイナーとして働いている27歳の女性・胡桃沢塔子はある日、担当していた仕事をクライアントからの要望で外されてしまいます。 職場でも能力を認められていた塔子でしたが、彼女は幼い頃から表情に乏しく「意思疎通ができていない」と思われてしまったのがその原因でした。 そこで同僚に薦められたのが「マッチングアプリ」。 相手と直接会う前のメッセージでのやり取りでワンクッションを挟んで、そこからコミュニケーションの経験値を積もうという提案でした。 早速アプリに登録してみた塔子は、マッチングした真崎蒼斗という男性と意気投合し、実際に会うことになるのですが、そこで蒼斗が実は18歳の高校生であることが判明する、という導入の作品です。 無表情なために仕事でもプライベートでも勘違いされやすかった塔子が高校生だけど人馴れしている蒼斗との交流によって少しずつコミュニケーションの経験を積んでいくという物語なのですが、 主人公の塔子は"表情"は薄いんですが"感情"はとても豊かで、蒼斗との出会いによりいろんな感情を見せてくれるので、塔子のことを素直に応援したくなる物語です。 蒼斗のことを頼りにしつつも彼が高校生であるため努めて"大人"として接しようとする塔子と、塔子にもっと頼ってほしそうにしている蒼斗、2人の関係が今後どのように変化していくのか楽しみな作品です。 1巻まで読了

ひめちゃんは重い女

面倒な人に優しい作品 #1巻応援

ひめちゃんは重い女 花束葬式
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

『お父さんは心配性』なんて作品もありましたが、心配性・考え過ぎ・嫉妬深い人はマンガにおいては極端なコメディにされるかライバルとして冷遇されるか……あまり自分事として受け入れられない。 なんで?みんなだって、メンドクサイ人でしょ?(暴論) ★★★★★ 大学生のひめちゃんは、思考が後ろ向きで、嫉妬深い。カッコいい彼女がいて幸せそうなのに、とにかく悪い事ばかり考えて落ち込んでいる。 ひめちゃんを不安にさせない様、気遣いの出来る彼女はパーフェクト。でもだからといって、ひめちゃんが不安にならないという事は無いんだよなぁ……不安の種を見つけては堕ちて行く思考回路は同じ「重い」人間として、とても分かる。 そんなひめちゃんを普段から支えるのは、ゲイの後輩。彼とひめちゃんの対話が、とにかく面白い。 どちらかが、普通は引かれるような不安や嫉妬を吐露すると、「わかるわー」と返ってくる。その遣り取りを見ていると、「それ重いって」と突っ込む自分がどれだけ一般論に迎合していたかに気付く。そして二人の「重さ」が自分事として、沁みるように理解出来る。 基本百合マンガでありながら、不安症の二人の相互理解にも心を持っていかれる。最高な彼女がいるひめちゃんには、酷い男に引っ掛かり続ける後輩に優しくしてあげてよ……と思いました。

思えば遠くにオブスクラ【電子単行本】

ベルリン・暗い部屋から外へ #完結応援

思えば遠くにオブスクラ 靴下ぬぎ子
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

現実世界の冒険譚は、非現実的ファンタジーに比べて地味でカタルシスに欠ける反面、自分でも同じ事ができそうな、地に足のついた希望があって、私は現実世界を同じ様に歩いてみたくなる。『思えば遠くにオブスクラ』も、そんなちょっとだけ「うずっ」とする感覚が味わえる作品です。 本作は、異国の地での生活と仕事を通じて、一人の女性の「自信の無さ」がほぐされてゆく物語です。 主人公は勢いで越して来たベルリンで、同居人に背を押され、何の準備もなく行き当たりばったりの生活をし、存外いい加減なベルリンに染まっていく。 ドイツの食を堪能しながら時になんちゃって和食に挑戦したり、気候に戸惑ったりワークライフバランスを学んだりするうちに、主人公の顔が緩んでくるのが羨ましくなります。 仕事では一眼レフカメラの「レンジファインダー機」の扱いが面白い。視覚表現者として優秀な主人公ですが、とある理由で自己と周囲の視覚認識にズレがあるらしい事にわだかまる。それ故に正確さ・厳密さを求めてきた彼女が、この曖昧でままならない機材を託されての変化が、何とも興味深いのです。 頭の中の「暗い部屋」で立ち止まっている人が、外に出て(外国に行く事も含め)少しだけ離れて自分を見て、知り、楽になる。そんな地味でも大切な変化の物語は、どんな大袈裟な物語よりも私にとって切実かつ爽快なものでした。 ベルリンはじめヨーロッパの光景は美しく、食や人々の描写等、エッセイ的表現が楽しい。一コマも読み逃すのが勿体ない、何度でも読み返したい作品でもあります。

シティな俺がオチるまで

この社会人ラブコメ、推せる!

シティな俺がオチるまで やまとかな
兎来栄寿
兎来栄寿

皆さんは都会と田舎、どちらが好きでしょうか。私は都会で生まれ都会で育ちましたし、都会の便利さを享受してもいますが、魂は常に奈良の吉野山にあり還ることを求めています。空の狭いビル群の中で呼吸を潜めているより、緑と花に囲まれた広くて雄大な景色の中にいる方が落ち着きます。田舎にいる温かな人たちも大好きです。 しかし、本作の主人公は私とは逆で田舎者が大嫌いな27歳シティボーイ。社のホープで仕事もバリバリできて女性社員からの人気も高いものの、好きなものは美女・嫌いなものはブスと田舎者というちょっとイヤなヤツ。 ……なんですが、1巻の後半ではなぜ主人公がそんなに田舎者を嫌いなのかという理由となるエピソードが描かれ、なるほどそれは嫌いになってしまっても仕方ないな、と納得感が生まれます。 そんな田舎者嫌いの主人公の下に社長命令で超弩級に田舎者な部下の女の子がつくことになり、凸凹な関係性によるラブコメが繰り広げられます。 『のだめカンタービレ』の千秋とのだめのような、エリート系男子と破天荒純粋無垢系ヒロインの関係性が好きな方には無条件でお薦めできます。 個人的に好きなシーンが、ヒロインが差し入れてくれたふかし芋に対して主人公が「こんな田舎臭い食べ物なんぞ」と思いながら食べ無意識にほっこりしてしまい、そんな自分を追い払うために「高級スーパーで買ったヒマラヤ岩塩かけて食ってやる!フハハ思い知ったか田舎者め!」と高笑うところ。主人公のアホ可愛いところ、愛せます。 主人公とヒロインのみならずキャラクターの立たせ方が良く、全体的に古き良き少女マンガ感もあります。ただ絵柄的には男性でも読み易いタイプでしょう。 続きはもちろんのこと、やまとかなさんの今後の作品も絶対に追いかけたいと思わせてくれる秀逸さでした。