フットボールアルケミスト

サッカー界の闇を暴く代理人マンガ #1巻応援

フットボールアルケミスト 12Log 木崎伸也
ANAGUMA
ANAGUMA

スター選手がクラブを渡り歩くたびに巨額の資金が動くプロサッカー界。そのカネの流れを操るのが「代理人」です。 実際に2019年の夏の欧州市場では1シーズンで7000億円近い金額の取引があったそう。 参考:https://www.soccerdigestweb.com/news/detail/id=63688 クラブからクラブへ選手を移籍させて金を生む…代理人はまさしく「錬金術師」といえます。 一方でファンからすれば代理人は選手の未来を導く天使にも、あるいはどん底に突き落とす悪魔にも見える存在です。 本作の主役の一人、先崎も凄腕の代理人ではあるものの「金の亡者」なんてあだ名を付けられています。代表監督への口利き、クラブオーナーへの圧力など、選手の価値を釣り上げるためなら手段を選ばないダーティな側面はなかなか衝撃的。 一方で純粋に選手を想っての行動やサッカーに対する真摯な姿勢も共存していて、代理人という謎に満ちた仕事を紹介するのにふさわしい魅力を持ったキャラクターです。 主人公リサの兄をめぐる陰謀じみたドラマも読み応えがあり、「フットボールとカネ」という刺激的なテーマに踏み込む気迫を感じました。 サッカー界の闇のドラマをどう描いてくれるのか楽しみな連載です!

うつ病九段

とても読みやすいうつ病エッセイ漫画

うつ病九段 河井克夫 先崎学
沼袋

明確な原因はわからないけれど、うつというものは気づかないうちにじわじわと近づいてくるものなんだなと、やはり他人事ではないんだなというのを改めて実感した1冊でした。 本書は、将棋界へ復帰できるかどうかというところで、精神科医であるお兄さんに闘病について文章にしてみるよう薦められて終わりますが、ウィキペディアによるとその後にしっかり復帰されたようでホッとしました。 うつと向き合う中で、少しずつ回復傾向であると思っても、その日のうちで調子の良し悪しに波があったり(夜は元気でも朝起きると悪くなっているとか)、文字が読めなかったり、将棋の初歩の初歩すら分からなくなっていたりと今まで当たり前にできていたことが出来なくなるというのはどれだけ辛いことだろうと、読んでいて心配になるんですが、自暴自棄にならず医者からのアドバイスも素直に聞き入れ、将棋への意欲が再び芽生えたことに喜びを感じられたからこそ復帰までたどり着けたんだろうと思います。 やはり受診する病院や医師によって良くも悪くも左右される病気だと聞くので、身内に優秀な精神科医がいたことが幸運だったと思います。しかし兄は精神科医、弟はプロ棋士となんと優秀な家庭だろうと、うつと関係ないところでもなかなか興味深い部分がありました。 最後の方に羽生善治棋士と少し会話するシーンが有るのですが、なんとなくクスッと笑ってしまう微笑ましさがありました。

姪っ子の歌

完璧な読切がここにありました。

姪っ子の歌 ますだ悠
兎来栄寿
兎来栄寿

現在、マンガワンで『暑がりヒナタさんと寒がりヨザキくん』を連載中のますだ悠さんによる読切です。こちらの作品で「第1回YGマンガ大賞]入選&審査員特別賞」を獲ったそうですが、さもありなん。あまりにも完璧な読切で身震いしました。もう大好きです。 “今思うとずっと姪のことを憐れんでいたと思う” という手書きのモノローグから始まるこの物語は、物書きになりたいという夢を果たせずOLとして無感情に働くさゆりと、彼女の姪であり夢を追いギターの弾き語りをするゆづはの二人に焦点が当てられ進行していきます。 さゆりが如何にして夢を抱き、それを叶える為に周囲の反対も跳ね除けて努力し続けて、そして結果的に挫折するに至ったか。それは悲しい物語ですが、夢を持ちながら叶えられなかった多くの人が共感する在り方でしょう。 姪には自分と同じような想いを味わって欲しくないと思いながらも、渦中のゆづはは目を輝かせながら夢を叶える為に邁進していく。その時の複雑な胸中が見て取れます。それはやがて今の自分のようになってしまう可能性が高いという単純な心配や憐憫だけではなく、もしかしたら嫉妬のような感情も入り混じるものだったかもしれません。 最後まで連綿と続く手書きのモノローグと、「姪っ子の歌」というタイトルが重なった時、破れた夢の果てに生まれた物を目の当たりにした時、最大の感動が押し寄せました。かつて自分から生じた情熱が今は冷めてしまっていても、往時には新たな土で萌芽を誘っており、そこで咲いた小さな花が再び冷めた自分にも熱を灯す。そんな在り方に尊さを覚えました。 二人の絆に胸が暖かく、熱くなる素晴らしい物語でした。会社が違うので難しいかもしれませんが、『暑がりヒナタさんと寒がりヨザキくん』が単行本化される際などに収録して欲しいなぁと思います。話題にならずに埋もれてしまうにはあまりにも惜しい作品です。

これ喰ってシメ!

食の世界の三沢光晴

これ喰ってシメ! 久住昌之 武田すん
名無し

自分は食事も酒も好きだが、シメがどうこうには あまり拘りはない。 酒を飲んだ後にビールとギョーザを食べたいとか あまり思わない。 鍋料理の最期を雑炊にするかウドンにするか 悩んだこともない。 デザートとかついていなくてもかまわない。 そういうことにこだわらないほうが気楽でいいじゃん、 くらいの感覚というか。 しかし「これ喰ってシメ!」をよんで 主人公・神保マチ子のシメへのこだわりを見て、 こういう食べ方を出来る人は凄いな、と思った。 のんべんだらりと酒を飲み、気がついたら寝オチしていました、 なんていう自分とは違う。 酒のあとのシメだけでなく、仕事や私生活でも、 色々な状況の要所要所でしっかりと区切りをつけてシメる。 ダラダラしない、それまでを総括し、次へ進む。 大人だな、カッコイイな、と思った。 しかも臨機応変にシメる。 様々な状況でそのときの気分にあわせて様々なシメをする。 けして飲んだら最期はやっぱりラーメン、というような ワンパターンな「これしかない」シメではない。 昼の蕎麦屋で、空腹で飲んだ後、 仕事が終わったら終電がなくなっていたとき、 後輩が奢ってくれたとき、 それぞれにあったシメかたを選択し実行する。 さらに、こういうときはこれだけ、と 頑なに自分流に徹するわけでもない。 後輩・ひじきと飲みにいくと、結構ひじきに つきあうというか、つきあわされるんですよね。 あまりいかない回転寿司に連れて行かれたり、 小料理屋なのに焼肉屋かよ、という料理を つつくことになったり。 それでもしっかり味わって受け入れる。 プロレスで言えばスタン・ハンセンではない、 三沢光晴だ。 ハンセンのように、とにかく最期はラリアット。 これで豪快にシメれば誰も文句はない、 というスタイルではない。(それはそれで凄いけれど) どんな相手とどんな試合展開になって、 どんな技を受けても綺麗に受身をとって試合を進め、 最期は多様なフィニッシュホールドのなかから これでどうだ、という技を選択して終わる。 なんという懐の深さと実力とセンス。 もっと神保マチ子の試合(シメ)を見てみたいと思った。