彼女のエレジー

美形シュールギャグの新星 #1巻応援

彼女のエレジー 遊園地迷子
兎来栄寿
兎来栄寿

漫画家の中でも、ギャグ漫画家というのは一際大変であろうと思います。読者を笑わせることのできるギャグをコンスタントに生み出し続けるということの、どれだけ大変なことか。作品を連載していく中で「笑いとは何か」、「面白いとは何か」という正解のない根源的な問に立ち向かい続けねばなりません。 そんな問に悩み悶え苦しむのが、本作の主人公・江萌井哀花(えもいあいか)です。才色兼備の美少女で両親も官僚というスーパーお嬢様ですが、 "‥‥どうして人は金玉という言葉をつくったの?" "私ならきっと安易に「ちん玉」と名付けてた‥ 悔しい‥そこで「金」を出せなきゃプロにはなれない‥‥" と真面目に悩み、ギャグ漫画家を目指している異色の少女です。 学校一面白いとされている田中さんら他のキャラクターたちとの絡みも通しながら、ときに下ネタや変顔などパワー系も交えたギャグをガンガン繰り出していきます。基本的に哀花はお嬢様なので一定の品格はベースとして存在しながらもそこからどんどん崩れていくギャップや、さまざまなツッコミどころ、特異なシチュエーションの面白さなどが病み付きになります。 木村龍介さん名義で描かれていた「【読み切り】青春、失格。」の頃から類稀なるシュールギャグのセンスが好きでしたが、その更に前の「話にならない恋の話」のときから比べても短期間で画力もグッと上がり、哀花のキャラクター単体でも成立するほど外見も中身も魅力的です。 最初に『天才バカボン』を抱えているように、歴代のギャグマンガへのリスペクトを感じる部分も好きです。 『パタリロ』、『B.B.Joker』、『坂本ですが?』、『ふうらい姉妹』、『あそびあそばせ』など、美しいキャラが狂ったギャグを見せる作品が好きな方には強く推薦します。

殺っちゃえ!! 宇喜多さん

こういう強さも、ある #1巻応援

殺っちゃえ!! 宇喜多さん 重野なおき
兎来栄寿
兎来栄寿

松永久秀、斎藤道三と並び戦国三大梟雄と称される宇喜多直家を描いた戦国4コママンガです。 かわいらしい絵ながら、内容はしっかりとしていることに定評のある重野なおきさん。「梟雄」と呼ばれた男の激烈な生き様を、多分にギャグも交えながらもシリアスに描いていきます。普通に劇画で描かれるとエグい内容になりそうなところですが、重野さんの絵だからこそ重くなりすぎません。ただ、戦国時代の凄惨さもしっかりと感じさせてくれる絶妙なバランスです。 なお、作者自身の注釈がありますが「宇喜多直家については『備前軍記』という軍記物が元となっており真偽不明の部分も多いのであくまで物語として楽しんでください」とのこと。実際、他の戦国三大梟雄についても近年の研究によればそこまで残忍でもなかったということが明らかになってきているそうです。歴史の授業で習うことも少しずつ変わっていきますし、その辺りも逆に醍醐味ですね。 ダメ人間である興家と、豪傑な母親の間に生まれた直家の人生は、大きな没落から始まります。そこから這い上がっていく様は、まさに下剋上のお手本でありドラマチックです。 後に彼と激しく鎬を削ることになる浦上宗景は、「酒宴大好き!宗景さん」というサブタイトルのスピンオフを出してもいいくらいのウェイ感全開面白パリピ兄ちゃん。しかしそんな表の顔の下に、たまに鋭く強かな眼光が宿るいいキャラとなっています。 祖父の仇敵と絶妙な距離感を保ったり、妻の父親を殺す命を受けたりと乱世らしい選択を迫られることの連続の中で少しずつ成長していく直家は、立派で魅力的な主人公です。一風変わった節約術など、治世部分にも面白さが色々とあります。 普通の歴史ものが苦手な人でも、少し違った毛色で楽しめるかもしれません。