きまぐれオレンジ☆ロード

夢のような80'sに想いを馳せる

きまぐれオレンジ☆ロード まつもと泉
野愛
野愛

まさに夢のような80's!! 都会的とかお洒落とか大人っぽいとかそういう概念をこれでもかと詰め込んだ最高のラブコメです。 このキラキラした世界観に当時の中高生たちはさぞ憧れたことでしょう。 ごく普通の男の子なのに実は超能力者という恭介の設定も気持ちいいくらいにご都合主義だなあと思いきや、ちゃんとヒロインとの出会いのストーリーに活かされています。 そしてなんといっても2人のヒロインがめちゃくちゃ最高です。 大人びてセクシーなまどかと、天真爛漫で一途なひかるちゃん。どちらも可愛いし、ひとりの女性として人間として魅力的なんです。 恭介が優柔不断になる気持ちもわかる…。選べません。双子の妹ちゃんも2人とも可愛くて選べません。 そして80年代ファッションも可愛いです。ハイウエストのスカートとかロゴ入りのスウェットとか今見ても(今だからこそかも)お洒落で可愛い!! 喫茶店でバイトしたり、ディスコやロックのライブに行ったり、こっそりお酒を飲んだり(未成年飲酒ダメ絶対)…背伸びしたい少年少女が描く煌めきに満ちた青春そのものを謳歌していて、戻ることのない時間に想いを馳せてしまいます。空気感ごと愛おしいのです。 煌めきに満ちた…憧れのエイティーズ… みたいなポエムを思いついちゃうくらいに素晴らしい作品でした。遅れてきた青春をありがとう。

アップルシード

鬼才・士郎正宗の鮮烈なデビュー作

アップルシード 士郎正宗
兎来栄寿
兎来栄寿

『攻殻機動隊2045』がNetflixで公開され話題となっている昨今。『攻殻機動隊』は日本で生まれたあらゆるSF作品の中でも巨大な金字塔です。スティーブン・スピルバーグやジェームス・キャメロンからも絶賛を浴びる士郎正宗の想像力と創造力がなければ、『マトリックス』や『パシフィックリム』といった作品もこの世に存在していなかったかもしれません。その作者である士郎正宗のデビュー作が、この『アップルシード』です。 元々、士郎正宗が学生時代に同人誌として発行していた『アップルシード』の前身に当たる設定のある『ブラックマジック』という作品が存在し、その後関西大学SF研究会の創設者ら関西のSF好きによって創設された青心社から『アップルシード』が連載形式ではなく単行本として出されました。小さな会社であり当初の発行部数も多くなかったにも関わらず、『アップルシード』はその圧倒的なクオリティにより全国区でカルト的な人気を博すこととなりました。 士郎正宗らしい緻密な描き込みや設定、膨大な情報量、そして女の子のかわいさはデビュー作から全開です。編集者によっては「文字が多すぎるし読み難いから削れ」と言われてしまいそうなほどですが、この雑然とした中に構築された確固たる世界観と細部に宿った神によって生じるリアリティにこそ酔い痴れるところです。『AKIRA』が1982年に始まりそのフォロワーが多く生まれた80年台ですが、この時代のSFマンガでこれほどの独自性・独創性を発揮していたものは他にないでしょう。 1988年にはガイナックスがアニメ化しているのに加え、2004年にはセルルック3Dアニメの先駆的作品として映像化され、国内で17万枚、海外で43万枚売れるという大ヒットを飛ばしました。原作は読んだことはなくとも、そちらのアニメは見たことがあるという方も多いかもしれません。 残念ながら連載は中断され、作者自身によって続きが描かれないことも宣言されてしまっていますが、士郎正宗ファンの間では『アップルシード』の続きが読みたいという声も根強いです。 『攻殻機動隊』とも繋がっている物語なので、『攻殻機動隊』好きで読んでない方はもちろん、SFに興味のある方は一つのマイルストーンとして映像化された物と併せて通っておく価値があります。

ご主人様と獣耳の少女メル

「保護」から本当の愛情へ…

ご主人様と獣耳の少女メル 伊藤ハチ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

人間不信から老メイドと共に、大きな屋敷に閉じ籠ってきた女性は、老メイドの提案で一人の獣人を引き取る事にした。メイドとして働く獣人の少女・メルと、主人となった女性は、互いを思い遣る優しい関係を築いていく……。 ♡♡♡♡♡ 英国風世界観の美麗さと冒頭2話の優しいお話に、何処までも温かな物語が続いていくことを願ってしまう。しかし、事はそう簡単には進まない。 第3話から語られ始める「獣人」の設定は、ついスルッと受け入れてしまいそうになるが、「国家の保護管理」を示唆するワードがどうしても心に引っかかる。そうするとメルが日頃装着しているある装具が、妙にリアルな重さを常に思い出させるようになる。 世間を知らないメルは主人に信頼を寄せ、心安らぎ、親愛の情を寄せる。そして主人もメルの純粋さに、次第に「人を信じる心」を思い出す。 心を交わし、温もりを確かめ合う二人と、それを支える老メイドの生活は穏やかで、心温まる。しかし、メルの親愛の情が別のものに変容し、主人がそれを受け入れたいと思った時、「獣人」の設定はメルの装具のように生々しく二人に纏わり付く。 優しい日々に不安を潜ませ、二人の行く末の幸福を祈る物語として、または「国家・管理・差別」といった問題意識の寓話としても重みのある作品だ。

完本 地獄くん

60年代のユニークな怪奇漫画

完本 地獄くん ムロタニ・ツネ象
名無し

交通事故死した太郎くんは、死後に天国へ行くか、地獄に落ちるかをさばかれる"さばきの広場"で閻魔大王と対面します。太郎くんは、あと一回だけお母さんに会いたいという願いを叶えてもらう条件として閻魔大王から与えられた、地獄から人間界へ逃亡した110匹の地獄怪獣を退治するという使命を果たすめ、地獄太郎として人間界へと戻ることに。 その人間界には、地獄へ落ちる予備軍とも言えそうな悪者もたくさんいるのですが、彼らが地獄怪獣と遭遇して危機一髪のところを地獄太郎に助けられ、最後は一団となって怪獣退治するという場面は、太郎くんの心の美しさと勇敢さに悪者を改心させる力があることを感じさせるものでした。 この作品は1967〜1968年にかけて発表された怪奇漫画で、古臭い画風とおどろおどろしいタッチで、表紙を見ただけで嫌厭してしまう人も多そうですが、実際にはコミカルでユーモア溢れる場面もたくさんあって、楽しく読み進めることができます。もとはハンサムだったのに、事故により醜い様相に変わってしまった地獄太郎も、次第に可愛く見えてきてしまうのは、作者のキャラクター作りの巧みさのなすところでしょう。ちょうど同じ頃に発表された楳図かずお先生の"猫目小僧"と太郎くんの容姿が重なるのも、猫目小僧ファンの私にとっては興味深い点でした。