女の子の設計図

百合は不可解、こんなにも。

女の子の設計図 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

紺野キタ先生の百合短編集。四つの物語は新書館の『ひらり、』『ウィングス』と一迅社の『百合姫』より。描かれる感情はいずれも、よく分からない所からやって来る不可解なものだ。 ①『女の子の設計図』…久しぶりに共に暮らす、年子で同学年の姉妹は容姿も性格も全然似ていないが、惹かれていく。恋が生まれ、育まれる様は美しい。なのに恋が生まれる理由は、まるっと欠落していて、それでいて自然。それが二人の、生まれ持ったprogramとでも言う様に。 ②『少年』…上級生から告げられるのは「私の中の少年が、貴女に恋した」という言葉。 当人にもよく分からない恋心と向き合い始める下級生もまた、上級生によく分からない感情を抱く。名も知らぬ感情への怖れと切なさに共感。 ③『wicca』…虐めていた女子と虐められていた女子が、一つ空間に繰り返し閉じ込められる。物語も放棄され、原因の分からない「憎しみ」は何処までも増幅されてから、鎮められる。憎しみの無人島百合は静かな恐怖。 ④『おんなのからだ』…義姉は兄貴と離婚する。恋を確かめ体を重ねる元・義姉妹。あんな兄貴を好きだった義姉、あんな兄貴と同じ好みの妹。どこに惹かれるとかではなく、ただ順番に巡り合った「何となく百合」はそれでも、やっと繋がった幸福がただ尊い。

Cotton

柔らかく刺をくるむ白の短編集

Cotton 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

紺野キタ先生のこちらの短編集は、一冊通して驚きの白さ。画面もそうなのだが、描かれる心も、刺々しい感情を受け止めたり、誰かを思う心を届けたり、苦しみから解き放たれたりといった、優しさと繊細さの白。 柔らかさ・吸収力・伸縮性で、溢れる心を受け止める。そんな感性に包まれた一冊だ。 ●『cotton』…気難しい義妹の女子高生に懐かれ、彼女と向き合う事になる女性。もどかしい子供の心、反抗心と傲慢さ、それと向き合う困難と真摯さ。共に笑い、喧嘩して時に泣き、寄り添う二人の信頼関係が胸に染みる。 ●『生物I』…弱くて群れの中で迫害される少年は、優しい。彼の側に立った少女は彼の心と触れる。 ●『朝の子ども』…結婚と仕事の狭間で悩む女性は、大人を一日休み。 ●『手紙』…引っ越した友達に手紙を出したいのに、どこに行ってもポストが無い! ●『残夏』…本家のバーサンからメールを貰うじーさん。バーサンの死と共に、真実を知る。 ●『telephone』…電話越しに悲しみを共有する子を、側から見る現実感。 ●『under the rose』…母の死と共に異母姉と暮らす。複雑な感情と共に、誰にも内緒の関係を築く。 ●『放課後』…友達を迎えに来る、彼女の声を追ってしまう。

Lily lily rose

子供の夢には、もう留まれない。

Lily lily rose 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

母を亡くして心を閉ざした9歳の凛々(りり)は、叔母・のばらの元に預けられる。不思議な感覚の中に住む凛々が、周囲の理解によって心を開いていく過程を描きながら、次第に物語は、叔母・のばらの過去と内面を描き始める。 凛々の母・ゆりかは、のばらの双子の姉妹。感覚も感情も共有していた二人の幼少期の安心感・楽しさ……それを抱き続けたまま大人になったのばらの、ゆりかへの愛着は重い執着となり、痛々しい。 のばらの想念が捻じ曲がって凛々に向かう、息苦しい後半。同居人の麻耶との、まるで時間のかかる認知行動療法を一気に行うような対話。のばらの感情の起伏に、心を揺さぶられる。 童話、魔女の家、幽霊、不思議な双子語……子供の為の世界をふんだんに描きながら、いつまでもそこにはいられない、という現実を残酷に描く物語。それでも何回も読みたくなってしまうのは、そこに沢山の優しさと美しさがあるからだろう。 (本作は百合作品枠で紹介されることがありますが、のばらと麻耶の関係よりは、双子の強すぎる絆と、そこへの囚われという『双子百合』と捉えると良いと思います。甘いのはありません)

Dark Seed―ダーク・シード―

魔法は子供達を傲慢にする

Dark Seed―ダーク・シード― 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

傲慢さという性質は、なかなか御し難い。それは時に私を駆り立てる力になる。しかし一方で、自分を特別視し人を見下し、高みから誰かに噛み付いては、自分の心を傷つけ狂わせていく。 この『Dark Seed』という魔法学校ファンタジーは、そんな「傲慢さ」とどう折り合いをつけるか?という事が主題になっている。 ★★★★★ 魔力を持つ子供は、毒でもある魔力を中和する「対(カノン)」の存在無しでは生きられない。しかし魔力を持つ子供は力に思い上がり、仮初の魔力を得る「対」を見下す。そんな魔法学校で、主人公の少女は強い傲慢さを持ちながら、とある偉大な魔法使いの力を受け継ぐ。 主人公と「対」の諍い、学生達それぞれのパートナーシップ、偉大な魔法使い一族の内情と、跡目と目されていた少年の画策……それぞれに見て取れるのはやはり、力を持つ故の「傲慢さ」。しかし描かれる感情には共感できる部分が多く、それ故に己の持つ危うさが、客観的に見えて来る。 そして偉大な魔法使いの仕事を受け継ぐ時、主人公は酷くどす黒い「傲慢さ」と対峙する事になる。 学校や師から学ぶのは、魔法より小さくても実のある優しい力との「世界の均衡」。それを好んだ少女は、荒々しさを抱えたまま「傲慢さ」と対話を始める。変に悟って腑抜けてしまうのではない、元気なままで己の傲慢さを手放すやり方に、どこかスッとする。