夜の童話

夜を歩く、生まれる場所へ。

夜の童話 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

春の夜の闇はあやなし…と口にしたのは凡河内躬恒であり、紺野キタ先生の『つづきはまた明日』の主人公・藤沢杳(はるか)少年だった。視覚を制限される夜に、出会う感覚は豊かで、月夜歩きは意外なほど自由。 そして夜は、何かが生まれる場所……朝、生誕、故郷……へ辿り着く。 暗い闇を歩んだ者・不安を共有する者しか辿り着けない、豊かな感慨のある詩的短編集。夜に一つずつ、ゆっくりとどうぞ。 ●『家路』…夢の故郷を絵にしてみた。それが画集になる時、彼の夢はどうなる? ●『庭』…姫の庭には、園丁の少年が眠る。姫が悲嘆に暮れる時、庭は姫を受け止める。 ●『バイエルのワルツ』…営業の谷川君は、事務の時枝さんの結婚話を聞いてしまう。夜道で彼は思い切る! ●『春を待つ家』…奔放な父に振り回される姉弟。それでも共に桜を見る父が好きだ。 ●『カラカラ』…かつて事故に遭った時、祖父と空を操った。 ●『眼鏡売りの男』…月夜の下を不思議な眼鏡を売り歩く男が、出会い・配る物とは? ●『あかりさき』…病院の前で、裸足の少女と出会う。一番星を灯す彼女に託される物。 ●『夜の童話』 ①長いこと借りていた「猫」を返す。 ②三匹の捨て猫と心配な子供達。 ③猫を見つけたお礼に初恋(概念)を貰う。

ひみつの階段

学舎は彼女達のティル・ナ・ノーグ

ひみつの階段 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

酷く疲れた時、懐かしい故郷を思い出す様に、子供の頃読んだ児童小説にまた浸りたくなる様に、私はこの作品に帰りたくなる。 ★★★★★ 歴史ある女子校の、古い校舎、古い寄宿舎。沢山の少女達を見つめて来た其処は、いつしか魂を持ち、少女達に少しずつ関わって来る……そんな大きな付喪神に包まれ、日々を過ごす女学生達の物語。 古い建物の意思によって少女は、時間を遡り、いつの誰とも知れない少女達と出会い、ひとときを過ごして、忘れてゆく。 寂しい子や悲しい子、時に卒業生(特に教師)をも不思議時空に誘い・癒し・温かな気持ちにする。それは今を生きる少女も、将来再びここに帰り・癒される、という可能性でもある。 その学舎は、あらゆる少女のアジールであり、傷ついた魂が帰る場所としての常若の国。少女達にとって「時の止まるそこは、きっと夢の戻り道※」。 複雑に入り乱れる時間軸、奇妙な構成、沢山いて時折見分けられなくなる人物など、何処までもぼんやりした「夢」の様な本作は、読み返せば思い出せる幸福な「夢」である。 ※『二月の丘/zabadak』より引用 ★★info★★ Amazon kindleだと試し読みできるよ!

あかりをください

妙な関係性が繋がる/離れていく

あかりをください 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

変な関係性を綴っている、という点で一致する短編集。 家族であれ結婚であれ、形がヘンテコで、ちょっと普通とは違う感情で辛うじて繋がっている関係性は、どうしても脆く見える。いつ壊れるのか……それとも辛うじて繋がるのか……とハラハラしながら、そこにある思いに胸締め付けられる。 ●『あかりをください』…亡くなった母の再婚相手を父と慕う女子高生。まだ若い「父」への想いと、彼女を助ける親友の想いは、優しく交錯する。 ●『人魚の骨』…子供の頃親しかった人魚と再開する男子。彼を慕う人魚と、時折思い出す蒼い視界。 ●『みあげてごらん』…人の感情が見える女子は母に恐れられ、共に暮らせない。彼女は庭から掘り起こした宇宙アンドロイドと、同士の関係を築く。父・弟・父の部下にアンドロイドが加わった、男だらけの日常が可笑しい。 ●『ビューティフル・デイズ』…酔った勢いでプロポーズを受けたらしい。このまま受けていいものか悩む女性は、友人達の結婚の形を見る。 ●『en rêve(アン・レーヴ)』…夢の中で約束を交わした人は誰……?結婚式のドレスを仕立てながら、この結婚に疑問を持ち始める。

つづきはまた明日

漫画版『子供の情景』には小さな痛み

つづきはまた明日 紺野キタ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

一年前に母を亡くした藤沢家。小五の兄・杳(はるか)と妹の小一・清(さや)は、隣に越してきた原田家の一人娘・小五の佐保を見て驚く。 「お母さんの、子供の頃の写真とそっくり……」 ◉◉◉◉◉ 男女なのに似ている杳と佐保。佐保に親しみを感じる清。杳と似た雰囲気を持つ杳の幼馴染の綾瀬ことみ。不思議な縁で繋がる彼らには、取り立てて大きな事件もドラマも無い。優しいタッチと植物の装飾で描かれる「夢と現」の日常は、明るさも切なさも子供らしい下ネタすら可愛らしく包摂して、ただ其処にある。 彼らの日々を綴りながら、子供の感性について、子供・大人双方の視点から描かれる。幼い清の空想世界を楽しむ大人。少し遠くを見る杳の詩情に魅せられる佐保。人の心に寄り添う佐保の優しさ。子供を見守りつつ自らの心を見つめる大人達……そこにある感性は豊かだ。 楽しい事ばかりでは無い。折々に亡き母を思う兄妹は、時に感情の処し方に迷い、それでも日常を、悲しみ切なさと共に笑って生きる。その在り方は、何があっても「生きていかなければいけない」私達の心の処方箋でもある。 シューマンの楽曲よりは、心が「痛む」感覚のある『子供の情景』と言いたい。