高浜寛先生は長崎を舞台にこれまで二つの作品を描かれてきました。手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞された『ニュクスの角灯』は有名かと思いますが、一作目は長崎・丸山遊郭の遊女である「几帳」が主人公の『蝶のみちゆき』です。今作の『扇島歳時記』はこれら長崎三部作の最終節になります。時系列で言うと『蝶のみちゆき』『扇島歳時記』『ニュクスの角灯』になりますが、読む順番はあまり気にしなくてもよいと思います。むしろ未来から過去にさかのぼって読んでいくのもありかもしれません。『扇島歳時記』で主役になるのが全作品に共通して登場する「たまを」で、遊郭で生まれ育った彼女が大人になるまでの物語なのですが、他の二部作をすでに読んでいて先の展開を知っているからこそ、どう繋がっていくのか楽しみです。個人的には『蝶のみちゆき』が大好きなので「几帳」が登場してくれたら、もう他に何も言うことはないくらい嬉しいのですが。
主人公の学生レンは講義をサボったりネットゲームにハマったりとと自堕落な生活を送っていましたが、ある日、目が覚めると見知らぬ城の中にいました。地面には謎の魔法陣、そして目の前には角の生えた紫髪の美少女が座っていて、直感的に異世界転生したと把握したレンでしたが、目の前の少女が話しかけてきた時にどうやら言葉が通じないらしいということが判明します。 この作品はそんなレンと彼を召喚した魔王の少女マリィとの日々を描いた作品です 。 レンが召喚されてからずっと言葉が通じないまま物語が進んでいくのですが、『翠星のガルガンティア』や『ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~』のように相手の言語を習得していくというような描写はなく、2人それぞれが身振り手振りで何とか意思疎通を図ろうとするという日々が描かれます。いろいろと頑張りながらなんだかんだ上手くコミュニケーションができている、そんな様子がとても可愛らしい作品です、 また、言葉が通じない代わりに、いわゆるノンバーバルコミュニケーションの部分は共通しているようで、読者も普通の作品と比べてより相手の表情や仕草に注目しながら読むことになるので、日常シーンが中心の作品にもかかわらず絵の情報量が多い、ある意味で漫画という表現方法にすごくあった作品ではないかなと思います。 今のところ魔王のマリィの視点での描写がほとんどなく、レンを召喚した理由などについても謎の多い作品ですが、そのあたりも今後のコミュニケーション次第で明かされていくと思うので、それも楽しみな作品です。 1巻まで読了
モデルとしても活動している生徒会長のレンに恋をしている女子高生のミサキ。そんなミサキにはヨウという親友がいて、時々彼女に恋の相談をしている。ボーイッシュで自分とは全然違うタイプだけどいつしか親友と呼べる仲になっていたヨウのことををミサキはとても信頼していて、ヨウのほうもミサキの恋を応援してくれている。 しかし、実はヨウはミサキの恋を応援している素振りを見せながら、彼女のことを密かに想っていた…という物語。 この作品、同性相手に叶わぬ恋をする女の子が主人公の百合作品ではあり、タイトルの『彼女の恋が叶えばいいのに』という言葉から推測されるように、ヨウはミサキに対する想いを胸にしまい込んだままミサキの恋が成就すればいいと思っている、切ない恋物語でもある。 ただ、物語は2人の関係性だけでは収まらず、物語が進むにつれてミサキが恋をしている相手・レンが徐々に2人の間に入り込んでくる。それも、ヨウとミサキ、おそらくは2人ともが望まない形で。その結果としてどんどん人間関係が複雑になっていき、ヨウの想いも変化していく。 最初は「ミサキの恋が叶ってしまえばいい」と思っていたヨウが今後その恋心をどう変化させていくのか、目が離せない作品。 1巻まで読了
ある日普通の高校生・横谷人好(よこや ひとよし)がインターホンに出ると玄関に見知らぬメイドさんが立っていた。彼女は人好に「私を使用人として雇ってはいただけないでしょうか」と尋ねる。そのまま追い返すのもなんなので家に上げて話を聞いてみることにしたのだが、以前までどんな仕事をしていたのかと聞くと彼女は「主に暗殺や監禁・拷問などを嗜んでいた」などという。そんな彼女が、人好の家で使用人として暮らし始めるという物語。 このメイドの人物像は現状彼女の回想のみで語られているため詳しくはわからないが、暗殺などの隠密行動は得意な一方で料理や掃除など一般的な家事はからっきしで、メイドとしての働きはあまり期待できない様子。そんな彼女が人好の家で暮らし始め、今まで経験してこなかった日常や、彼女に自然に接してくれる人好の優しさに触れることで少しずつ人間らしい感情を獲得していくという様子が見られ、暗殺や拷問など物騒な言葉が飛び交う割にとてもほのぼのとした作品。 ただ、実は彼女が人好の家を訪れたは偶然ではなく理由があるようで、人好の方にも秘密がある可能性も示唆されているので、その辺りも含めて今後が楽しみな作品。 1巻まで読了
アクセサリー好きの女子校生・谷川瑠璃は、お店で見つけた水晶のネックレスを買うために母親に小遣いをせびるのですが、あっけなく断られてしまいます。 しかし、その時 母親が「昔、おじいちゃんが山菜採りに行った時によく水晶を拾って来ていた」という話をします。 その話を聞き、興味本位でその水晶が取れるという山に向かったるりでしたが、そこで鉱物学専攻の大学院生・荒砥凪と出会います。 この作品は凪との出会いにより鉱物採集の世界に足を踏み入れていく瑠璃の物語です 凪の方は大学院で鉱物学を専攻していることもあり、地質学の知識や鉱物の学術的な価値にも造詣が深い女性です。 一方の瑠璃は元々アクセサリーとしての宝石が好きだということもあり、鉱物の純粋な宝石としての価値のほうに興味があり、凪の説明そっちのけで鉱物採集に夢中になりがちです。 この2人が共に鉱物採集に行くようになる物語なのですが、凪が詳しく説明してくれるので鉱物の知識も得ることができ、その一方で瑠璃が鉱物採集に自ら積極的に動いていくので物語としてもテンポよく進んでいきます。 また、凪が所属する大学院の研究室の様子も描かれていて、もちろんデフォルメもあるでしょうが 鉱物学という理系的な学問の専門的な部分にも触れられる作品になっています 単行本の巻末には実際に鉱物採集ができるスポットの紹介もされているので、実際に鉱物採集をしてみたいという方の入り口としてもよい作品だと思います。 1巻まで読了
ゲームメーカーでグラフィッカーとなる女性の視点から、1990年代以降の所謂「美少女ゲーム」の隆興を追うこの作品……と聞くと、「美少女ゲーム詳しくないしな……」と後ずさりする方もいるかもしれません。でも大丈夫!私も詳しくないけど、凄く楽しめました。 視点としては三つ。 ①1990年代の時代背景と美少女ゲーム大流行のリンク ②実在の会社名が出たり出せなかったりの可笑しさ ③美少女絵の進化と描き続ける心得 ■□□□ ①パソコンの普及と共に成長する「エロゲー」から始まるこのジャンル。地下鉄サリン等暗い事件、エロの規制を経て「エロゲー」はエロを抜いた「美少女ゲーム」へ変貌。そこで求められた物は、二人の女性グラフィッカーを駆り立てる。 基本OSのヒットにより、拡大する市場で膨らむ物語に、目が離せない! □■□□ ②この作品、実在のゲームタイトルやメーカー、その他名前がバンバン出てきます。しかしそれらを知らなくても面白いのが「名前を出せない」者の存在。伏字すらNGの某基本OSは苦笑いしかないのですが、場合によっては空白の横に「権利者不明により削除」と書いてあったり……背景の複雑さが垣間見えて楽しい。 □□■□ ③ 美少女ゲームに求められた美少女絵とは何だったのか……それは現在の漫画・イラストレーションにも波及する大きな潮流となります。 そしてこの作品、インタビューまで面白い!アリスソフトで初期から製作に携わってこられたイラストレーターのMIN-NARAKENさんのお話は、美少女絵に命を吹き込むこと、それを20年、30年続けていく為の心得を教えてくれます。 イラストレーターだけでなく漫画家も必見! □□□■ 歴史の波長が噛み合って、大きなうねりが生まれる。そのうねりの本質を知り、世界の末端からメインストリームへ飛び込んで行く物語は、ドキドキしますよね?そんな面白さが、今後紡がれそうな予感。今はまだ、貧乏臭いけど……期待!
コミックビーム購読してるんですが、これは単行本でまとめて読まないとダメなやつだと判断し連載は追ってませんでした。そして1巻が出たので待ってましたとばかりに読みました。しかし…一度通して読んだだけではこの物語の全体が全く見えてこない。というより、何もわからない。けど、読み返したり、重要だと思われるページに戻ったりを繰り返すと、やっと何か少しずつ掴めてきます。むしろそれほどに読者に親切じゃないところが逆に魅力的です。読み解きたい欲が湧いてくる。 とはいえ、感想らしい感想はまだ言えない。けどもしかしたらイムリのような壮大な物語になる可能性を秘めていると感じたので、#1巻応援クチコミを書こうと思いました。とりあえず早くタイトル「伽と遊撃」の意味が知りたい! 物語のキーワードは、幻想や妄想などフィクションの粛清、獣人的なAIロボット、チップで管理される記憶、時間軸のコントロール…?今後は過去や未来を行ったり来たりするような展開が待ってるような気がする。 あとは、非常に個性的なキャラクターが多い。記憶チップを開発したリヒト、彼には生きていてほしい。また100年ほど昔、時間の研究をしていた学者が遺し、リヒトがある意味蘇らせた野分兄弟。彼らががこれからどんな活躍をするのかが一番楽しみです。
小六の楓花は母と二人暮らし。忙しい母に代わって料理したいのに、母は火を使ってはダメと言う。しかし彼女には味方がいた。それは……お祖母ちゃん(幽霊)!火を使わずに、お祖母ちゃんの知恵で何が作れるかな? ○○○○○ 直火禁止という、一見困難な縛りが入る料理漫画。さらに楓花は料理テクがある訳でもなく、割と危なっかしい事もする。 そんな楓花を支え導くお祖母ちゃんは、割とサバサバ系のお方。行き当たりばったり、何とかなる!という強者の主婦力で、手持ちのカードで何とかする方法を楓花に教えていきます。 そしてテキトー流で楓花と楽しくやりながら、美味しさだけじゃない、料理に込める気持ちをそれとなく楓花に伝えていき、楓花は大切な事に気づいていく。 作るメニューも本格的ではなく、なんちゃってメニューや手がかからない物、それでいて優しいメニューが多く、ガッツリした男料理を作りがちな私には新鮮でした。 それにしてもこの作品、料理によってレシピがアバウト。だってお祖母ちゃん、材料も味付けも今ある物でドンドン変えていくんだもん……でもそんな感じで、料理の「現場力」を楓花と私達に伝えてくれるお祖母ちゃんの心意気が、胸に染みる作品でした。
この作品は漫画家のアシスタントで夫の悟さんと発達障害を抱える妻の知花さんという夫婦の生活を描いた作品です。 タイトルを見ると少し固い内容をイメージされるかもしれませんが、表紙の絵を見ていただければわかるように、優しい絵柄で夫婦の日常を描いた、とても読みやすい作品になっています。 物語は主に夫の悟さんの視点で描かれておりますが、悟さんは夢である漫画家になかなかなれないことから自らを「ちゃんと生きられていない」という風に形容していて、そんな理由もあってか、発達障害を抱える知花さんに対してとてもフラットに接している印象を受けます。 知花さんと会話しているときや作品の中で起こるトラブルに対して悩んでいるときなどに悟さんは「発達障害」という言葉を使わずに言葉を紡いでおり、このことからも彼が「発達障害」そのものとは関係なく、知花さんという1人の女性に対して寄り添って生きていることが感じられる作品です これはあくまで私の個人的な感想なんですが、この作品は「発達障害」について描いている作品ではないんじゃないかと思っています。 「発達障害」は厚生労働省のホームページでも、病気ではなく生まれつきの特性で、そして個人差がとても大きいという特徴があると説明されています。 この作品も「知花さん=発達障害」という構図ではなく、知花さんの人物像を表現する根拠として「発達障害」を用いているように感じられ、悟さんも「知花さんが発達障害だから」ではなく、知花さんがどういう人物で、トラブルを解決するためにどうすればよいか、というのを一生懸命に悩んでいるように見えます。 つまり、悟さんが「発達障害について知る様子」ではなく、「愛する相手のことを理解していく様子」を描いている作品なのではないかと思っています。だからこそ「発達障害」自体が特別なものではなく、相手のことを知ることで理解し合える存在に感じられ、今まで発達障害と関わりがなかった方にも強く共感できる作品になっているのではないかなと思います。 他にも『アスペル・カノジョ』や『リエゾン ーこどものこころ診療所ー』、『見えない違い 私はアスペルガー』など、発達障害を取り扱った作品はいくつかあり、そんな作品と併せて読んでもらいたい作品です。 1巻まで読了
クレボーン島という島の辺境にある小さな村に住む、宿屋の娘ニコラ。 彼女が村の近くの平原で薪を拾っていると、本来山の奥深くに住むはずのドラゴンと呼ばれる巨大な生物が突然現れる。 身の危険を感じ逃げようとするのですが足がすくんでしまって動けなくなってしまうニコラを通りがかりの謎の男が助けてくれる。 ハガと名乗るその男はドラゴンのことを近くで観察していたといい、あまり自らのことを詳しく語らないのだが、村の人たちは彼は国内の調査をするため国王が極秘に派遣した調査隊「王の探求者(キングスシーカー)」なのではないかと噂をし始める。 そんな中、今度はそのドラゴンが直接村を襲い始めるが、ハガの奮闘によりドラゴンを討伐することに成功する。 その様子を見たニコラは、彼の弟子として冒険について行かせてほしいと懇願するが、ハガはその願いを受け入れることができなかった。 なぜなら彼の行なっていることは単なる冒険ではなくある"目的"があったためである。 この作品とにかく第1話の構成が素晴らしく、1話の中で世界観を見事に表現しつつ最後には裏切りを見せそして2話以降にもしっかり引きを作っていく。 2話以降で彼の本当の目的やかつて一緒に調査を行っていた仲間の話、そして何故か敵対している同業者の話などが徐々に加わり、1話のインパクトに負けずとも劣らない物語が展開していく。 物語の核心に触れて頂くために、まずは何も情報入れずに1は話を読んでみてほしい作品。 1巻まで読了
普段何気なく眺めているチラシやポスターですが、当たり前ですが人の手によって加工され印刷されているんですよね。 あと、本なんて印刷物の塊ですよね。 そういうことの細かい作業や苦労が本作によって知れます。 身近な印刷物にもつい目がいってしまうほど、色味とかつくり方とかの説明をわかりやすく面白く伝えてくれます。 また、主人公が元ヤンという設定も良いです。 というのも、元ヤン=アツイ思いがありやるときは突き抜けてやる、イメージがあるのですが、本作も同じです。 大好きな漫画に影響されて入った会社なだけに、その理想と現実にギャップを感じながらも、一生懸命向き合う姿は勇気と元気をもらえますね。 誰もが何かしら思いがあって、その仕事についているわけですから。 クセのある同僚(主人公も元ヤンで大分クセありますが…)との、連携などもアツイです。 印刷物や印刷会社のことがわかりながらも、お仕事漫画特有の面白さもある漫画です。 人間関係の広がりも含めて2巻がどうなるか楽しみです。
とある病院で産まれた子どもたちが謎の死を遂げる中、唯一元気に退院できた天使のような赤ちゃん・シンセラ。可愛い可愛い我が子に愛を注ぐ夫婦だったが、シンセラは天使ではなく不幸をもたらす黒天使(ブラックエンゼル)であった…。 なんの因果か突然産まれる黒天使(ブラックエンゼル)。なんの理由もなく訪れるのが不幸というものなのかもしれません。 それにしてもブラックエンゼルというルビが味わい深くてグッときます。 わたなべまさこ先生の最高傑作『聖ロザリンド』では最狂殺人鬼ロザリンドちゃんは可愛い可愛い天使のお顔のまま殺戮を繰り返していましたが、シンセラちゃんは天使と悪魔の表情の変化がはっきりと描かれています。 ロザリンドちゃんはサイコパス殺人鬼のサスペンス的恐怖でしたが、シンセラちゃんは悪魔憑きのホラー的恐怖です。 そして、普段は普通の可愛らしい赤ちゃんなので母親の苦悩や葛藤が伝わります。 悪魔だろうと黒天使だろうとシンセラはわたしの愛しい子なの、という母の愛は不幸の連鎖を止めることができるのか?そもそも悪魔にとって愛は救いになるのか? 恐怖だけではなく愛の力にも注目して読んでいただきたい作品です。
癒し漫画です。 出てくるワンちゃんが皆かわいい。 私も離れてますが犬がいて、この行動とるとる!って頷く所もあり、会いたくなりました。 犬とか動物って言葉を喋らないからこそ想像が膨らんで、楽しさ倍増するのかも。 とっても穏やかな気持ちにさせてもらいました。
内容についてはひとまず置いておいて、描かれる風景の壮観なこと。「いや画力…!!」とひとりでブツブツ言いながら読みました。それで初コミックスだなんて信じられない。 そんな彼女がここまでくるのにどんな道を歩んできたのか、なぜぼっち旅に目覚めたのかが、コロナの影響で旅ができなくなったことで描き下ろされた最終話を読むとわかります。 一人旅経験者としては、一人旅の良いところがふんだんに描かれており、もうとにかく「旅行したい欲」が増幅するばかりでした。ただ作者は"ぼっち"以外はありえない!と言っているのではなく、そのほうが都合が良ければ他人を誘うこともある(ただし現地集合現地解散&宿泊も別)。つまり、みんなひとりでも大勢でもいいけど、自由に旅しようぜ!ということだと思います。 それでも人に合わせる必要がない一人旅でしか得られない自由はかけがえのないものだと個人的にも思います。 やっぱり島良いですよね、島。次行くなら伊豆大島かな… ちなみに一緒に北海道を旅した友達の漫画家さんて、鈴木小波先生かな?
高校2年のJK・長谷川結理は、近くの男子校に通う同学年の男子・葛城慶一郎に告白し、付き合うことになる。その告白の流れで慶一郎にキスをしようとする結理だったが、なぜか慶一郎から拒絶されてしまう。「完全にキスの流れだったじゃん」という結理に対して慶一郎は、告白にOKはしたが「性的な接触については同意していない」という謎の回答をする。 実は慶一郎は祖父・父ともに元内閣総理大臣と言うエリートで、さらに"葛城家のしきたり"として「十八歳まで異性との性的接触を禁止されている」という厳格な家庭に育った人間だった。結理と同い年である慶一郎が18歳になるまではあと1年半。つまりそれまでの間、結理が慶一郎に気安く触れることは許されないらしい。 それからというもの、結理が不意打ちで彼に触れようとしたらまるで痴漢を撃退するかのごとく関節を決められたり、2人でいるときも実は葛城家のSPに監視されているということが判明したりと、なかなか恋人として(物理的に) 距離を近づけることができない。 そんな、恋人同士のイチャイチャに夢を持っていた結理と、何よりも自身の家柄としきたりを重んじる慶一郎との交際を描いた作品。 あらすじを見ると、アプローチを仕掛けて行く結理に対して慶一郎があしらっていくという形のラブコメのように見えるのだが、実際にはそれだけではない作品。というのも、導入部分からは読み取れないのが、読み進めていくと結理が慶一郎のことを好きな以上に慶一郎が結理のことを大好きで、彼自身も結理に近づきたい、触れたいという感情を我慢しながら彼女に接しているということが分かってくる。 そんな彼が、基本的には葛城家のしきたりを第一に行動し結理との距離を保とうとするが、ある時には正攻法で、ある時にはしきたりの隙を突いて結理の期待に応えようとしてくれる、そのギャップが可愛らしい。 ただ、そんな慶一郎の行動が若干的外れだったり、そもそも結理の期待しているようなイチャイチャとはかけ離れていたりして、なかなか結理自身が満足する交際はできない、その様子もラブコメとして楽しい作品。 1巻まで読了
酒場の店員・ゆかりの命を救ったのは、記憶喪失の剣士・エン。二人の不確かな道が交わる時、不思議な縁が大きな物語を引き寄せる……。 ★★★★★ ドラクエ的世界観はとても分かりやすく、面倒な世界観の説明無しに、ゆかりとエンと、二人の周囲の関係性に自然と入っていける。 エンに惹かれて冒険者を志すゆかりだが、彼女は強力なスキルどころか、才能の片鱗も見せられない。それでもスリルに喜びを見出し、無茶をするゆかりと、ゆかりに友達と言われた事が嬉しくて、彼女を助けるエン。二人の思い合う心は、それぞれの縁を繋げていく。 ゆかりの友人達とも親しくなるエン。記憶喪失のエンを拾って共に旅をしてきたパーティ、王都でアトラクションを経営する「魔王代理」とその一味……全員がコメディに参加しながら、何か不明なものを内に秘めている。彼らが1巻の後半に少し繋がる時、平和な世界に大きな動きを予感させ、この先への期待感を煽る。 複雑な世界観はなくても、思い合う人々の「縁」を繋げて輪を広げて行くだけで、世界はこんなにもワクワクしていく。そういう楽しさを、今後もゆるく追っていきたい……本当に何も出来ないクセに、度胸は人一倍なゆかりを心配しながら。
少女・女性漫画では、一大ジャンルになっていると思う「偽装結婚」ものだが、青年誌では珍しいなと思い読んでみた。 私、ドツボです。 「モブ子の恋」もそうなんですが、こういう恋愛に対して地味めなカップルが恋愛を意識していく過程みるの好きなんですよ。 それが例え、偽装でも。 特に、恋愛以外に強い価値観があって、それを中心とした生活に満足しているようなカップルーいわゆる恋愛脳ではないので、そこからどうやって発展していくのかが興味津々なのです。 本作も、そんな感じ。 主人公大原は、他人よりもワンテンポ遅れているようなのんびりした性格で、猫と暮らすことに生きがいを感じている。 ヒロインの本城寺は、人をみつめる癖があるのに無表情・無口なため職場で異様な怖さを出しているが、家で一人地図を眺めるのが好き。 二人共、家で過ごすことに喜びと生きがいを感じている。 そんな中、二人の勤務先の旅行会社で海外に出張しなければならない(しかも、ロシア)人員の選抜がはじまる。 候補は独身者。 充実したシングルライフを守るため、大原と本城寺は結婚して(厳密には結婚したことにして)、この選抜から逃れようという流れ。 自分のメリットがなければ結婚しないという、なんとも現代的な価値観だが、納得感のある感じ。 職場の人間に結婚を報告し、祝福されるのを二人が一生懸命取り繕っていく過程で、少しづつお互いの価値観を共有・理解していきます。 まだ1巻なんですが、最後に少し意識しはじめる描写があり、これからの展開に期待しかないです。 続刊楽しみすぎる。 余談ですが、本城寺さんが死ぬほど可愛いです。 年上だからと張り切る姿も、結果空回りして反省するところも、何より1人部屋でスウェットみたいなの着てニコニコ地図を眺める姿・・・普段、無表情だからか、そのギャップにやられてしまいました。 ベタですが、いいものです。
普通の高校生・郡司晃(ぐんじ あきら)は下校途中、なぜかフードをかぶった青年と杖をついたおばあさんの二人しか乗っていないガラガラの電車に乗り込みます。すると次の瞬間、おばあさんは背中から何本も触手のようなものを伸ばし、それに対して青年は 刀のような武器で応戦するという、およそ現実とは思えないような戦闘が始まってしまいます。 突然の出来事に呆然とする晃でしたが、戦闘の隙を突いて逃走を図るおばあさんに触手で捕まり、そのまま拉致されてしまいます。おばあさんの家まで連れてこられた晃は、そのおばあさんから彼女が宇宙人であること、地球には一般人に紛れて宇宙人が普通に生活していること、そしてそんな宇宙人を管理している「Arien Management Organization」通称「AMO」という組織が存在することを知ります。 この物語は こんな経緯で宇宙人の存在を知った彼が AMO の一員となり戦いに巻き込まれていくという話です。 実は地球には人間に紛れて宇宙人が住んでいたという設定は ファンタジーとしてよく見られる設定ではあると思いますが、迫力のある戦闘シーン、主人公の晃が宇宙人の側にいきなりさらわれてしまうという導入、そしてその後の晃がAMOに所属するまでの一連の展開が面白くてつい物語に見入ってしまいます。 また、普通の高校生だと思われていた晃にも、本人すら知らない秘密があり、実はその伏線が一番から隠されているという構成の上手さもあり、とにかく先へ先へと引き込まれる作品になっています。 1巻まで読了
大学病院に勤める医師の穂並は新村さんという女の子の患者さんを持っています。彼女はは小さい頃から喘息の持病で通院を続けており、今は穂並先生に週に数回診察をしてもらっています。 診察をしていく中で2人は「薬が効いて新村さんの病気が良くなったらに一緒に遊園地に遊びに行こう」という約束をしていましたその約束を楽しみにしている新村さんは先生の前ではとても明るく振る舞います。 しかし実は新村さんはこの約束を果たすために穂並先生に隠していることがありました。そして穂並先生もまた新村さんには言えない秘密を抱えていたのです。 新村さんは傍から見ても分かるくらい穂並先生のことが大好きで、穂並先生も新村さんに対しては特別気にかけている様子が見受けられます。その2人の思いというのにはちゃんと理由があって、物語が進むにつれてそのエピソードが丁寧に語られます。 週数回の診察と言う2人の束の間の日常は、そこだけを切り取ると和やかに過ぎているように見えるのですが、そこには2人それぞれが抱える秘密そしてこの秘密をお互いに相手に知られては絶対いけないという強い思いが暗い影を落としています。 2人それぞれの背景や思いがとても丁寧に描かれているため、2人の幸せな未来を願わずにはいられないのですが、2人の両方の秘密を知っている読者視点だとおそらくそんな幸せな未来が待っていないであろうことがわかってしまう、そんな切ない思いが溢れてしまう作品です。 1巻まで読了
文明が滅び、"赤い霧"という謎の自然現象に覆われた世界。 そんな世界を、大きなハムスターのような生物・ヤゴ、そして球体の浮遊する機械・メイとともに旅する少女ヤコーネの物語です。 いわゆるポストアポカリプスの世界を描いてる作品で、1巻の段階で人らしき生物は主人公のヤコーネ以外には見当たりません。その代わりに人間を襲う未知の生物がたくさん現れてヤコーネたちの行く手を阻みます。そんな何が起こるかわからない状況を潜り抜けながら彼女たちは旅を続けています。 ヤコーネたちの旅に大きな目的はなく、強いて言うなら「生きること」を目的にしているように見えます。ただ、その旅では困難はあれど決して悲観的なものではなく、タイトルにある通り、滅んでしまった世界を旅しながら全力で「生きること」を楽しんでいる、そんな印象を受けます。 また、不思議な生物が多く出てくる作品ですが、主人公のヤコーネもまた私たちが思っていた"普通の人"ではないような描写が徐々に見えてきます。もしかしたらそのあたりに、滅んでしまったこの世界全体の謎がヒントが隠されているのかもしれません。 純粋にポストアポカリプスの世界観だけでも楽しめる作品ですが、この世界が滅びた謎についての考察もできるし、それ以上にこの厳しい世界観の中で見せるヤコーネたちの「生きること」対してとにかく前向きな様子に、読んでいて不思議と明るい気持ちになれる、そんな作品です。 1巻まで読了
幼い頃から教育を受け凄腕の殺し屋となった少女メメント・モリ。彼女がターゲットであるマフィアのボス・レオナルドの首を落とした場面から物語が始まります。レオナルドの部下たちが乗り込み、敵討ちをしようとメメント・モリに銃口を向けるのですが、次の瞬間、切り落とされたレオナルドの首から白煙が上がり、彼の体が元通りに再生されます。これは彼自身も知らなかったようなのですが、実はレオナルドは何度殺しても再生する不死身の体の持ち主だったのです。 その後、何度もレオナルドのことを殺すメメント・モリでしたが、その度に彼は生き返ります。 依頼を遂行するまでは帰れないと言い、彼の館に居座るメメントモリ。そんな彼女に対してレオナルドは、彼が死にはしないけれど不老であるわけではなく「ヨボヨボになっても死ねないなんてかっこ悪いだろ」ということで彼女に自身の殺害を自ら依頼します。そんな奇妙な縁でメメント・モリがレオナルドやマフィアの一味と共に暮らし始めるという物語です 暗殺のターゲットであるレオナルドはマフィアのボスなので、善か悪かで言えばおそらく悪の側の人間だと思うのですが、違法な薬物は取り扱わない、自身の利益となるための殺人はしないなど一本筋の通った人物として描かれています。そして屋敷に居つくことなったメメント・モリに対しても自然とマフィアの一員、仲間であるかのように扱い始めます。 そして、元々は殺し屋として徹底した教育をされており、任務のためなら自分の命を惜しまないというメメントモリだったのですが、レオナルドたちと暮らしていく中で、1人の人間として扱われることとで徐々に人間らしい感情を獲得していくという物語にもなっています。 なので、殺し屋とマフィアと言う非日常的な登場人物ばかりですが、いわゆる疑似家族もののような読後感のある作品でもあります。 2人が同居する目的はあくまでメメント・モリがレオナルドを殺すことにあるのですが、それを忘れてしまうほどの関係性が二人の間に構築されていきます。今後、2人の関係性がどのように変化していくのか、そしてレオナルドが改めてメメント・モリに依頼した彼自身の殺害という任務がどうなっていくのか、ハッピーエンドもバッドエンドも想像できるからこそ今後が楽しみな作品です。 1巻まで読了
『対ありでした』の内容については前のクチコミを見ていただくとして、ここでは本作の作者・江島絵理先生の過去作を引き合いにして、本作の魅力を別角度から見たいと思います。 まず『対ありでした』の1巻表紙、カワイイ女子の「涙」が印象的です。結んだ口、溢れる大粒の涙。強い感情がもう、そこにはある。 江島絵理先生の前作『柚子森さん』でも、小学生女子の柚子森さんの「涙」が、印象的でした。女子高生の主人公・みみかに惚れられる柚子森さんは、普段はクールです。いつもテンパっている年上のみみかを、表情を崩さずにリードする役割。 そんな柚子森さんが、遂に涙を流す時というのは、感極まった想いと怒りが溢れる瞬間でした。思わずもらい泣くような、強い感情の大粒の涙。 一方みみかは、柚子森さんの前では常に紅潮しながら、汗をかいている。そして柚子森さんに気持ちをぶつける時、やはり大粒の涙を流す。二人の流す、ここぞという時の「体液」に、心を持っていかれるのです。 さらに前前作『少女決戦オルギア』では、例えば殺される間際の女子高生の、震えと共に汗・涙。今際の際に流れる体液が表現する恐怖に、同調してしまう……それは殺す側の主人公・水巻舞子の、汗ひとつかかないクールさとの対比で強調される。 さらに致命傷の傷から噴き出す血液は、瞬く間に怪物となって、敗者を喰らい尽くす。死の刹那の、黒い奔流。 ここぞという所、極まった瞬間に迸る体液の生々しさに魅せられる、江島絵理先生の創る画面。 『対ありでした』でもそれは、遺憾なく発揮されます。皆の憧れのお嬢様「白百合さま」は、普段は汗などかかない。湿度0%のさらっさら。それが人知れずアケコンに向かう時……汗をかき、負ければ涙し、噛んで血すら吐き……熱すぎる感情剥き出しの、度を越したゲーマーが湿度100%で表現されます。 そこにはやはり、熱く飛び交う、過剰な感情表現としての「体液」があるのです。 そんな白百合さまを、たまたま見てしまった主人公の綾。お嬢様を目指して格ゲーを捨てた綾に、その姿はどう映るか。綾は白百合さまに心動かされるのか、白百合さまに煽られて、体液を迸らせる時は来るのか……。 ○○○○○ 『対ありでした』を楽しまれた方は、江島絵理先生の「体液」と熱い感情のある旧作も、どうぞご覧下さい! 少女決戦オルギア https://manba.co.jp/boards/17564 柚子森さん https://manba.co.jp/boards/73510
そう、二丁拳銃でな!! 家族とともに惨殺された主人公が悪魔の力で高校生の体を借りて生き返る!悪人の魂を狩る復讐者「ソールドキラー」として!! この景気のよさと『サキュバス&ヒットマン』という最高に分かりやすいタイトルに惹かれた方はまず満足できるかと思います。 もう飽和状態やろというジャンルにもなってきてますが、主人公が別人(プロレス好きの高校生!)になりすますシークエンスのおかげで日常描写が面白い。急に人が変わった兄に戸惑う無関係の妹ちゃんとの関係が丁寧に描かれるので、キャラの生活にきちんと奥行きが感じられ、闇の世界で戦うときのギャップにもなって効いています。 一方で悪魔やら魂やらの設定は細かすぎず、敵は極悪、バトルはスタイリッシュとテンポよく楽しめます。パートナーのアルメリナもコレ系の作品にしてはかなり常識人で話通じる性格なのも好み。適度なかわいげがあって良いです。良い。 一巻のヒキは翔矢と同じソールドキラーの女の子と獲物を奪い合う展開になります。これも最高ですね。 ダークヒーローものの魅力が凝縮されてます。ピンときたひとはぜひ!
この作品の主人公は18歳の冒険者ベルリナ・ラコット、みんなからベルと呼ばれている女の子。実は彼女は前世の記憶を持ったまま転生したいわゆる異世界転生者で、孤児院の6歳の子供に転生した彼女は前世の記憶を駆使して大きな不自由をすることなく都会で暮らしてきました。 そんな彼女が15歳の時、たまたま彼女が住む街を訪れた勇者クライスに一目惚れ。その瞬間からベルはクライスの"追っかけ"として勇者一行の旅路を追いかける生活が始まります。 この作品、いわゆる"なろう小説"が原作のコミックなんですが、小説原作のコミックとしては珍しく小説版のイラスト担当の方がそのままコミカライズも担当しているという作品です。 また、導入こそ異世界転生という形をとっていますが、この世界では冒険者の能力やステータスがパラメーターとして認識できるようになっており、転生自体よりもむしろ主人公ベルが転生後に習得した特殊スキルを駆使して活躍していきます。 この作品の面白いところは勇者の追っかけであるベルの存在がすでに勇者一行に思いっきり認識されている、というところにあります。 それどころか、勇者一行に物資を提供したり時にはダンジョン探検に同行したりと、ほぼパーティーの一員のような立ち位置にいます。ですが、あくまでベルは勇者クライスの一途な思いを胸に彼の追っかけとして一定の距離感を保とうとする、まるでアイドルとそのファンのような絶妙な距離感を保ったままクライスたちに付いてきます。そしてそのことに対して勇者一行も疑問に思いつつもそのまま冒険を進めていきます。 この不思議な関係性のまま、行く先々で様々な事件が発生し、その度にベルとクライスの距離が近づいたり近づかなかったり…?というコメディ作品です。 1巻まで読了
高浜寛先生は長崎を舞台にこれまで二つの作品を描かれてきました。手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞された『ニュクスの角灯』は有名かと思いますが、一作目は長崎・丸山遊郭の遊女である「几帳」が主人公の『蝶のみちゆき』です。今作の『扇島歳時記』はこれら長崎三部作の最終節になります。時系列で言うと『蝶のみちゆき』『扇島歳時記』『ニュクスの角灯』になりますが、読む順番はあまり気にしなくてもよいと思います。むしろ未来から過去にさかのぼって読んでいくのもありかもしれません。『扇島歳時記』で主役になるのが全作品に共通して登場する「たまを」で、遊郭で生まれ育った彼女が大人になるまでの物語なのですが、他の二部作をすでに読んでいて先の展開を知っているからこそ、どう繋がっていくのか楽しみです。個人的には『蝶のみちゆき』が大好きなので「几帳」が登場してくれたら、もう他に何も言うことはないくらい嬉しいのですが。