幻の逸材
時に、途方もない才能が世に生まれ落ち、そして、それほど大きな支持を得ることなく、シーンからフェイドアウトしていってしまう。 そんなことは、どんなジャンルにも、よくあることだろう。漫画界にも、それこそ数え切れないほど「幻の逸材」は存在してきたと思う。 しかし、明らかな才能のきらめきに満ちているにも関わらず、なぜ彼らの作品は多くの読者を得ることができなかったのか。 もちろん理由はそれぞれだろうし、それは読者サイドからは掴みきれないことだ。 私たちは、ただ、その単行本を初めて読んだ時の、新しい「なにか」に触れたという心の震えだけを、それ以降、モヤモヤとただ胸中で反芻することしかできない。 私にとって、下村富美はそういう才能だった。 『仏師』のプチフラワー版コミックスを読んだ時、「ああ、この漫画家さんはすごい。絶対来る」と確信したのだが、それ以降、下村はそれほど活躍することなく消えていってしまった。 後にイラストレーターとして多くのヒット小説の装画などを担当しているので、「消えた」と言ってしまったら失礼かもしれない。 しかし、その漫画作品が持つ、素晴らしい絵のクオリティーと奥行きのある物語は、「花の24年組」や「ポスト24年組」に匹敵するような才能であったと、今も思う。 もっと下村富美の漫画を読みたいと、ずっと願っているのです。
マンバのクチコミを読んでからずっと気になっていた作品です。
Kindle Unlimitedで公開されていたので早速読んでみました。
母親が暴徒に襲われたことで産まれた自分の生い立ちに苦しみながら、仏を彫ることで生きることへの救いを見出していく…という話。おそらくアシスタントなしで描かれたであろうシンプルで洗練された絵が印象的です。クライマックスで主人公が彫り上げた仏像が心の迷いから抜け出したことを象徴するような素晴らしい出来で「仏師」のタイトルに偽りなし!と思いました。個人的に坂口尚のあっかんべェ一休を読んだばかりだったのでそこに通じるものも感じました。ただ先のクチコミにもあるようにもっと色んなジャンルを読んでみたかったです。青年誌も合いそうなのになぁ…。