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四十九日のお終いに 田沼朝作品集

会話だけで楽しい稀有な新星 #1巻応援

四十九日のお終いに 田沼朝作品集 田沼朝
兎来栄寿
兎来栄寿

令和5年1月14日。『四十九日のお終いに 田沼朝作品集』と初連載作品の『いやはや熱海くん』が同時発売となり、世界に田沼朝さんの才能が広がる記念すべき日となりました。 こちらの『四十九日のお終いに』の方は、ハルタで公開された3編に、商業未公開の5編と表題作の描き下ろし1編を加えたものとなっています。絵の変化が商業以前以後で顕著ですが、現在の画風は男女問わず間口広く受け入れられ易いであろう良いもので、好きです。 田沼朝さんは、絵の性質もあいまって何でもない日常における雑談を心地良く描く技術がとても高いです。それは、本作収録の最初の「海はいかない」を読んでも『いやはや熱海』くんの1話目を読んでも伝わるでしょう。 その最たるお話が「旅は道連れ」。大阪環状線に乗った受験生の少年が、たまたま出逢ったクラスメイトの彼女と西九条から天王寺方面まで同乗して駄弁るだけのお話なのですが、これが面白い。電車で移動してるだけの時間をこれだけ面白く描けるのがすごいなと思います。551など大阪ローカルのネタが多いですが、伝わらなかったとしても雰囲気だけでも全然楽しめる1編かなと思います。 表題作の「四十九日のお終いに」などは、主人公の葛藤や関係性などもう少しいろいろな要素が盛り込まれており読ませるお話です。これも連載作の『いやはや熱海くん』と共通するところですが、人間関係の絶妙なぎこちなさの描き方が良く、そこを乗り越えて関係性が進展して行くだけで気持ち良さが生まれているのも美点です。ダイレクトな行為や言葉だけでなく、些細な言動が誰かを傷付けもするが救いもするこの世界の美しさを掬い取っています。 「桃と道行き」の最後の1ページがくれる軽やかさなども本当に良いですね。 お薦めの短編集ですし、ぜひ『いやはや熱海くん』と併せて読んでみて欲しいです。両方を読むことで、お互いの味わい深さもより増します。

大蛇に嫁いだ娘

「【傷モノの娘だ丁度いい】そう言われて…

大蛇に嫁いだ娘
名無し

「【傷モノの娘だ丁度いい】そう言われて私は山の主と呼ばれている齢500年は生きていると噂の大蛇の供物としてに嫁ぐ事になった」から始まる話。 1話2話は大蛇との初対面見知らぬ生物との恐怖や戸惑いそこから来る2人の姿は端で見ると思わず苦笑する様な光景。 ところが3話でいきなりミヨの独り言「私ここに来て2ヶ月になる」え?て感じ。ミヨは大蛇に対して怖くて気味悪くて違和感だらけだったのにイキナリこれ? 自分の周りの意見は「なんでこの娘は逃げないの?」の疑問の声が。初日の夜ミヨはここから逃げ出したい、でも回想場面で周囲からの白い冷たい目線が描かれている。それが家族か親戚一同なのかまだ分からない。逃げたいが戻っても…と躊躇する心境がチラっと描かれてはいるのだが。 同じ事は数カ月あと大蛇が冬眠に入ると聞かされて安心した時にミヨは再びなぜ逃げ出そうと思わなかったのか不思議がっていた。 親の借金のかたに自分が遊郭に売り飛ばされて遊郭界隈の怪しい連中そのスジの者から逃げようなんて思うな追手に捕まって折檻受けるだけだぞ的な恐怖で支配されている訳でもないのにと。 大蛇が怖くて初日の夜慌てて逃げだしたが大蛇に見つかり追いつかれ「さぁ一緒に帰ろう」とミヨをおぶって連れ返す。 しかし3話目にはいきなりミヨはここでの2ヶ月も生活し慣れきっている様子。 これって閉ざされた環境から逃げ出せぬまま気が着いたらズルズルと時間だけ過ぎて逃げる気も失せてしまったと言う事なのか? ぶっちゃけコレって男性向けビデオにありそうな「監禁」「調教」モノのシチュエーションじゃない!?と皆で笑ってしまった。 かなり昔あるテレビ番組である出演者がこんなことを語っていた「女の人はピンと来ないと思うがジブリ作品は巧みに男の中に潜むエロを誘発させる節がある」と。 分かり易いのが例が借りぐらしのアリエッティだろうか。 可憐な少女の姿をした妖精を瓶詰めに閉じ込めてしまう場面があった。その行為は男性でなく太った中年女性であったが好奇心旺盛な子どもが無邪気に気に入った花を摘む感覚でなく悪意に満ちた薄笑いした姿だった。大蛇の目線はあれによく似ている。 あれが太った中年男性だったらリアル過ぎて生々しすぎるなどの声が噴出していただろう… 「大蛇さま優しい」「大蛇いいヤツじゃん」の意見もあるがよくよく見ていると大蛇の点数稼ぎの振る舞いに見えてくる。 洗濯モノを干しているミヨに何か手伝う事はないかと尋ねたり口を開けてガバっと川魚を捕る辺りはいいヤツぶりをアピっているだけで本音はミヨとヤリたくてしょうがない下心が見え隠れ。 「身体の調子はもう良いのか」はミヨの体調より自分の性欲優先重視がくっきり。 また僧侶と一触即発しそうになった後の大蛇が山菜を沢山摘んで帰って来たり今日は寒いから上着を着た方が良いよと良いヤツぽく振る舞う辺りもそう見えてくる。 この大蛇て何かに似ているなと思ってたら学生時代なら教師、部活ならコーチか監督ないし顧問、職場なら上司か先輩で自分より目下の者に対して依怙贔屓の激しい拙劣なキャラに酷似している。 依怙贔屓が激しいキャラは自分に甘く自分に都合の良くふるまってくれるイエスマンや自分好みの愛嬌あるルックスの持ち主に甘く気に食わない奴には集中砲火する。 景気のよい時代に楽して入社し楽して昇給し入社が先なだけ勤続年数が長いだけで立場が上なだけで偉そうにしている連中に似ている。 大蛇が嫉妬深いところも似てる。嫉妬深いのは小心者の証。たまたま大柄で向かうところ敵なしで山の主とやらの存在になっている所もよく似ている。 そう言う方向からみるとこの作品「大蛇さまが紳士的ですてきです」とか言ってるとくに女性読者て女性向けコミックにわりと出てくる彼または亭主に浮気されてしまう割りと緩いタイプかもしれない気がした。

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