生活の中のささやかな美しさに気づくのは失った時かもしれない
本当に良い読切を読みました。 そっと涙が溢れてきました。 https://to-ti.in/product/oshiro ある日、夫が事故に遭い、透明人間になってしまった。 透明になった夫との暮らしは見えないだけで不思議で面白く、特に変わらないものかと思ったらそんなことはなく…。 夫が目の前にいるはずなのに表情が見えない生活の中の描写を通して、少しずつ事態を飲み込めていくんですが、その様子が切なくて、どうしようもなくやりきれなくて、喉がギュッとなりました…。 構成も素晴らしくて、何気ない描写に、視線の愛を感じました。 見るということ、見られるということ。 あったはずのものを失うということ。 視力を失うことは一人から世界に対して能動的に見ることができなくなるけど、透明人間になるということは一人が世界から受動的に見られることができなくなる。 受動的なのに、できなくなることって世の中になかなかないんじゃないでしょうか。 「認識できなくなる」という、このフィクションが到達できた哀しみが、手に取るようにありありと伝わってきて、二人と一緒に泣いてしまいました。 抱き締めたい。 本当に素晴らしい読切でした。 11月25日、『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』として発売されるそうで楽しみです。 他の短編も好きなので絶対に買います。
不慮の事故に遭い、夫は透明人間になってしまった。
透明人間になってしまったけれど、今まで通り食事もするし風呂にも入る。もともと在宅仕事が多く外出もあまりしないから、そんなに生活は変わらない。
変わらないけれど、やっぱり変わるものもある。
そこにいるけど見えないものを変わらずに愛することができるのか。忘れずにいられるのか。
今見えているものだって、正しく見えているのかはわからない。見えていても見えなくても忘れてしまうのかもしれない。
透明になってしまう以外に何がおこるわけでもない。救いがないわけでも、あるわけでもない。
ただ、忘れたくないという想いは美しいなと感じた。