『キツネと熊の王冠(クローネ)』のレビュー
「狐と熊亭」は店内の醸造タンクから直にビールを提供する珍しい酒場。経営するのは元気で気さくな親方のマヤと、穏やかな大男・代表取締役のニルス。マヤはニルスが好きだけど……。 『キツネと熊の王冠(クローネ)』は、中村哲也先生の「王冠シリーズ」の第2作目。 最初にお伝えしたいのは、前作『ネコと鴎の王冠』が好きだった方は、読み進めていけばちゃんと前作の世界と繋がっていくので、安心して読んでいただきたい、ということ。 この巻の前半は新キャラクターの二人のお話。新たに醸造所を構えるための準備や店の広報、看板作りなど、ビール造り以外の話にページを費やしながら、マヤがニルスへの恋心を募らせていく様子が描かれる。最初はキツい感じに見えたマヤが、だんだん可愛く見えてくる不思議。 途中、しっかりと休日の過ごし方も描かれ、さらに互いに相手を休ませようと気遣う場面が随所にあり、ドイツの人たちのワークライフバランスについては、ここでもきっちり描かれている。 後半、新醸造所での新作ビール造りの工程は、恐らくビール造りを知る人には楽しい場面だろう。そして夏祭り出店のために周囲が盛り上がり、協力する様は、すでにここから祭りの高揚感をもたらしてくれる。 さらに前作『ネコと鴎の王冠』の登場人物たちとの繋がりが現れ、彼らの再登場に一気に世界が広がり、楽しくなる。 さあ、夏祭り本番は……? マヤとニルスのコンビが創る、賑やかでいて寛げるビール空間をこちらも楽しみつつ、二人の恋愛が成立するのかどうか、目が離せない、そんな漫画。 そしてアンナ。 アンナですよ……。 アンナ祭りがあります。 アンナファンはお楽しみに!
町を二分していがみ合う、西のローゼンタール醸造所と、東のローゼンベルク醸造所。西の跡取り息子・テオと東の娘・ソーニャは家に秘密の交際中。どうにか両家を取り持って、町を一つにしたいと願う二人は、密かに協力してビール造りを画策する。
二人のビール造りは協力者の元で進むが、絶望的な道のりが続く。ハラハラする展開はシリーズ一番。しかしここでの「協力者のリレー」は胸熱ポイントであり、シリーズ集大成の所以だ。
これまでの王冠(クローネ)シリーズより過激な性・暴力描写が続く。はっきりとした悪役も多く、胸が悪くなるが、人の強い感情をぶつけ合い、落としてから高めてゆくダイナミックな300ページは、気がついたら一気に読み終えているほどの強い牽引力があった。