A太郎
K子もU子もA君もこういう人いるなぁと共感しながら読んでいるのですが、A太郎だけはちょっと違う。近藤聡乃さんにしか作れないキャラクターだと思います。単なる三角関係恋愛モノじゃなくて奥深いです。
29歳のえいこさん。誰といっしょになるとか、どこで暮らしていくとか――そろそろ決めなきゃいけない問題も増えてきた。とはいえ、答えなんてすぐに出せない(出したくない!)わけでして……。ああでもない、こうでもない、と思い悩むえいこさんの厄介な日々を綴った『A子さんの恋人』、待望の刊行スタート! 注目作家・近藤聡乃が、初の長編連載のテーマに選んだのは“恋愛”! 恋人・友達・家族と絡まりあう29歳女子の日常描写は、連載開始から「リアル過ぎる」、「“あるある”の連続!」と話題騒然。そう、この漫画の中には、あなたも、あの子も、あいつもいるのです。
登場人物の誰もが何かすっきりしないものを抱えていて、それと付き合いながら生きていく様が良かった。作者自身も美大出身のアーティストゆえに、登場人物の学生時代の様子と社会での生き延び方にリアリティがある。
昔のもの、現代のもの、土地、建物、生活用品などあらゆるものが象徴に満ち溢れていて、詩的な世界と衒いなく接続されている。読んでいるとしみじみ東京っていい街だなと思う。
終盤はちょっと抽象的な会話のやり取りになって、意味が完全に理解できたとはいえないのだけど、最終回はこれ以上ない盛り上がりで、想像する余白もあって、ちょっと寂しくて、完璧だった。A太郎は振られてしまったけど、こんなに皆に愛されてる人はいないし、不幸でも引き立て役でもない。恋愛の必然と偶然が、ものすごく微妙なバランスで揺れ動いていることを改めて思い知らされた気がする。