学園紛争のさなか、人生に失望していた一ノ関教授は悪魔・メフィストと取引きをし、魂と引き換えに新しい人生を手に入れた。過去の記憶を失くし、青年として生まれ変わった一ノ関教授は、資産家・坂根第造に拾われるが…。
『ファウスト』『百物語』と手塚がゲーテの「ファウスト」をテーマにした作品を続けて読んできて、最後にこの『ネオ・ファウスト』を読みました。
舞台は学生運動下の1970年代。悪魔メフィストと契約し、記憶を失った一ノ関教授は50年代にタイムスリップし、大会社の社長と懇意になり「坂根第一」として新たな人生を歩み始めます。
このタイムスリップの期間の短さがキモになっていて、坂根が冒頭の1970年代に辿り着き、自身の正体を取り戻したところで物語が一気にドライブしていきます。
坂根自身の欲望と、彼の恋する女学生、まり子へのメフィストの嫉妬により物語がこじれ、追い詰められていくのは主人公と恋仲に落ちた『百物語』の悪魔スダマの影響を感じさせます。
二作の「ファウスト」をテーマにした作品を経て、手塚が最後に選んだ舞台は高度経済成長期の日本でした。前二作の主人公の欲望は美女を手にする・大金を手にするといったあくまで素朴なものです。
しかし本作の坂根の最終的な目標は新生命を生み出し、自身が神になるという壮大なものです。原典でも人造生命ホムンクルスの創造を試みるシーンがありますが、坂根は現代の科学技術をもってそれを行おうとします。
ここに「出来てしまうかもしれない」という、生々しくグロテスクな味わいがあります。
「ファウスト」を下敷きにすることで描かれてきた人間の欲望の力強さと愚かしさの究極のありようが、本作において結実しているように感じました。
学園紛争のさなか、人生に失望していた一ノ関教授は悪魔・メフィストと取引きをし、魂と引き換えに新しい人生を手に入れた。過去の記憶を失くし、青年として生まれ変わった一ノ関教授は、資産家・坂根第造に拾われるが…。