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80年代には黙殺されたこの才能を今こそ正当に迎え入れたい/松浦理英子(帯原稿より)。本書はペヨトル工房からの第二弾であるが-リリカ-から四年の月日がたっている。しかし内容は逆に-リリカ-以前のものが収められている。キャプションでもあるように-エステル-に至る道であり、宮西の“技術修練”を垣間見ることが出来る。作品は79年ブロンズ社刊「ピッピュ」と81年久保書店刊「薔薇の小部屋に百合の寝台」から自選した物で、いずれも77年~79年にかけて青年雑誌各誌に発表された作品である。なんと作者が18歳~20歳の間に描かれているというのだから驚いてしまう。宮西の言葉づかいは独特である、ここでその謎に触れておかなければならない。本書「Lyrica」の口絵にはタイトル下に《抒情》とある。では、その意図するところは? 抒情とは感情に訴える感覚であり、生来人に備わったが予感する能力とも言える。それは彼の追い求める感覚の総称であり作品はその予感の実体なのである。自ら捕らえようとしたものの姿がこれらの作品である。と、言いたいのではないだろうか。彼の文章は“詩”である。そこに音楽をつけるように彼は絵を描いてゆく。預言的感情に導かれ実体化した抒情…それが -Esther-における副題《あふれてくねるもの》なのではないか…では、あふれてくねるものとは何処へ? それは次回作で明らかとなるだろう。 収録作品:貧しきフリュート/嬲りのよる(ふたなりのよる)/鶏少年/花粉/エンゼルの丘/月の園/大きな黒い岩/メロンの岩/十七歳の妾/Chenges/Friend Angel No.5/ぼくのお尻にきみの勇気/肉体関係/充血果実/歓び、ふるえる/夜のつまづき/鬼百合秘/五月物語
宮西計三は黙殺された才能なのだろうか。
きっと、そうなのだろう。
『ちびまる子ちゃん』のキャラ名に使われていないのだから。
…というのは、まあ、軽口の冗談として。
しかし、彼のそれほど多くない漫画作品を、こうして電子で簡単に読むことができるのだから良い時代ではある。
本書は
「79年ブロンズ社刊「ピッピュ」と81年久保書店刊「薔薇の小部屋に百合の寝台」から自選した物」
ということで、80年代初頭に花輪和一や丸尾末広に続く才能として一部から注目された早熟の異才を知るには、格好のものであると思う。
個人的には、けいせい出版から出た『金色の花嫁』が最も印象に残っているのだが。
とりあえず本書の「1巻を試し読み」をクリックしてもらいたい。
表紙画面から1ページ進むと、モノクロの総扉が顕れる。
寝台に身を横たえた全裸の少年の絵。
この絵にこそ、漫画家・宮西計三の異能が凝縮されていると信じる。
これに感応(=官能)するなら、ぜひ漫画へと進んでいただきたい。
ちなみにこのイラストは、上記『金色の花嫁』所収の「リアリティ」という作品の一部だと記憶する。自分は、この掌編が宮西作品のフェイバリットなのです。
すごい絵だ。
今見ても、心が震える。
名前の印象が近いせいか、宮西計三のことを考えると、いつも宮谷一彦を思い出してしまう。
一応「一時代を築いた」宮谷のマチズモとは、アンダーグラウンドに身を潜め続けた宮西のハイリー・センシティブな資質は随分と異なるのだが、それでも、漫画史の表舞台からこぼれ落ちた「幻の漫画家」として、このふたつの異能は似通ったところがあると感じているのだ。