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土田世紀、生誕50周年記念愛蔵版 時流に流されないテーマ、心に響くセリフ、繊細な画力から天才と呼ばれ、様々なクリエイターから絶大な支持を得ていた漫画家、土田世紀――。2012年4月に43歳の若さで早逝してから7年。そして、生誕50周年となる今年、講談社「モーニング」にて連載され2002年に全2巻の単行本で刊行された氏の後期代表作が愛蔵版で蘇ります。粗暴だが心根の優しい主人公、十一と他者に心を開けない出水。暗い過去を背負ったふたりの魂の共鳴と立ちはだかる過酷な運命の行方を描いた傑作をお届けします。
個人的に、土田世紀作品の中でも、心えぐるものとして「同じ月を見ている」と同等かそれ以上の本作。
もはや紙書籍が流通していないので、電子書籍が頼みの綱でしたが、愛蔵版として再配信されたことを本当に嬉しく思います。
洋の東西、メディアを問わず「生きること」をテーマにした作品は数あれど、これほど濃度こく煮詰めた作品はないでしょう。
絵に描いたような幸せ夫婦に訪れる不幸の数々。
子供を求めては幾度も失い、あげく妻が癌に侵され「自分は何のために生きているのか?」を問う姿。
なりふりかまわず努力しても、命がけで祈っても、何一つ報われない無力感。
生々しい感情や絶望は、読んでいて悲しいとか苦しいなんて言葉では表せない、脳でも処理できない、魂レベルで慟哭します。
書き手も命削って書いているとしか思えないです。
「生きることに意味なんてない」と主治医から一つの答えがでます。
だから、1日1日を懸命に生きるべきなのだと。
当時、自分もこの考えに非常に共感しました。
泣いたり笑ったり色々あるけど、生きることが好きだから生きる。
そこに意味はないのです。あっても、後付けでしかないのです。
ただの悲劇に終わらせない底力がこの作品にはあります。
読んだ時代、年齢で違ったことを考えさせられるので、チープな言葉ですが「名作」とはこういう作品をいうのでしょう。