「オバサン文学」の傑作
齋藤なずな作品集 齋藤なずな
齋藤なずな先生は,ビッグコミック等で作品を発表している作家です。
代表作は「恋愛烈伝」など。
…などと書いてますが,私が齋藤先生を知ったのはごく最近で,
マンバのこの書き込みで知りました。
https://manba.co.jp/topics/16647/comments/171559
ほうこれはどんな作家なのだろうと思って,
とりあえず「齋藤なずな作品集」のうち一つである,
「迷路のない町」という短編集を読んだところ,大変な衝撃を受けました。
傑作!!
「迷路のない町」は,中年女性とか中年男性を主人公にして,
ちょっとした日常の出来事を描く短編集です。
そこで主として描かれるのは,老いとか,加齢とか,
コンプレックスとか,人間の心の弱さであり,
それが鮮烈に切り取られて描写されます。
「中年ならではの心境」を,解像度高く描き出す作者の力量は,
ちょっと只事ではありません。
特に,中年女性が主人公の作品群が凄い。
「彼岸花」「ごはさんで願いましては…」「花いちもんめ」「鴨居」あたりはどれも大傑作。
「ごはさんで~」のうち,「電気店の店頭にあるテレビにうつった自分の姿をみて,
自己イメージと現実の違いに気づいてしまうシーン」(添付)なんて,
本当に絶妙な切り取り方です。
私は,この作品集は,
他に類をみない,「オバサン文学」の傑作だと思っています。
「迷路のない町」は,kindle unlimitedに収録されていますので,
読んだことがない方は,ぜひご一読を。
なお,齋藤先生の作品はほかにもいろいろkindle unlimitedに収録されています。
そのほかに,数年前に発行された「夕暮れへ」という作品集もあります。
ほとんどが再録ですが,「トラワレノヒト」「ぼっち死の館」は新作です。
前者は老人介護文学,後者は老人団地をテーマにした作品で,
いずれも大傑作なので,この2作品のためだけに購入しても全然大丈夫です。
最新の作品集は「初期傑作短編集 ダリア」。
幻のデビュー作ほか,初期作品を収録した短編集とのことです(まだ読んでない)。
さらに,齋藤先生は,「ぼっち死の館」を今でも不定期連載中。
https://bigcomicbros.net/8276/
70歳をこえてなおも現役で活躍中。応援してきたいです。
齋藤なずな作品集
太宰治が玉川上水で心中したことは誰でも知っているけど、なぜそんなことをしてしまったのか、その気持ちを理解することは困難だ。けれども齋藤なずな先生はそれを漫画で描き表している。まるで太宰本人の告白のようにリアルな心情描写である。もし自分が同じ量の資料を読み込んだとしても、ここまでの人物像を突き詰めることはできない。なぜなら作家に対しての憧れという妄想を抱かずにはいれないからだ。もしかしたら齋藤先生の観察眼は描かれている文豪達より鋭いかもしれない。