絵がフルカラーできれい!
フルカラーで1000円しないってだけでもすごい! ラストが意外な結末で、泣けます!
普通の人に「擬態」しても、生きづらい。ダルダル星人の姿を隠して、一生懸命に「働く24歳女性」に「擬態」するダルちゃん。ダルちゃんは「普通」じゃない。そのままの姿だと気持ち悪がられます。だから社会のルールを一生懸命覚えて、居場所を探します。誰かに合わせて生きていると、自分が本当は何を考えているのかわからなくなるけれど、それで相手が喜んでくれているのなら、人に合わせることの、何がいけないのだろう――。資生堂のウェブ花椿にて2017年10月~2018年10月に連載されていた本作。連載時より「しんどいけれど、読む手がとまらない」「ダルちゃんは、私だ」と大反響の声が集まった傑作コミックを、フルカラーで単行本化。孤独への強烈な自覚のある人物が創作に目覚める過程を通じて、自身の「ほんとうの言葉」を獲得していく姿は、圧巻です。くるおしいほどの切実さが胸に迫る傑作コミック。
はじめに、今回の感想は作品既読の方に向けた形で書いております。普段は自分の好きな作品を他の方にも読んでほしいという思いから未読の方が読むことを念頭に置き感想を書いておりますが、他の方のこの作品への感想を幾つか読むうちにある違和感を覚えるようになったので、今回はその違和感を解消しようと色々と考察してみた結果を感想として文章にしてみました。
かなりの長文となってしまいましたがお時間のある方はお付き合い頂ければ幸いです。
この作品の感想をいろいろと漁ってみると、肯定的な意見も否定的な意見も様々ありましたが、多くの感想に共通していたのが「共感」という視点でした。Yahooニュースでも「ダルちゃんは、私」という見出しで作品が紹介されているように、自身をダルちゃんに重ねたり、逆に共感できなかったりというのが感想に現れているものが多かったような気がします。
この「共感」というワード、特に作品を評価する上で「ダルちゃんに共感できる、できない」という基準で語られている点が、私がいろんな方の感想を読んで違和感を覚えるポイントでした。
私はこの作品を「他者への迎合という価値基準しか持たなかったダルちゃんが、自分自身が本来内面に持っている価値観の存在に気付き、それに従い生きるようになるまでの物語」だと思っています。
当初、ダルちゃんは人間の女性に擬態することについて全く違和感をもっておらず、それ故に序盤では飲み会の席でダルちゃんを見下した態度で接してきたスギタさんよりもダルちゃんに対して正論をぶつけるサトウさんに対して逆に嫌悪感を抱く様子が描かれていました。
それが、様々な人との関わり合いによって、他人からの目線に依存しない、文字通り自分の内面から発露する価値観を持っていることに気付き、最終的にそれに基づいて行動するようになる、その道程を描いた物語、という解釈です。
その過程で「他者へ迎合することの生きづらさ」を描かれていますが、それはダルちゃんが本来持っていた悩みではなく、上記の歩みの過程で生じたものであるため、この作品のメインのテーマではないと捉えています。
最終的にダルちゃんは恋愛と自己表現を両天秤に掛け、後者を選択します。かなり恣意的な捉え方になりますが、恋愛至上主義という外部の価値観に囚われず、しっかり自分の価値基準でどちらがより自分にとって幸せなのかを考えた上で出した結論という風に見ることもできるのではないでしょうか。
また、ダルちゃんとお付き合いを始めるヒロセさんのほうも、心理描写はそこまで多くはありませんが、ダルちゃんとの付き合いを継続することよりも、自身のプライベートを詩という形で公表されることを避ける道を選ぶ、という選択をしており、この選択もヒロセさん自身の価値観に従い出した結論と見ることができるのではないか思います。
この「周りに左右されずに自分の価値観に従って生きる」ということが、この作品の根底に流れるテーマなのではないか、私はそのように感じました。
確かに「他者に迎合する」様子に自分を重ねて共感し、涙する方もいると思います。しかし、共感して涙するということは、自身が実際に「他者に迎合する」ことに生きづらさを感じているということ。自分と同じような境遇のダルちゃんに涙する、で終わるのではなく、物語の結末でダルちゃんが至ったように、読者自身も自分が抱く生きづらさに対して自分の価値観で判断し行動するところまで進んでほしい。それが私がこの作品から受け取ったメッセージです。
ダルちゃんは恋愛と自己表現との両天秤については明確に答えを出しました。しかし、擬態して生きていく自分に「そこまで苦痛ではない」と強い拒絶を示さず、結果として擬態を継続する生き方を選択します。つまり、「他者に迎合する」ことが絶対悪ということではなく、他者に迎合すること自体が辛いのかどうか、どうすれば自分はより幸せになれるのか、というのをちゃんと自分の価値観で決めようよ、ということを伝えたいのではないでしょうか。
実は、私はこの作品を読み終わったとき、作品の好き嫌いはあるにせよ、「賛否両論」特に「否定的な意見」が多く出るような作品だとは全く思っていませんでした。それはダルちゃんへの「共感」以上に、この作品を通してダルちゃんが得たもの、そしてそこまで描ききったこの作品に対して感動したためです。
もし、この文章を通して、この作品に否定的だった方が(ダルちゃんのことを好きになれなくても)この作品自体を少しでも肯定的に思って頂けるようになったなら何よりです。
全2巻読了