空白の一日
江川卓と小林繁の「空白の一日」をリアルタイムで体験した身にとって、何とも言えない感傷的な気分になるものですね。小林はこの時までは将来の巨人をしょってたつ男であり、対して江川卓は大エースとなる資質を持った男。巨人ファンだった私は、結局どちらも嫌いになることはできませんでした。そんな騒動の内幕を本宮ひろ志が取材し、実録と銘打って発表したのがこの作品。「空白の一日」は単行本一冊を費やして描かれています。やはり球史に残る大事件だけのことはあり、表に出ない部分で蠢いている思惑の、なんと複雑なことか。いつもの本宮節を控えめにして、事実を客観的に積み上げていくことにより、緊迫した雰囲気と大人の事情に翻弄される青年の姿が際立ってきます。作中にある、小林さんが話をきいたあとにニヤッと笑ったというのも静かな凄みを感じさせる場面。やはりふたりとも被害者だったのでしょう。だから私はふたりとも応援したんだな、と今更ながら思います。
『江川と西本』でも「これにサインすれば巨人(意中球団)に入れるから」と迫られて、「これだけ偉い人達が言ってるんだから大丈夫なんだろう(実際に当時でのルール不備を突いて理屈上は通ってた)」程度の認識でサインした以外は何も関知してない。野球しか知らない若者が大人達に振り回されただけの「被害者」実態が描かれれてたな。
その大人達には、江川のなし崩し的な入団を狙って無条件で交渉して来て、最後にトレードになるだろうが巨人がなるべく良い交換要員出さざるを得なくなるように黙っておこう、長引くほど世間に叩かれるのはどうせ江川と良く言えばしたたか、悪く言えば狡猾だった阪神フロントも入ってる。