「なァんかさ思い出すンだよナ
 クラス離れてから遊ばなくなった奴とか
 転校してったやつとかを
 でも それでも仲良かった奴って覚えてるだろ?」
「――…ウン
 普段思い出すことはないけど
 忘れることもないよ
 ずっと覚えてる」

ページを開くと在りし日の想いを、鮮烈に蘇らせてくれる……
今回紹介する『いないボクは蛍町にいる』はそんな作品です。

小学生の頃、一番仲が良かった友人のことを覚えているでしょうか。
私は今も彼との想い出を昨日のことのように思い出せます。

40日以上の長い夏休み。
好きなだけ寝坊できて、でも夏休み特別アニメの時間には起きて。
普段は観られない昼ドラまで観て。
毎日のように遊んで。
プールやイベントや海や山に行って。
そして、最後の数日は溜めに溜めた宿題に追われて……。
その時、夏休みの日記に何度も書いた名前。

中学で離れ離れになった後もたまにやり取りすることはありましたが、今何をしているのかはもう判りません。ただ、元気に生きていてくれれば良いなと思います。

『いないボクは蛍町にいる』には、小学生の時分ならではの喜怒哀楽が鮮やかに描かれていて、当時の自らの記憶や感情が強く呼び起こされました。

他人から友達へと変わる最初の些細な切っ掛け。
重いランドセルを背負った登下校中の、他愛もない会話や奇行。
わずかな休み時間を目一杯校庭を駆け回って遊んだ時間の楽しさ。
些細なことで守れなかった、友達との約束。
もっと優しく接することができたはずなのに、幼さ故にそうできなかったこと。
それらに対する後悔や気不味さの苦味。

読み手によって、様々なシーンで様々な想いが引き出されることでしょう。子供という存在のリアリティを感じ取れる数々の表現からは、筆者の誠実で真摯な眼差しが感じられます。

この物語の主人公・健(たける)は、大切な友人・卓哉(たくや)を交通事故で喪くしてしまいます。
小学6年生というのは、一般的に考えられているよりもずっと大人で分別もつく歳だと個人的には思いますが、それでも大人でも辛い友人の死を受け止めるには幼すぎるのも確かでしょう。
しかし、健は卓哉が言っていた「不思議な光る物体」に導かれた先で、卓哉が生存しているもう一つの世界線のような町に行き着きます。自分の住んでいる町とほぼ同じながら、少しずつ違う所もある町。この不思議な世界を行き来しながら、切なく優しいドラマが紡がれて行きます。

本作で特に印象的だったのは、ある人物が健にこんなセリフを述べる一連のシーン。

「…ボクもねぇ
不幸を嘆いたことがある
何度も 何度もね
…だけどねそんな中でも
なにかに感謝する気持ちを持てたとき
それは立派な幸福の気づきだと思うんだ
…この歳になってようやく
そう思えた」

この言葉は、友達を喪って自暴自棄になっていた健の心にどんな響きをもたらしたでしょうか。
そして、健を通して読者の心にも慈愛をもって響いてくるセリフです。
誰かに何かを感謝することができるなら、それは幸せなこと。そんな幸せを、人は生きているだけで日々沢山もらっているはずですが、不幸に囚われるとそのことを簡単に忘れてしまう。だからこそ、辛い時ほど感謝する気持ちを大事にして生きていくべきだ、と。

最後のページの健の表情を見た時、澄み渡るような気持ちになると共に、この作品に出逢えて本当に良かったと思いました。

ひと夏の哀しい喪失と優しい奇跡を経て、少年が成長する物語。

現実と地続きの少し不思議な世界を一度は体験してみたい、と思ったことのあるあなたに強くお薦めしたい一冊です。

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世は大サウナブームです。子供のころは熱いだけで一体何が良いのかまったくわからなかったサウナ。しかし、気付けばいつの間にか私も同年代の方々も30代くらいからみなサウナの虜になっています。しきじにもDESSEにも足を運びました。これが加齢……もとい歳を重ねるということでしょうか。 ところで、マンガ界の鉄板といえば「美少女」と「おっさんの好きなもの」の掛け合わせ。故に、こうした作品が出てくるのも時代が生んだ必然と言えましょう。 今までも「美少女×お風呂」というマンガはいくつかありましたが、完全にサウナに特化した「美少女×サウナ」マンガの真打がきららから登場しました。その名も『さうのあっ!』。フィンランド語にある「サウナに入る」という意味の動詞だそうです。 ゲームや動画鑑賞が大好きで、その時間を削られるお風呂は嫌いで数日に1回しか入らない景山こかげ。 フィンランドからやってきて銭湯に居候しているサウナ大好き少女のリューディア・アラヤ。 クラスの委員長でサウナ知識を語り出すと早口になる清水芹香。 ひとりだけ他クラスで、スーパー銭湯の娘でお嬢様口調の高野槇。 4人の高校1年生たちを中心とした、サウナコメディ4コマとなっています。 ・サウナの効用 ・交互浴の基礎 ・ととのうとは ・フィンランドのサウナと日本のサウナの違い ・アウフグースやヴィヒタについて ・野外でのテントサウナ などなどについて、サウナ初心者であるどころか、そもそもお風呂に入る時間ももったいないという主人公のこかげの視点からサウナに関する知識を0から学んでいくことができる内容となっています。 サウナ後はオロポも良いですが、作中で紹介されるフィンランドコーヒーも飲んでみたいです。その際の「飲料を提供する場合は保健所の許可や手洗い設備などの設置が必要〜」という件からは、昨今の情勢を鑑みた細かい配慮を感じました。 シンプルにキャラクターたちがかわいく、きららジャンプをしているところなどもあり、青春の1ページが楽しく描かれています。 「怪我人の救急搬送」 「歩きスマホに注意のポスターみたいですわ」 など、ちょくちょく挟まれるツッコミにもセンスを感じるものが多くクスッとします。専門知識ネタに偏りすぎることもなく、しっかりとツボを押さえながらメインテーマをバランス良く描いている作品です。 最近はなんだかんだ若い女性でもサウナ好きが増えていますが、この作品がアニメ化されて更なるサウナブームが起こったらますます老若男女問わずサウナに入るようになる世界が訪れるかもしれませんね。元々日本人はお風呂好きですし、それによって健康が増進されていったら良いことだと思います。
薔薇なまいにち
このタイトルとこの表紙で #1巻応援
薔薇なまいにち
兎来栄寿
兎来栄寿
『まんまるポタジェ』や『魔女のてしごと』、『 天使にお願い』や『ビーズの指輪』のあいざわ遥さんの最新作です。 その情報と、このタイトルと少女マンガ的なかわいくファンシーな表紙や扉絵のメインヴィジュアルから一見して看破できる人はあまりいないでしょう。この物語の主人公こまちが、ギャンブル中毒の貧乏少女であるとは。 水原一平さんの事件もあり、今注目を浴びるギャンブラー。最近発売された『ヤングマガジン増刊カケヒキ』では、超人気ギャンブルマンガのシリーズ最新エピソードとなる「エスポワール前カイジ」が掲載されました。人間は根本的に、ランダムから快楽を得る瞬間が好きなんですよね。 特に2割以下の人は非常にギャンブラーに向いたリスクテイカーの遺伝子を持っていると一説には言われています。狩猟採集時代は定住していては枯渇する資源を得るべく、リスクを冒してでも新天地で獲物や食べ物を発見できた者が英雄であったためだとか。多くの人にはギャンブル中毒者のことが理解できなくても、それは生存戦略的に必要な資質であったというわけです。もしかしたら、こまちもそういう遺伝子を持っているのかもしれません。 そうして開始2ページで競馬でスり無一文で食うや食わずの生活をして家賃の支払いも滞りながらも優しい大家さんなどに助けられて何とか生きながらえていたこまちは、バラの育種農場でバイトをすることになります。 その農園にいた育種家の青年・園生は、あけっぴろげな性格のこまちとは対照的に対人スキルに乏しく、しかしバラへの情熱は揺るぎないもの。そんな不思議な凸凹コンビが、まだ見ぬ新種のバラを生み出そうと奮戦していく物語です。 まず、バラの育種というテーマが珍しくて面白いです。そもそもどうやって育てているのか、バラごとにある特徴や高く評価されるためにはどうすればいいのか、ミステリーローズとは何なのかなどなど、読んでいて楽しくなる知識が満載です。 また、主軸となるふたりのキャラクターがとても立っていて、どちらも難があるもののこのふたりの掛け合いだけでも永遠に楽しく物語を引っ張っていけそうだなと感じました。 時折ギャンブルも交えながら展開していく異色の作品となっており、バラの育種に興味がある方、ギャンブラーのヒロインに興味がある方、少し変わった少女マンガを読みたい方などにお薦めです。
大きくなったら女の子
「座席」議論に加わっている人に読んで欲しい #1巻応援
大きくなったら女の子
兎来栄寿
兎来栄寿
数日前から、新幹線の自由席で横に乗ってきた異性の話を巡ってネット上で大激論が巻き起こっています。 「男性は〜」「女性は〜」という主語で意見を述べている人に1度この作品を読んで欲しいなと思います。 本作は、人間が皆″男性″として生まれてきて、その中の1割が14〜20歳ごろを境に性転換して″女性″になり、声が低くなり乳房が大きくなり子宮が発達し男性器が縮小し筋肉・脂肪が増加していくという世界を描いています。社会は″女性″が主導していくもので、″男性″はそれを支える存在。 ただ、少しややこしいのですがこの作中での″男性″は現実世界の女性的な外見をしており、″女性″は男性的な外見で発達した乳房を持っています。 最後にあとがきで明示されているように、単なる男女の反転ではなくマーブルな状態を描いているのが特徴です。 この作品の中で、それぞれのキャラクターが語る性別ごとの役割の話や、「″女性″は」「″男性″は」という話や異性に対する態度は、読み手に応じてさまざまな感情を引き起こしてくれるであろうと思います。現実世界に照応してある人にとっては何も引っ掛からず、ある人にとってはこの上ないもやもやが生じるであろうことをつぶさに描いています。 男性だから、女性だから、″女性″だから、″男性″だから有利なこともあれば、不都合なこともある。ときにはそれに対して、過去から長い時間大量に蓄積したものも含めた不平不満を述べたくなることもあるのは否定し得ません。 ただ、筆者の御厨さんが ″性別や属性で人の中身ややるべきことをひとくくりにするのは、個人の理解をなまけたいがための単なる省エネモードのおこないだと思っています。  何かを集団でくくって語るとき、「今の自分は省エネモードになっている」という自覚はしていたいと思います″ と述べたあとがきにあるように、より本質的には個々人に依拠するものに対して意識せずに大きい主語で語ってしまいがちな状況はあると思います。 どういったものに対して自分の心はどういった動き方をするのか。その形を改めて把捉しておくのに、この作品はとても優れています。 何も個人としての意見を表出するなという気はまったくありませんが、省エネモードで雑な結論に結びつけて誰も幸せになれない不毛なやり取りに発展する前に、今一度立ち止まって一呼吸を置いて本作を読んでから、改めて熟考した後に言葉を紡いで発しても遅くはないでしょう。
ただ大きな猫になりたい
恋愛できない猫好きふたりと保護猫2匹の新生活 #1巻応援
ただ大きな猫になりたい
兎来栄寿
兎来栄寿
恋愛関係でない男女の描き方と、愛を持って描かれる猫にまつわる諸々がとても良いなと感じさせてくれる作品です。 男性からの恋愛や性愛に応えられないという悩みを持ち、両親が残してくれた一軒家に女友達のみおと二人暮らししていたものの、そのみおも3年で彼氏ができて出ていき独りになってしまった公務員の黒木里香。 彼女が保護猫をお迎えしようとするもの、譲渡会で単身者で一緒に世話できる家族も近くにおらず、自分の仕事が大変なときや体調を崩したときに責任が持てないようでは厳しいと断られてしまうところから始まる物語です。 猫が好きだからこそ、ペットショップで買うのは嫌で不幸な子をひとりでも減らしたいという里香の気持ち、同じように保護犬を迎えた身としてとても好感が持てます。しかし、ボランティアの言うことも至極もっとも。命に対して責任を負うということはそれだけ重いものですから。しかし、その後に譲渡会で出会った男性と共に助けた猫を育てていくこととなります。 恋愛関係ではなく一緒に暮らし始める男女の関係を描いた作品としても秀逸です。 互いに異性として恋慕することはできない。でも、日常の些細なことを共にして共感したり、「おかえり」「ただいま」と言える相手がいると安心できるという気持ちは確かに存在する。何より、互いのライフスタイルによって猫のサポートを補い合える。 そうした利害の一致から始まる共同生活の様子もいいです。理想的な部分だけでなく、赤の他人と一つ屋根の下で暮らすことの大変さもしっかり描かれます。それでも、猫たちの存在が潤滑油となり新生活が少しずつ回っていく様子を見ていると、世の中にはこういう形があっても良いと思わせてくれます。 私自身、結婚はするまで微塵も考えていませんでしたが、最近骨折した際にはとても助けられて独り身のままだったら相当大変だっただろうなと思いました。保護犬を迎える際も夫婦であるからと安心された部分もありました。何だかんだで共同生活は助かる部分が多いというのは身に沁みます。 また、猫の育て方や猫との暮らし、保護猫への解像度の高さも本作の美点です。原作者の筒井テツさんは実際にボランティア活動をしているそうで、幕間では保護猫をお迎えしたいと思っている担当編集のFさんとの実録保護猫マンガも描かれます。 作中で保護される要介くんと要美ちゃんはそれぞれの個性と共にとてもかわいく描かれ、このまま何事もなく元気で成長してほしいと願うばかりです。
わたしのお母さん
残酷な現実へ手向けられた願い #1巻応援
わたしのお母さん
兎来栄寿
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世の中には、最早どうしようもなく距離を置く以外に対処のしようがない人や物事が存在します。しかし、それが実の親であり自分がまだ経済的に自立できない子供であった場合は最悪です。絶対に離れた方が良いのに、離れる術がなくその手段を考えることすら封じられたままそれが当たり前なのだと刷り込まれて心身を壊されていってしまいます。 本作の第1話はとにかく読んでいて辛いものでした。小学生の少女トワが、毒親の極みのような実母の星羅とその愛人であるみちおから最悪の虐待を恒常的に受け続ける惨状が描写されます。ゴミ屋敷でまともな暮らしもできず、学校に通う時間に酒を買いに行かされ、些細なことで当たり散らされ暴力を振るわれ、あまつさえ……。現実にも、今も同様の被害を受けて生きている子がいるのだろうと思うと居た堪れなくなります。 この物語は、そんな残酷な現実へ手向けられたひと匙の希望であり救いです。リカワリ星からやってきた異星人によって、母親の存在は乗っ取られ、体はそのままでも中身はまったくの別人になりかわりトワは新たな生活を歩み出すこととなります。 虐待だけでなく、保護者間のカーストやそれが子供たちに伝播してのいじめなど現代社会の闇の部分が多く描かれます。子供同士のやり取りや、心の移り変わりの部分にもリアリティを感じます。ただ、そうした不条理をリカワリ星人が縦横無尽に切り開いていってみせてくれる様はカタルシスがあります。 兎屋まめさんの絵も綺麗で、序盤の星羅の描き方のおぞましさの迫力、さまざまなヴィヴィッドな表情の描き分けも良いです。 余談ですが、街並みの様子からも治安の悪さで知られる東京の某所を舞台にしていると感じられるのは気のせいでしょうか。
ねずみロワイアル
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ねずみロワイアル
兎来栄寿
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『ムムリン』や『オオカミの子』の佐々木順一郎さんのかわいい絵柄で描かれる、残酷なバトルロワイアル。 そう、まさに高見広春さんの『バトル・ロワイアル』と同じようなクラスメイト同士の殺し合いが描かれていきます。1999年に出てリアルタイムで読んだ小説が、四半世紀経った今でもこうして色濃く影響を与え続けてフォロワーを生んでいるのは感慨深いです。 基本的なルールも『バトル・ロワイアル』に準拠しており ・殺し合いは島で行われる ・生徒たちには全員爆発する首輪が付けられている ・島にはランダムで刃物や銃器など武器が配置されている ・1日ごとに禁止エリアが設定され行動エリアが狭まっていく といった具合です。進化しているのは、スマホのような携帯端末でさまざまな情報を得られるということ。ただそれもどこかで充電ができないとずっと使い続けることはできないという制約も面白いです。 殺し合いのゲームが進行する傍らで頻繁にエモーショナルな回想が挟まっていく構成もまた『バトル・ロワイアル』を思い出します。それぞれの同級生たちが、普段の学校生活では見られない陰の姿を持っていたり、非日常だからこそ剥き出しになる感情を表したりといった醍醐味の部分もしっかり描かれていて刺さります。本家も、もちろんゲーム的な部分の面白さもありつつ思春期の少年少女たちが織りなす人間ドラマの模様が名作を名作たらしめた部分ですからね。 同じネズミでありながらそれぞれのキャラクターがしっかり描き分けられているのもすごいです。外見は似ているにも関わらず、それぞれがちゃんと個性的に立てられています。そして、このかわいさがあればこそ本家さながらの酷薄な展開が引き立ちます。 血と裏切りに塗れた島で、彼らの運命はどうなるのか。どのような結末を見せてくれるのか。目が離せません。
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『放課後さいころ倶楽部』の中道裕大さんがボードゲーム原作のマンガを描くと聞いたときは、特大の「むべなるかな!」という気持ちが湧き起こりました。 原作者はドロッセルマイヤーズの渡辺範明さん。原作となっているボードゲーム 『Kaiju on the Earth』シリーズは遊んだことがないですが、非常に力を入れて作られており、グッズも多数つくられ『ゴジラ』などともコラボしているようでとても面白そうですね。 どこかから現れ人類を脅かす謎の怪獣という、『ウルトラマン』などでお馴染みの王道展開。故に熱く、燃えそうです。 それをマンガとして非常に上手く盛り立てているのが本作です。 一見すれば怪獣との戦いを描くパニックホラー的なものを想像しそうですが、蓋を開けてみると読めば読むほど続きが気になってくるタイムリープサスペンスとなっています。 一度は現れた怪獣によって滅ぼされかけた39歳の主人公は、気付くと記憶を保ったまま小学生へと戻っておりそこから人類を救う道を模索するべく立ち上がっていきます。 タイムリープしてやり直しを行う作品は多いですが、そうしたタイプの作品の中ではちょっと珍しい展開がありそこに面白さを感じました。 個人的には黒髪ロングストレートのヒロイン藍田さん激推しです。藍田さんの設定も王道からは外れたところがあって、今後どのように扱われていくのか気になります。 牧歌的であった『放課後さいころ倶楽部』とはまた全然違ったテイストで大ゴマや激しいアクションシーンもしばしば登場しますが、中道さんの絵も物語にフィットしていて魅力的です。 原作好きな方だとニヤリとできる部分などもあるのかもしれませんが、原作未読でもまったく問題なく単体で面白く読めます。今後、他のシリーズもマンガ化されていくのかどうかも気になります。
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