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世間を震撼させた猟奇殺人は極限の愛の形だった。情夫の遺体に愛の刻印を血文字で綴った女……、その名は阿部定(アベサダ)。三十路に差し掛かった定は、流浪の人生に疲れを感じはじめていた。真面目になろうと決意し、水商売から足を洗い割烹料理屋の女中になったが店の主人・石田吉蔵と不貞を犯し、愛欲に溺れてしまう。「─――吉蔵を殺し、永遠に自分のものにしたい!」定が犯した猟奇殺人は愛ゆえの行動でもあった……。収録作「気違いの象」ほか「不良時代」「父」「震災前夜」「富山市清水町平安桜」「コレラと梅毒」「籠の鳥」の全7話を収録。
阿部定事件というショッキングな事件を起こしたこともあって、悪女や怖い女という文脈で語られることの多い阿部定の半生が淫花伝では描かれている(淫花伝には高橋お伝の話もある)
艶のある淫靡な絵を描かせたらやはり上村一夫はさすがだなと思う一方で、物語はそれだけに終始せずに、10代半ばで乱暴をされた挙句、芸者に売られ、そしてヒモのように定を食い物にする女衒夫婦から逃げるために梅毒を抱えながら街を離れて、流れ着いた先で出会った男と熱病的な恋に落ちる、定という人間を作り上げた不条理と定の一人の女としての姿が描かれている。
かといって同情的なわけでもなく、阿部定という人間が育ち、阿部定事件を起こすに至ったまでを淡々と描いている。ただのショッキングな漫画を過激に描きましたではなくきちんと一人の人間の姿として描いているので物語としてとても魅力があった。