ホルマリン漬けの女性器――――殺人者お伝は、ただ不幸に染まった女だった……。江戸末期の激動期に、ヤクザの父の種を宿した母から生れた彼女は、養女として富農の高橋家で育てられる。だが、わずか十四歳で無理やりに結婚を強いられ、決して幸福とは言えなかった。その美貌と官能的な肉体ゆえに、男たちに蹂躙される不幸を背負ったお伝であったが、愛する波之助と出会い、再婚してからの日々は幸福になれたかに見えた。だが呪われた数奇な運命は思いも寄らぬ方向へと暗転していくのだった……。収録作「高橋お伝の母」ほか「冬の日のお伝」「お伝故郷に帰る」「お伝故郷仁義(前・後編)」「お伝旅の宿」「高橋お伝」「高橋お伝・その生活とご意見」「お伝夢幻地獄」の全9話を収録。
阿部定事件というショッキングな事件を起こしたこともあって、悪女や怖い女という文脈で語られることの多い阿部定の半生が淫花伝では描かれている(淫花伝には高橋お伝の話もある) 艶のある淫靡な絵を描かせたらやはり上村一夫はさすがだなと思う一方で、物語はそれだけに終始せずに、10代半ばで乱暴をされた挙句、芸者に売られ、そしてヒモのように定を食い物にする女衒夫婦から逃げるために梅毒を抱えながら街を離れて、流れ着いた先で出会った男と熱病的な恋に落ちる、定という人間を作り上げた不条理と定の一人の女としての姿が描かれている。 かといって同情的なわけでもなく、阿部定という人間が育ち、阿部定事件を起こすに至ったまでを淡々と描いている。ただのショッキングな漫画を過激に描きましたではなくきちんと一人の人間の姿として描いているので物語としてとても魅力があった。