ぽんこつポン子

これはいい新連載がきた!

ぽんこつポン子 矢寺圭太
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)

ちょっと未来のちょっと田舎の海辺に住む頑固おじいちゃん。 家族が心配して送ったのは、この仕事が終わったら廃棄が決定している30年動いているメイドロボ。 ガタがきてて首はすぐ落ちるし、包丁を持つとロボット三原則により人間を傷つけてはいけないから震えちゃうし、いろいろぽんこつだけど、とても愛らしくて構ってしまいたくなる。 しかし、500円玉のシーンほんとよかった。妙に説得力があって存在感と寂寥感が漂っててとてもシュールで最高の俯瞰の構図だった。 大ゴマの使い方がとても大胆で潔いので切れ味があって気持ちがいい。 そして、包丁の場面にしろ、イオンにしろ、500円玉にしろ、コマ割りが上手いので間が上手く表現されていてテンポがすごく気持ちいい。 あと単純にかわいい。 ああいう丸い目が好き! 基本的にキャラクターのデザインとか背景の描きこみとか、絵のバランスがすごく良くて好みだ。 最初は、設定的にはベタで手垢がついてるようにも感じたが、いままでの全然上手く描けてなかったんじゃないかって思うくらいすごくよく描けてていいなと思った。 おじいちゃんも「アリスと蔵六」の頑固おじいちゃん的で気持ちがいい。 ドラえもんのような家に転がり込んで一緒に住むタイプになるとは思うけど、のび太君の面倒を保護者の観点から見るような昔のドラえもんとは立場が若干違って、介護という意味では面倒をみられるのはおじいちゃんでも、おじいちゃんの方がより大人だしぽん子の方がトラブル起こすことになりそうだから逆転しそうな気もする。 二人のいい関係性が構築されていきそうで楽しみ。 おじいちゃんのボケ防止になって賑やかで寂しくなくなればいいな。

潮が舞い子が舞い

さらりと本気の背景

潮が舞い子が舞い 阿部共実
影絵が趣味
影絵が趣味

阿部共実はツイッターをやっていまして、自身のマンガの宣伝なんかに混じって時々すごく印象的な風景写真をあげている。光と影のコントラストをくっきりと写したショットであったり、小さな細部が無数に集まってひとつの全体を為しているショットが多いように思う。 とてもいい写真だなぁと思うと同時に、やっぱり阿部共実は目がみえるひとなんだなぁとも思う。彼女の出世作となった『ちーちゃんはちょっと足りない』は目がみえないひとの話だったものだから、いっそうそう思うのかもしれない。ナツの目には海がみえなかった、ナツの目にみえるのは錆びれた団地の綻びとかそんなのばかりだった。つづく『月曜日の友達』は明確に目のみえるひとの話だった。水谷の目に海がよくみえた、磯の匂いが感じられた、建物の錆びは単なる綻びではなく雄大な潮風に吹かれたものだった。 そして新作『潮が舞い子が舞い』は、やはり海辺の町の青春群像だというが、2、3頁にいちどは子どもたちの会話を交わすその背景にギョッとさせられる。潮風に揺れる深緑の影をあそこまで見事にトーンで描くことのできるマンガ家は最近ではもうほとんどいないのではないか。あるいは白か黒かのちょっと哲学的な会話をしている直後の頁に教室の窓からの逆光を見事な光と影のコントラストで描いたコマはどうか。 阿部共実は遠い将来、世に溢れる単なる青春マンガ家のひとりではなく、マンガというジャンルを代表するような存在として語られるのではないかという気がしている。

ハッピーエンドを信じてる

表紙とタイトルに気持ちよく騙された…!

ハッピーエンドを信じてる 藤峰式
天沢聖司
天沢聖司

腹がよじれるほど笑ったBL漫画はこれが初めて。 透明感がありキラキラしてる表紙。 七五調のタイトル。 「おっ、これはしっとりしたドラマかメインのBLの予感…!」と手にとったら、見事に予想を裏切られました。 簡単にあらすじを説明すると「漫画(※BL)のような大恋愛」と「狂ってしまうほど激しいH」に憧れるゲイで腐男子の主人公が、上京してその夢を叶えるため奮闘するというもの。 120%コメディー…! も〜〜メチャクチャ笑える。BL作品を読んでいれば読んでいるほど笑える。主人公の揺るぎない『BL漫画脳』ぶりが、腐女子の私は何から何まで共感できてとにかく面白い。 「静かに心の機微を描かれるタイプの恋愛」よりも、「激しく奪われる」のが好きな主人公は、爽やかイケメン・土谷さんと早くどうにかなりたくて仕方がない。 漫画から得た知識を全面的に信じ、己の欲望に忠実に従って恋愛を強引にリードする姿が本当に爽快!   そしてこの作品は表紙からしてやってくれますよね…! https://res.cloudinary.com/hstqcxa7w/image/fetch/c_fit,dpr_2.0,f_auto,fl_lossy,h_365,q_80,w_255/https://manba-storage-production.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/book/regular_thumbnail/208830/45830391-bddd-4acb-bf5b-6bba7594ee68.jpg 主人公は「ヤバイくらいにアダルト、痛いくらいにドラマチック!」なタイプの漫画が好きなのにオシャレサブカルBLっぽいデザインの表紙なの、最高です。 まさに健全な恋愛などよりも憧れの「激しく奪われるという」ハッピーエンドを信じてる男の子の物語にふさわしい表紙だと思います。 (画像は3話より。何言ってだこいつ…天才か)

バカドリル

ギャグ漫画の可能性

バカドリル 天久聖一
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し

大ヒットシリーズの『バカドリル』は漫画なのか?という疑問は当然あると思うので、タイトルに「コミックス」が入っている本書を挙げよう。 (個人的には、シリーズ全部「漫画」で構わないと思ってはいます) 疑問の余地なく、ここには「新しい笑い」の可能性がある。 それは、すごくシンプルに言えば、宝島やビックリハウスという80年代のメディアが放っていた無類の輝きを、90年代にコスり直し、鮮やかで鋭角に復興させた、ということになるのだろう。 『バカドリル』で提示された方向性を自覚的に継承した才能として、おおひなたごうがいる。(おおひなたは、タナカカツキ門下であることを明言している) また、『おしゃれ手帖』の長尾謙一郎やうすた京介なども、かなり明確にこのテイストを持った漫画家だ。 そう考えれば、現在の「笑い」への影響は計り知れない。 漫画の周縁部に発生しメジャー・シーンに深甚な影響を与えた、という点で、ヘタウマを先導した糸井重里×湯村輝彦『情熱のペンギンごはん』にも比肩すべき、素晴らしい達成であると思います。 まだまだここには「鉱脈」があるような気がしますので、なに気に最近忘れられ気味ですし、今ギャグに興味のある人はこれに刺激受けちゃったりすると、お得なのではないでしょうか。