燃えるV

一応テニス漫画

燃えるV 島本和彦
マウナケア
マウナケア

なんとか、格好がつくくらいならテニスはできます。しかし体力の続く限りガンガン打ち込むだけなので、相手に「テニスをしてない」と言われる始末…。で、そんなときに思い出すのがこの作品。一応テニス漫画ですが、作者自ら「あの漫画はテニスなどいやっていない」といっている、そのまんまの内容です。生き別れた父と再会するため、勝ち続ける事を宿命づけられた主人公・狭間武偉。彼はルールも知らずにテニスを始め、インターハイ、そして4大大会で頂点を目指す。なんて書くのもばかばかしいほどで、実際にやっていることといえば、ダブルスを一人で戦ったり、ストリート・テニスなるもので日銭を稼いだり、あげく必殺技は相手の体を狙う技…。テニス漫画として読んではいけません。でも、テニスに格闘(熱血では無い)要素を取り入れて、笑いも涙も盛り込むなんて、凄いことだと思いません? 後の『逆境ナイン』や『無謀キャプテン』などより、テニスというスポーツを突き抜けているこちらのほうが全然いい。最近、作者のこの手の作品はないようなので、ライバル・赤十字の息子編とか描いてくれると、また燃えるんだけどなあ。

赤ちゃんと僕

子育て小学生が日本の家族観を揺さぶる

赤ちゃんと僕 羅川真里茂
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

母を亡くしたばかりの小学生・榎木拓也。彼の前には、泣いてばかりの弟、稔。母はなくても子育ては待ってくれない。家事に育児に忙殺され、苛立ち苦しむ拓也。それでも……やっぱり弟、可愛いかも。 —- ハートフルコメディというには、ちょっと息苦しく、それでも愛おしい作品である。 ほんの1、2歳の幼児にべったりで面倒を見る、思春期間近の小学生である拓也。子育てがうまくいかず、悩み、苛立つ彼の様子が、綺麗事を抜きに表現されるので、この作品で子育ての辛さに向き合うことになった読者の少女(そして私を含めた少年)は、ショックを受けたものである(昔話)。 家庭から目を外に向けると、拓也の前には、家庭や対人関係に苦しみ、傷ついた人達が現れ、捻じ曲がった言動を彼にぶつけてくる。 しかし拓也は、まっすぐさと優しさで彼らに接し、その捻じ曲がった心に気づかせて、本来の優しさを取り戻してやる。その優しい着地に私達は安堵しながらも、何か心を抉られたような痛みも同時に感じる。 家庭とは、性差とは、愛情とは……コメディに隠されて提示される問題意識は根深い。この作品を読んだ少女(私を含めた少年も)は、自分を支えている価値観や、甘く楽しい将来像を、激しく揺さぶられた。 2019年の今、この作品を読んでも、日本の家族観・性差の問題というのは、なかなか変わらない部分があるなぁ、と気付かされる。そういう意味で、1990年代のこの作品は今だに読まれる意味を持つし、この作品の問題意識を、新しいやり方で表現する漫画が、現れて欲しいと思う。 拓也の笑顔の向こうには幾千万の、年上・女(今作ではむしろ男)・母といった役割を押し付けられ、苦しんでいる人がいる。そういう人達のためにジェンダー論で戦う前に、まずはこの作品を読むことで、むやみに人を傷つけない、優しい解決を目指したい。

野宮警部補は許さない

ゲスをもってゲスを制す痛快ストーリー

野宮警部補は許さない 宵田佳
六文銭
六文銭

警視庁内にある「特別対応室」 ここは、警察内におこるトラブル(ハラスメントとか、怠慢とか)を表沙汰になる前に対応していく部署。 別に「監察」という部署もあって、ここはより大きな事件・不祥事を扱うので、特別対応室は、そのサポートというのが役目。 警視庁内も、一般企業以上にガバナンスが効いてて驚きます。 それだけ暴走しやすいということなのでしょう。 本作は、そんな「特別対応室」のお話。 警察官といえど全員が善人ではありません。 小悪党じみた輩がゴロゴロいます。 この作品が面白いのは、「悪は絶対許さない!」みたいな正義感をもった主人公が情熱的に対応する・・・という展開ではなく、外面だけが良い微妙に性格の悪い主人公野宮警部補が裁いていくところ。 逃げ場のない状態まで証拠を集め、時に嫌らしく、時にネチっこいやり方で、小悪党たちをこらしめていく様は、痛快の一言です。 悪口をノートに書いたりする大人気ない様も、どこかチャーミングに映るから不思議。 2巻以降は、監察とのセクショナリズムや権力抗争など、警察組織の闇が垣間見えてきて、物語にグッと奥行きが出て今後の展開が楽しみです。 ともあれば、基本はゲスをもってゲスを制す!的な展開は、読めば爽快感間違いなしな作品です。

こちらから入れましょうか?…アレを

夫婦の行き違いを描く実はセンシティブな物語

こちらから入れましょうか?…アレを 松田環
sogor25
sogor25

1話掲載の段階で結構話題になっていた作品。1話を読むとかなり突飛な設定のエロコメディに見えるけど、その実もっとセンシティブなテーマを扱ってる作品、のように見える。 夫・敦が「入れられなく」なった理由。それはひょんなことから妻の優の過去を知ってしまったことに起因する。夫婦だって当然今までの過去の全てを共有してるわけではないから優のほうに落ち度はなく、落ち度がないからこそ自身の現状に対して負い目を感じてしまっている。 一方の妻・優は「こちらから入れる」という方法でなんとか目的を達成しようとするのだが、以前よりは幾分かマシになったものの満たされたかと言われるとそんなことはない。そして自身の知られたくない過去をよく知る男の登場により、彼と夫との間で板挟みの状態になってしまう。 それぞれがやや特殊な秘密を抱えた夫婦だけど、この作品の1番のポイントはその秘密をお互いが相手に打ち明けることなく悩み続けているという点にあると思う。生きていれば誰にだってある"秘密"を極大まで強烈なものとして描いているけど、程度の差こそあれ相手のことを思うためにその秘密を打ち明けられず苦悩する様子には誰もが共感できるはず。むしろ、悩み自体にインパクトがあるからこそ、夫婦の両方に共感できる物語になってるような気がする。 夫婦2人の内面の描写も丁寧だし、内容的には少女マンガと言っても全然差し支えない。そう、アレさえなければね。 1話まで読了