キングダム

無数の事実としての、無数の奇跡としての・・・

キングダム 原泰久
影絵が趣味
影絵が趣味

いよいよ『キングダム』が化けの皮を脱ぎ捨てて、その本質を剥き出しにしてきたと思うわけです。これまで毎週のようにキングダムに夢中になっていながら、どうも周囲の熱狂ぶりから一歩身を引いてしまう自分がいました、自分の夢中になるポイントがどうも周囲とはズレているように思われて仕方なかったのです。 あるいは戦術的な細かな考察であったり、あるいは将軍たちの個性をマネジメント能力や経営論の名のもとにビジネス書にまでしてしまう素っ頓狂な連中、そろそろこういったものたちに厳しくノーを突き付けなければならないような気がするのです。やれキングダムから世間を語ろうがビジネスを語ろうが何を語ろうがそれはまったくの自由だが、そうすることでキングダムというこの漫画の一頁一頁に迸っている本来の魅力をうっかり見逃してしまいはしないか、そんな危惧があるのです。キングダムの魅力は、そんなふうに何かに援用されて語られるような二義的なものではないと切に思うのです。二義的であるというのは、すなわち根本的ではないということ。上記のような援用の仕草は、無数の事象の積み重ねによる幾重もの絡まり合いから途方もない事実として現前にあらわれる「いま、ここ」にあるものを単なる何かの理由からくる結果として弄んでしまう。 世間的には支離滅裂だと不評だった犬戎戦で、「元と正せば我こそが貴様らの祖、貴様らの王である」と因果論を振りかざすロゾに対して、フィゴ王は言わなかったか。 「何が王か、何が祖か、一体何百年前の話をしているのだ貴様は  貴様ら犬戎と我ら山の民は大きく違う  貴様らはこの平地の孤島遼陽に滞まり続けたが  我らは西の大山界で覇を争い戦い続けてきた  滞まるお前たちと違い、我らはそれぞれ夢に立ち向かう者」 まずフィゴ王は犬戎と山の民の違いを指摘してみせた、それはまさしく、ひとつの因果としての捏造された物語に組み入れられることへの拒否にほかならない、つまり、お前はお前だが、俺は俺だ、勝手に一緒にしてくれるなということ。その上で「我らは"それぞれ"の夢に立ち向かう者」、つまり、我らはお前が勝手にのたまう因果の物語には生きていない、我はそれぞれの目の前に瞬間ごとに立ちはだかるこの現実をしかと見据えている、ということだと思うのです。 そして最新話、散々騒がれた隊の覚醒とは、ひとはそこに因果を探りたくもなるものだが、じっさいには単なる因果とはまるで無縁の、いや無数の一瞬一瞬からくる因果のはてに荒唐無稽と呼びうるまでになった途方もない現実の積み重ね、ほとんどそのひとつひとつが奇跡ともいえる圧倒的に現前する事実また事実の一回かぎりの繰り返し、そのたったひとつとしての士気の爆発でした。 だいたい私たちはどんな因果の物語に括られようが、じぶんにこの先いったい何が待っているのか、そんなことは誰に言われるでもなくわかっているのです。同じようにキングダムの結果だってわかっているのです、秦は中華を統一して、やがて滅び去るのです。そして、ほかでもない私たちは秦が中華を統一した後の世界に生きている、そこにどんな因果があるだろうかはひとそれぞれにしても、とにかくこの事実だけはどうしてもひっくり返りようのない途方もない奇跡のような事実なのです。

マダム・プティ

1920年代、世界を股にかける「小さな奥様」の物語

マダム・プティ 高尾滋
たか
たか

 はあぁ〜〜ッッ!! うっ! ハァン...何もかも素敵すぎる。物語は新婚の大正乙女が、夫と一緒にトルコからオリエント急行でパリに向かうところから始まります。正確に言うと、駅に向かうフェリーに乗るところから始まるのですが、主人公の万里子は市場から逃げた羊をフェリーに向かって馬で追い立てながらやってきます。な…何を言っているのかわからねーと思うが、読めばわかります。やだこの子超かっこい...!!  ネタバレを避けると熱く語りたい部分が何ひとつ言えないのですが、ネタバレにならない素敵な部分を列挙すると ・1920年代(大正時代)のヨーロッパが舞台 ・客室や異国の街並みの精緻で美しい背景 ・オリエント急行で起こる事件 ・勇気と能力のある自立した主人公 ・インドから来た明らかに裕福で高い教育を受けた青年 ・多国籍な友人たち ・世界を股にかける壮大な物語 ...とまあ、こんな感じです。  大正時代の日本が舞台の少女漫画でも、1920年代のヨーロッパが舞台の少女漫画でもない、「大正乙女が印欧で活躍する少女漫画」というかなり珍しいこの作品。2人の関係が歴史と絡めて深く掘り下げており、恋愛漫画としても歴史(時代)漫画としても非常に読み応えがあります! 全11巻という手頃な巻数で、濃密なヒストリック・ラブロマンスをお楽しみいただけますので、ぜひ買ってください(ダイレクトマーケティング)