初老の娘と老母と老猫 再同居物語
行く道にあるもの #1巻応援
初老の娘と老母と老猫 再同居物語 松本英子
兎来栄寿
兎来栄寿
初老を星雲に喩える詩的な1ページ目から始まる本作は、50代半ばになり実家に帰って母とふたりで同居するようになった生活(with猫)を描くエッセイマンガ。 母娘ともに頑固で、よりにもよって結婚式のときに決定的な決裂があり、両者の親同士の面会の機会も作らなかったという筆者。そんなことがありながらも、歳を重ねたことによってお互いにパワーがなくなり、母の体調が悪くなってきたことも切っ掛けとなって一緒に暮らすようになったという流れに人生を想います。 まず、筆者個人の体験として更年期の多様な辛さ(大事な打ち合わせ中にすら眠ってしまう異常な眠気、若いときには普通にできたことが全然できなくなってしまったりするやるせなさ、些細なことであり得ないほどイライラしてしまう様など)が克明に描かれます。今日某SNSで「絶好調を100とするなら40…いや35ってとこか」というモラウを挙げて「40歳超えてから毎日これ」という呟きがバズっていましたが、筆者いわく「ピチピチなんだよ40なんて あとになってわかるよ」とのこと。 こればかりはなってみないと解らないことですが、30代ですら20代のころと比べると大分老化を感じている現在、それでも後から考えれば今なんてまだ全然若くて健康な内に入っていくのだろうなということは想像に難くありません。なればこそ、この体が元気に動く内に、為せることや為したいことは為しておきたいなと思います。 また、自分たちの体だけでなく家もところどころ老朽化してガタがやってくる様子が描かれます。大規模なリフォームをするほどのお金もなく、また愛着もあり、ガムテープで補修して騙し騙し暮らしていく姿には切なさと親しみを覚えます。 お互いに大人しくなったとはいえ、また血の繋がった家族であるとはいえ、たとえばトイレットペーパーはシングル派かダブル派かなどの違う部分がありときに諍いも起きます。しかし、それでもかつて子供のころにあったような母親との幸せな時間を少しずつ取り戻していく諸々のシーンは静かに胸を打ちます。 親との関係性も含め、これからの日本では独居世帯に加えてこうした老老世帯もますます増えていくのでしょう。そうしたときの道標となりうる、先達のありがたい教えが込められた作品です。
あたしンち SUPER
令和になったあたしンち
あたしンち SUPER けらえいこ
かしこ
かしこ
2021年個人的に一番嬉しかったのは久しぶりにあたしンちの新作単行本が発売されたことです。あたしンちは子供の頃から読んでいて大学卒業くらいの時に休載したんですが、自分のお金で単行本を買うようになってからは、年一回の発売日がちょうど誕生日に近かったので自分へのプレゼントとして買っていたんです。なので休載が本当に悲しくて、空白の6年が体感として10年に感じるくらい長かったです。それからのAERAでの連載復活のニュース、そして今年になっての単行本化はとっっっても嬉しかったです。しかもその発売日がちょうど私の30歳の誕生日だったので、まるでタチバナ家のみなさんに祝福されているかのような気持ちになりました。 待っている間はあんなに長かったのに、新刊を読んだら「お久しぶり感」がゼロでした。あたしンちの世界もコロナ禍になっていて、お母さんはAmazonで買い物してるし、お父さんはUber eatsを使おうとしてるし、しっかり現代にアップデートされてるのに、いつもと同じタチバナ家の日常にするっと入り込める。こんなに自然な続編を私は他に知りません!でもこれはいつも「当たり前の日常」を汲み取って形にしてきたけらえいこ先生だからこそ成せる技だと思います。これからはいつもの面白さにプラスしてあたしンちの絶妙な進化も楽しめるなんて最高です!!
登拝女子と山伏さん 人生変わった御利益登山
霊山に登っていたら急に結婚できた女性のお話
登拝女子と山伏さん 人生変わった御利益登山 たなべみか
兎来栄寿
兎来栄寿
以前にも『登拝開運祈願 山伏ガール』をたなべみかさんによる、山伏エッセイコミック第二弾です。前作と併せて読むとより楽しめますが、こちらだけを単体で読んでも十分楽しめます。 前作から引き続き、私の故郷である吉野山に連なる大峰山、また『咲-Saki-』読者にはお馴染みの石鎚山なども登場するため個人的には読んでいる際の解像度が高くて人一倍楽しめている作品です。何を隠そう、先日も前作に登場した金峯山寺で朝の勤行を行い法螺貝を吹いてきたばかり。流石に本気の修行は心身的にもスケジュール的にも厳しいですが、修験道には慣れ親しんでいます。 多くの人は、山岳信仰や修験道というと何だか「難しそう」「堅苦しそう」といったイメージもあるかもしれません。しかし、本作は内容としては非常にラフで俗世の煩悩にも塗れているので(「妻がお遍路に行くから家でゲーム三昧できる!」とか、お酒飲みたいなど笑)、コミカルな描写に笑いながら楽しく読みつつ学べる内容となっています。 親から一生結婚できない娘と思われあらかじめ墓まで建てられていた筆者が、まさかの交際0日で山伏と結婚することになった顛末なども描かれており「自分の人生では起こり得ないであろうことを疑似体験できるエッセイマンガ」「未知の世界の知識を得られるマンガ」として非常に面白いです。 また、さまざまな山に登り寺社を巡っていくのですが、その風景の一枚絵が非常に緻密で美しいのも特徴です。実際に自分も行ってみて同じ景色を見たくなるほどの魅力があります。参考として、冒頭に登場する鳥取県三徳山の三佛寺奥院、通称「投入堂」の画像を引用します。 67歳にして、3000m級の山で数十kgの荷物や人間までを背負って運びながら登拝のサポートをしてくれる「強力(ごうりき)」の人の仕事ぶりなどは凄まじいです。 なお、本作では筆者がストレスが元でなってしまった「片側顔面痙攣」と向き合い手術へ立ち向かっていく姿も描かれていくのですが、その続きは筆者のブログで読むことができます。 令和となった現代日本にも連綿と伝わり息衝き続ける世界を、この本を通して知ってみませんか。
迷宮日和
少女たちの少し不思議な日常と、世界の謎 #1巻応援 #完結応援
迷宮日和 吉富昭仁
兎来栄寿
兎来栄寿
14歳の日向、13歳の愛梨、12歳の果歩、11歳の真理。4人の少女たちと、愛梨が想いを寄せる少年・翔が中心となって繰り広げられる、地下世界の群像劇です。 物語世界に関しては最初に何か説明があるわけではなく、読み進めて行くたびに情報が小出しにされていき少しずつ全容が見えていくという構成です。 例えば、1話で解るのは ・地下の九龍城のような場所で人々が生活を営んでいること ・電気は通っていること ・立入禁止区域があること ・翔は地図を作っていること ・黒いスーツの男がやってくると家族全員どこかに連れ去られること ・カンガルーが出没すること ・建造物を生成する″野良重機″が存在すること といった感じで、最初は掴みどころがないように感じるかもしれません。 しかし、その後も ・誰も空を見たことがない ・誰も超えたことがない″東のカベ″という壁が存在する ・毎年6月の毎週月曜日〜水曜日16:10から1時間、真水の雨が降る と段々色々なことが解っていくのは、ミステリー的な面白さがあります。 また、メインのキャラクターたちによるこの世界における日常描写、とりわけ愛梨と翔のラブがコメるさまなどはそれだけで楽しいのですが、オブラートのように世界の謎を包み隠している印象もあります。この辺りは同じく吉富昭仁さん作の『地球の放課後』を感じさせますね。 玄関の靴の4者4様の揃え方で性格を暗示しているのも好きなシーンです。 読んでいるときは、早くもっとこの世界の謎の核心に近づきたいと思うのですが作中で 「世の中知らないほうが面白いことだってあるんだよ!!」 「もともと人生は″迷宮″なんだしさ」 というセリフが登場する辺り、メタ的です。 少し不思議な世界観の作品が好きな方は1巻完結で読みやすいので、試し読みから入ってみてはいかがでしょう。
だんな様はひろゆき
元ドワンゴ社員が読んでみた
だんな様はひろゆき wako 西村ゆか
hysysk
hysysk
と言っても私はもう退職して10年近いし、末端だったのでほとんどひろゆきさんと絡んだことはない。たまにエレベーター前で見かける程度で、1度だけ関わったプロダクトのレビューを受けた。まともなことを言っていたように思う。ネット文化に理解があって堅苦しいことは言わないので、話が早い人ではある。 それにしてもここ最近、テレビやニュース、SNSで彼の話題を目にしない日はない。論破王などと呼ばれ、若者のオピニオンリーダーになる日が来るなんて思ってもみなかった。 この漫画はそんな彼が普段見せない姿を描いてくれているのだが、一体誰がこんなひろゆき(敢えて呼び捨て)を知って嬉しいのだろうか?彼を昔から知っている人間からすると特に意外性はなく、「宇宙語」と呼ばれる言葉遣いがキモいなと感じる程度。普通の夫婦のエッセイ(結婚式の写真がカラーで載ってる)という感じで、もしかするとそれこそが狙いなのかも知れない。「あの2ちゃんねるを作ってサラリーマンの生涯賃金を1年で稼いだにも関わらず賠償金を踏み倒しまくってる論破王も、僕らと大して変わらないんだな。微笑ましい!」 …なんて思うか( ゚Д゚)ゴルァ!!