異世界もう帰りたい

ヌルッと始まる異世界生活 #1巻応援

異世界もう帰りたい ドリヤス工場
nyae
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福満しげゆき、山本さほあたりを好んで読む人におすすめしたい。少しは報われたいなぁ、とかままならないなぁ、とか思いながらも毎日なんとか生きてる人は、この主人公、俺(私)じゃね?って思ったりするかも。 今はもう、異世界に転生しても「ああ、例のね」といった感じで誰も驚かない世の中になっていますね。 主人公の下山口くんもそんなかんじでヌルッと異世界生活を始めます。 彼がなぜ転生したのかは読めばわかりますが、この漫画の面白いところは「日本も異世界も変わんないな」というシーンが非常に多いところ。 元の世界への帰り方を聞いたら誰もわからなくていろんな場所をたらい回しにされたり、上司?の飲みの誘いが毎日憂鬱だったり、団体と相席になりそうになってビクビクしたり、カウンター席どこに座るかの見極めに失敗したり(すぐ帰ると思って隣に座った客が思ったより長居する)…など、どっかで見たような光景が異世界にもゴロゴロしてました。 その中でも「わかるめっちゃある…」と思ったのが映画館の指定席選び。(漫画の中では映画ではないが) まあまあの混み具合のなか、どこの席を選択するかは最終的な映画の満足度にかなり影響するのでとても大事。しかし、結局運に左右されるのは日本も異世界も同じなんですよね。 正直、主人公が帰れるかどうかはどうでも良くて、異世界に転生したからといって何かが劇的に変わるわけじゃないパターンのやつも面白いということです。 むしろ自分はこっちの方が好き。

Azalea

バトルも頭脳戦も最高にカッコいい女刑事の活躍劇 #1巻応援

Azalea 鳳乃一真 新島光
sogor25
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誰もが認める凄腕の刑事でありながら、その能力の高さゆえに独断での行動も辞さないという暴れ馬・氷堂楓。近未来のような、洋画の中のような世界で活躍する彼女と、彼女が事件の解決に乗り出すことになる"犯罪者だけを狙った連続殺人事件"の首謀者「幽霊卿」との対決を描くサスペンス・アクション。 彼女の向こう見ずに事件解決へと突っ走っていく性格や身体能力の高さから来る派手なアクションシーンに目が行きがちですが、個人的には彼女の最大の魅力の根源は事件の本質を見抜くその洞察力にあると思っています。その洞察力は事件の推理を行う際だけでなく連続殺人鬼と対峙した際にも遺憾なく発揮され、彼女の行動力や事件解決能力を裏打ちしています。 また、キャラクターとしては一匹狼のような雰囲気が強い主人公ですが、彼女の周囲を取り巻く登場人物との関係性も魅力的に描かれます。彼女の思考の根本までは理解していないにも拘わらず、阿吽の呼吸で彼女をサポートする同僚のビリー。長年連れ添った友人のような間柄の検死官のキーナ。おそらく過去の何らかの事件で司法取引を行って彼女に協力するハッカーのジル。そして、出会ってすぐ惹かれあって結婚した最愛の夫・アーサー。どこをとってもそれぞれがバディのような深い関係値を示していながら、実際に事件解決に向かうときには単独行動。この外連味溢れる感じが、好きな人にはたまらなく刺さる作品だと思います。 さて、物語のほうは1巻の終盤で一気に加速していきますが、ストーリーが進むにつれてその展開がこの作品の大いなる導入に過ぎないことに気付かされます。ここからどう事件が連なって楓と連続殺人の黒幕とが引き寄せられるのか、かなり長丁場になりそうな予感があるので、是非作者が満足できるどころまで描けるよう応援していきたいところです。 1巻まで読了

神無き世界のカミサマ活動

異世界転生して神になるマンガ!

神無き世界のカミサマ活動 半月板損傷 朱白あおい
異世界スキー

昨今の転生モノ市場、これまでにない題材でいかに外角際どめのコースを攻められるかという過酷なレース展開になってきた感があります。 もはやなにが外道でなにが正道か分別つかないバーリトゥードの様相を呈してきたおかげで、逆説的に物語やキャラクターそのものが持っているパワーを見極めやすくなっているのでは?という気がします。(気がするだけか?) それでいうと本作のキャラとストーリーフックはなかなかエネルギッシュで見応えあります。 主人公のユキトは父親に宗教団体の教祖として生きることを強制され、神の依代として「望まぬ死」を迎えることになります。転生後の異世界は宗教も神も存在しない彼にとって理想の社会でしたが、決定的に異なるのが死生観。 異世界の住人は死を恐れず、国の定めによって自らの命を絶つことを厭わないどころか、それを拒む者を「カクリ」と呼称して差別し、その命を奪うことも当然としています。 ユキトはその行為を許せず、皮肉にも彼らに「救い」を与え、神としての権能を振るうことになるのです。 古今宗教とは人間の死生観と密接に関わって発達してきたものです。 死生観が根本からズレている世界で神を描くというのは個人的には非常に興味深い試みに思えます。 特に最新6話では、この異世界には「理解できないもの」に神性を見る原始宗教的な心のあり方が存在しないことが示されました。 神のいない世界で神となり、人間の生死を左右する…。 「キャッチーな装いの下で実は相当に重厚感のあるテーマを描こうとしているのでは…?」とひとりソワソワしてしまいました。 観測していきたいと思います。

ダブル

自信を持ってあらゆる人に薦められる野田彩子作品

ダブル 野田彩子
sogor25
sogor25

同じ劇団に所属している俳優仲間で、しかも同じアパートの隣同士に住んでいる2人、宝田多家良と鴨島友仁。多家良は一度演技に入ると類稀なる才能を発揮するが、自活力が皆無で日々の生活も友仁に頼りっぱなし。しかし多家良が友仁を頼っているのは生活面だけではない。劇団以外の演技の仕事も入り始めている多家良の劇団のほうの稽古の代役、それも友仁が務める。友仁は言う。「多家良の代役を演じられるのは俺だけだ。」そして「多家良の芝居は俺を裏切ることで完成する」と。 いわゆるバディものではあるのだが、純粋に対等な立ち位置というわけではなく、かつ演劇というテーマだからこそ成り立つ共依存の関係性が面白い。演技の場面と相まって、多家良と友仁、2人の人間的魅力が随所から伝わってくる。演劇の外における2人以外の人間との関わりのある開かれた空間と演劇の中の閉じられた、特に多家良と友仁の2人だけが共有する空間とのメリハリがあり、2人の醸し出す特異な空気感が感じられる。 これまでも「わたしの宇宙」「いかづち遠く海が鳴る」「潜熱」と凝った設定と独特の雰囲気の作品を描いてきた野田彩子さんだけど、個人的にはこれまでの作品はややニッチな読者層に向けられた作品が多かった印象がある。その中で登場したこの作品、意図的かどうかはわからないけど、一気に広い読者層に届きうる方向に舵を切り始めたように感じる。演劇がテーマということもあり、ドラマ化なんかして一気に人気に火がついたりしたら読者冥利に尽きるんだけど、関係者の皆様いかがでしょうか? 1巻まで読了

にがくてあまい

にがくてあまいのは行為ではなく心理

にがくてあまい 小林ユミヲ
名無し

にがくて美味い、と にがくてあまい、は違うものだと思う。 この漫画「にがくてあまい」に例えて言えば にがくて美味い、は、そのまんまBLでありゲイの味覚だと思う。 にがいのが美味いんだよ禁断の味で、というか、 ゲイとしてストレートに味わう快楽の味というか。 自分はゲイでもないしBL信者でもないので想像だが。 にがくてあまい、はBLでありゲイである男が 自分がゲイであることを自覚した上でそれでも 生きていくことで感じる心理的な味の事だと思う。 くどいようだが自分はゲイじゃないので想像だけれども 世の中に数多あるBLやらゲイやらの漫画は にがいのがうまい、を描いている「だけ」だと思う。 にがくてあまい、を描こうとするなら ゲイの心理にもう一歩、踏み込まなければ描けない。 この漫画「にがくてあまい」が凄いのは ゲイである渚の心理にも「だけ」でないレベルで 踏み込んでいるし、 同様に親子関係や仕事関係で屈折したものがあった マキの心理にも踏み込んでいく。 漫画家をめざし渚の兄と関わったミナミの心理にも踏み込む。 踏み込んで初めて見出せる「あまい」を見せてくれている。 単にイケメンのゲイとアラサー女の同居コメディではない。 ゲイという一般人がしらない禁断の味をあまいといっている わけでもない。 ゲイを切り口やとっかかりにして、 人の心や生き方に踏み込んでいくことでみつけられる 「にがくてあまい」を表現しているのだと思う。 さらに凄いのは、そうやってズカズカと渚やマキの 心に踏み込んだ上で、時によっては 単にイケメンのゲイとアラサー女の同居コメディとして 平気で渚やマキの心も 「踏み荒らしまくったりもする」 のだ。まあ主にギャグ回のオチとしてだけれども。 「人の不幸は蜜の味」という言葉もあるが、 唐突に無慈悲な面白コメディとしてソッチ方向に 舵を切って「笑えるにがくてあまい味」を 味あわせてくれたりもする。 そう思う。 くどいようだが自分はゲイではないので想像だけれども。

神絵師JKとOL腐女子

魂の一致というあまりに必然的な関係性

神絵師JKとOL腐女子 さと
兎来栄寿
兎来栄寿

全世界が待ち望んだ『フラグタイム』さとさんによる百合マンガです。 タイトルを読んで字の如く、あまりに尊い推しカプの絵をSNSにアップし続けてくれる神様が、実は年下どころか女子高生だったという実際にあってもおかしくないお話です。 オタクにとって解釈が合うかどうかというのは死活問題です。生きる糧になっている程の作品におけるカップリングや解釈が合わない時の悲しみ・辛みはエイトケン盆地より深いもの。逆に言えば、それが一致する相手との出会いは正に奇跡。 本作の二人は、そういう意味で奇跡的な相性を持っていました。二人ともパーソナリティ的には若干残念な部分がありつつ、しかし二人で推しについて語り合う時間の楽しさはすべてを忘れさせてくれるもの。 JKの方が上げた絵に対して毎回真っ先に長文感想を送っていたOL、そしてJKの方もその感想をとても楽しみにしていたという美しい構図もあり、二人を結びつける絆の必然性を強く感じさせてくれます。 巡り会うべくして巡り会った運命の二人の間に年の差などという障害は無いも同然。優しく穏やかに関係を深めていく二人の様子をただただじっと眺めていたいです。 オタクとしての在り方が確固たる主人公の様子だけでも共感する所は多く、百合要素抜きにしても楽しめる作品です。