母親に捨てられて残された子どもの話

顔も知らない母親に捨てられたことを、中学生で知った子供

母親に捨てられて残された子どもの話 菊屋きく子
名無し

いかなる理由があったとしても、自立できない子供に「自分はいらない子だ」「死んだほうがまし」と思わせることは罪深い。 自分に無関心な父親と、自分に異様に厳しい祖母と3人ぐらしの主人公、ゆきはなぜ自分に母親がいないか知らない。しかしある時に実は自分は「捨てられた」という事実を知ることで、今まで押し殺してきたものが一気に爆発してしまう。 それをきっかけに、ゆきが今まで父親と祖母から受けた仕打ちをちゃんと怨み、怒り、この人達から離れようと強く思えたことは読み手としては非常に救われた。強いものに押さえつけられながらそれがおかしいことだと気づかない子供を見るのはつらいので。。 そして更に興味深いのは、父親目線と祖母目線の話も描かれていること。一方向だけから語られる話は、受け取り方に偏りが出てしまうこともあるので。とくに父親がどうして娘に無関心に仕事に没頭していたのか知ると、彼は決して娘が憎かったわけではないんだと知ることができた。ただやり方が極端だっただけ(しかし責任は重い)。 老人ホームに入居してから祖母には会ってないということだけど、どうやって祖母目線の話を描けたかというのが気になった。父親づてに聞いたか、想像かはわかりません。いずれにしても、それぞれの事情を考えると他人事ではない身近にわりと起こっていそうな話。 この話でよかったのは、主人公のゆきが自分で考えて行動できる強さと賢さを持っていたこと。実際はもっと大人になるまで自分が置かれている状況がおかしいと気づけない人のほうが多いのではないかと思います。 ただいちばん恨むべき母親が、顔も知らなければ連絡先も今生きてるかどうかも知らないという状況はしんどいなと。

百合もよう ~咲宮4姉妹の恋~

それぞれの恋、ゆっくり同時進行中。

百合もよう ~咲宮4姉妹の恋~ はちこ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

短いページに二人の女子の、様々な百合感情のやりとりを切り取る、はちこ先生。この『百合もよう ~咲宮4姉妹の恋~』では、また面白いやり方で様々な百合恋愛模様を描いている。 姉妹物だが、姉妹百合ではない。というか、四姉妹が一緒にいる場面は数少ない。しかし冒頭、女の子同士の恋愛についての姉妹の会話の様子だけで「ああ、この子たちは確かに姉妹だわ……」とはっきり分からせるのがもう、凄い。 本編は長女・次女・三女・四女の恋愛模様を4ページずつ、順番に描いていく。 同じ血を分けた姉妹だが、性格も恋愛模様も四者四様。 ●高校教師の長女は、教え子の高1女子と恋愛中。卒業まで秘密にしたいが……。 ●新人OLの次女は女性課長に片思い中。なかなか踏み込めないが、段々仲良くなってきて……。 ●高校生の三女は大好きな幼馴染に告白される。言われて次第に意識し始める恋。 ●こちらも高校生の四女は「王子様」女子の先輩と交際中。先輩の本当の顔を知っているのは私だけ……。 様々な形の恋模様が、同時進行で少しずつ進んでいく。毎話毎にときめく瞬間やちょっとエッチなやり取りにドキッとさせられる。 四者とも感触の違う、それでいて同じように甘い百合のトキメキを交互に突きつけられると、一人の物語を連続して紡ぐのとはまた違った中毒性があるという、凄い百合発明。 重さは要らない、ただ百合のイチャイチャが見たいんだ!という方……そんな貴方を中毒にする作品だ。

新日学園 内藤哲也物語

一歩踏み出す勇気、ってやつです

新日学園 内藤哲也物語 新日本プロレスリング株式会社 広く。
野愛
野愛

まず、わたしはプロレスファンである。 そして、内藤哲也アンチである。 推されてきた割に期待されてきた割になかなか花開かなくて、ロスインゴで急に人気出たけどロスインゴ別に内藤のオリジナルユニットじゃないんだし、言うほどスペイン語喋れないし、会社に推されてきた割にオカダに対して会社に推されてる人はいいねみたいなこと言うし って思ってきたのでこの作品を読むべきかどうか迷っていた。大アンチなので。 ファンからはこういう視点で見えているんだなあと納得しました。 推されていたのになかなか花開かなかった部分も含めて、泥臭さ不器用さを感じて応援している人たちがいるんですね。 そう考えると、真田とかBUSHIとかロスインゴのメンバー、内藤の歴史を語る上で欠かせないタイチもそういう魅力がある人ばかりだな…それは認めざるを得ないんだけど…内藤だってそうだよな… 実際の内藤うんぬんはさておいて、漫画の内藤は夢を追う若者として眩しく応援したくなります。 実際のオカダはもうちょっと可愛らしいところがあります。 普段新日本はそこまで見てなくて、インディー団体ばかり見ている者が言うのはアレですが プロレスは幅広くて面白い世界なんです。こういう学園ドラマを重ね合わせて見るもよし、イケメン選手の顔を見るもよし、レスリング技術の細かな部分に感動するもよし…どこからでもいいのでプロレス好きになってくれる人が増えたら嬉しいのです。

百合百景

心も体も触れたい二人の百合SS

百合百景 はちこ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

1ページに百合感情を端的に表現されると、そのページに目を奪われ先に進めなくなる、という感じ、『百合ドリル』を読まれた方にはお分かり頂けるだろうか? 『百合ドリル』は複数の作家さんが寄稿されていたが、『百合百景』とその続刊『百合ごよみ 百合百景2』は、はちこ先生がお一人で、1ページ(時々2〜4ページ)の百合ショートショート(SS)を描き綴っている。 少ないコマで、あるいは一枚絵で、二人の百合的関係性を、割と明るく大らかに、そしてしばしばエッチに描き出す。 非常にスキンシップが多く、読んでいてドギマギしてしまうが、触れたいのに間合いを測りかねたり、触れていても想いは微妙に追いつかなかったり、想い合っているのに互いに気付かなかったり……二人の感情の距離感が色々で面白いし、端的に表現されるせいか心にストレートに響く。 2巻とも女子高生のお話が多いが、女子二人のあらゆる百合関係性を描き出し、更に進んでいくとOLや年の差百合、そして『百合ごよみ』には時節要素も加わり、百合関係性の博覧会の様相。飽きることがない。 私はこの2冊を読むのに、概ね5日はかかった。そのくらい濃厚なこの作品。あなたは何日かけて読む?

そういう年頃になっちゃった年の差姉妹

十歳差妹の「成長」に姉たじろぐ。 #1巻応援

そういう年頃になっちゃった年の差姉妹 はちこ
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

二人の百合シチュエーションを、あっけらかんと、そしてちょっとエッチに描くはちこ先生の新作は、10歳差姉妹の関係性コメディ。 Twitterで時折見られたこの姉妹のお話が、遂に、ついに書籍化となった事を、まずは言祝ぎたい。待ってました! 形としては、16歳の姉と6歳の妹のやり取りと、それから10年後、26歳の姉と16歳の妹のやり取りが比較されながら描かれる。 姉は年の離れた妹を溺愛。いわゆる「目に入れても痛くない」というやつだ。そして妹も、姉が大好き。 しかし、この「大好き」という言葉が曲者だ。 姉はいつまでもこの言葉を「親愛の情」と受け取るが、成長してしまった妹の感情は……? そして単なるスキンシップからキスに至るまで、6歳と16歳でこんなに意味が変わるのか、ということに、こうして比較して描かれるとはっきり気付かされ、軽く驚く。 ほのぼの仲良し姉妹を見た後に繰り広げられる、妹の成長を掴み切れていない姉にグイグイ迫る妹、ドキドキしつつも妹の真意を図りかね、たじろぐ姉……というやり取りが、クセになる。いつまでも眺めていたい、至上の姉妹百合!

ほうき世界のアレアとイアラ

ボーイ・ミーツ・ガールから始まる夢と冒険に満ちたファンタジー #1巻応援

ほうき世界のアレアとイアラ 赤瀬よぐ
sogor25
sogor25

400年前に発明された"箒機関"という魔法科学によって発展した世界、図書館司書として働く本好きの少年・アレアはふとしたことをきっかけに歴史から忘却された"箒機関"を発明した伝説の魔女の名前を発見する。その名前"ERLA"を読み上げた瞬間、400年の時を越えてイアラが蘇り、アレアの目の前に姿を現したのだった…という場面から始まるボーイ・ミーツ・ガールストーリー。 そんな明るく楽しい希望あふれる物語…なのかと思いきや、ここから物語は急展開。イアラの代わりに伝説の魔女として歴史に名を残す魔女ヴィーゼの存在、魔法の使用を取り締まる政府特務機関ドライマギアの登場、そしてアレアの口から唐突に語られる「魔女狩り」の言葉。表紙の絵柄からは想像しなかった入り組んだ世界観が露わになります。 しかし!そんな世界のなぞを目の当たりにしても"本物の伝説の魔女"イアラの目に曇りは全くありません!この物語は、能天気で底抜けに明るい"伝説の魔女"イアラと歴史から隠匿された彼女の存在を世界に伝えると決心した少年アレア、2人の出会いから始まり世界を変えてゆく、夢と冒険に満ちた正統派ファンタジーです! 1巻まで読了

黄昏の買い食い部

二人の東京「食の」心象風景 #1巻応援

黄昏の買い食い部 鈴木小波
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ

私はこの作品を電子書籍※1で読んでいますが、驚くのが唐突に現れるカラーページ※2です。 東京の街を二人の女子高生が買い食いして回るお話ですが、食べた物や食べた場所、時間や気候といった思い出が1ページの風景イラストに印象的に表現されていて、それが美しい! 使われている技法が多彩で、内容に合わせた技法や色調が目が楽しい。これはカラーページだけ絵葉書にして欲しくなる! 12ヶ月の時候に沿って、女子高生凸凹コンビが季節の物、ご当地物などを食べ歩きますが、単純に「女子高生物」ではないのも大きな特徴。名前も知らなかった二人の間に『買い食い部』という絆が生まれる、過程と未来を交互に見られるようになっていて、読み進めるほど嬉しくなってきます。 女子高生と東京散歩と美味い物が切り離せないのは『ちづかマップ』や『ぐるぐるてくてく』が証明済み。これらの作品の「美味しい物回」を凝縮したようなお話に、美麗なカラーイラストも付いたおトクな作品。どうぞご賞味あれ! ※1 単行本は『東京黄昏買い食い部』というタイトルです。電子書籍サイトでは『黄昏の買い食い部』で統一のようですので購入に問題はないと思いますが、表紙のタイトルが違っているので紙版が欲しい方のために付記します(2024.4.9追記) ※2 巻中のカラーページは、電子書籍のみのようです。カラーページをご覧になりたい方は電子書籍をお求めください。

ガイコツ書店員 本田さん

本屋さんとガイコツを応援したくなる

ガイコツ書店員 本田さん 本田
名無し

本屋の店員さんによる本屋さんの本音や裏話、 お客様や店員仲間、出版社や取次ぎの方々とのエピソード。 それらをなぜかガイコツ姿の主人公(作者)が 主に翻ろうされる側として描いています。 なぜか主人公はガイコツ姿。 他のキャラも殆どがヘルメットや剣道の面など 被り物を装着しているのでそうなのですが、 細かい表情は見えません。 それでも普通に素の表情で叫ばれたり汗をかいている絵よりも むしろ感情の機微が伝わってくる感じがします。 そして愚痴やつぶやきや自虐的なセリフが多いのですが、 ガイコツ姿なのにというかガイコツ姿のせいでというか(笑) 深刻な暗さを感じずにすみます。 リアリティを損なわず過度に感じることもなく、 愛嬌が加わって感じられるという感じ。 本屋さんの色々な仕事の流れも解説してくれますが、 コネタをちょいちょい入れて面白く紹介してくれます。 仕事の大変さがよく伝わってきます。 同時に、作者も他の店員さんたちも、 「仕事は大変だけれども、本と本好きが集まる本屋が  好きだからやっているんだろうなあ」 ということも伝わってきます。 頑張れ本屋さん、 これからは自分が本屋に行った時は変な問い合わせを しないように心がけます(笑)。

仲谷鳰短編集

安心と信頼の仲谷鳰ブランド

仲谷鳰短編集 仲谷鳰
兎来栄寿
兎来栄寿

『やがて君になる』仲谷鳰さんの初短編集。ただし、9篇の内の5篇は百合アンソロジーの『エクレア』に収録されていた作品のため、熱心なファンにとっては既読作品が多いであろう点は注意。 とはいえ、『エクレア』の中でも正直に言って突出してハイレベルなことも多い仲谷さんの作品群。改めて読み、つくづくマンガを描くのが上手い方だなと再確認しました。特にラスト1,2ページでの展開やセリフ回しが絶妙で、短編で輝く部分です。 「勇者は三回世界を救う」は本書の中で唯一のアナログペン入れ作品だそうですが、端然とした絵の魅力は何ら変わることがありません。また、珍しく百合要素のない話でもありますが、純粋にどんな話を描いても面白くできるだろうなということが伝わってくる作品でもありました。 作品自体ももちろんですが、同人誌発で商業デビュー作ともなった表題作「さよならオルタ」と『やがて君になる』の双方に横たわる「人が誰かになろうとする行為」についての言及など、幕間の的確な自己作品分析も面白かったです。 百合好きにはもちろん、そうでない方にもここを経て願わくば『やがて君になる』まで辿り着いてみて欲しい、お薦めの一冊です。