お茶の間スイーツガーデン

抑圧されてきたふたりの同盟 #1巻応援

お茶の間スイーツガーデン 佐倉イサミ
兎来栄寿
兎来栄寿

表紙とタイトルからは明るいイメージを抱かれそうですが、蓋を開けてみるとそこそこ闇もある作品です。 『もふっとキャンプ』や『春風ふるさと観光協会』の佐倉イサミさんが新たに描くのは、人生を抑圧されてきた瀧口さんちのサトちゃんと、矢北さんちのスゥちゃんのふたりが作るスイーツ同盟の物語。 サトちゃんは、父親からも母親からも結婚した夫からも自分が本当にやりたいことを許してもらえず我慢して我慢して生きてきて、気付いたらもう人生の終盤になってしまった女性。 本当はかわいいお菓子やケーキを思う存分食べたかった。 本当はみんながしているようなオシャレな服を着て過ごしたかった。 そんなささやかな願いすら叶えることができず老いてしまい、夫を亡くしてようやく独りで好きなことができるようになったサトちゃんが初めての感動を得るシーンには感じ入ってしまいます。 一方のスゥちゃんは、TVに出ている出演者を「低学歴だ」「バカはろくな人生を歩まないから勉強して他者より秀でた人間になりなさい」とのたまう父親の存在によって、友人たちとの遊びも断らざるを得ず猛勉強を強いられている難関校に通う私立中学生。そんな日々の鬱憤を晴らすある行動を日常的にするようになっています。 年齢は大きく違えど、ふたりとも違う形で抑圧を受けそれぞれに性格に歪みを抱えています。そんな自分に嫌気がさしているふたりだからこそ共有できる辛苦があり、楽しみがあります。毎回お菓子作りやできたものの実食を通して結びつくふたりの姿に心のカドが取れてまるくなるようです。4話の、サトちゃんがある失敗をしてしまうお話などは特に好きです。 お菓子作りの際は詳細なレシピも添えられるので、自分でも作ってみたくなります。 ただのスイーツグルメマンガだと思って手に取るとビターな味わいにびっくりするかもしれませんが、カカオ86%のチョコレートのような絶妙な苦味を堪能してください。

猫に育てられたドラゴン

辰年の2024年に読みたいマンガ

猫に育てられたドラゴン 神虫からすみ
兎来栄寿
兎来栄寿

私は龍が好きです。 『ドラゴンボール』と『ドラゴンクエスト』に育てられ、山全体が龍であり龍王神社や龍泉寺がある地を故郷としている私は、人一倍龍を愛し、龍に愛されています。 2024年は12年ぶりの辰年ということで、個人的には前年の卯年に続いて意気軒昂となる年です。 昨年の最初には干支にちなんで『兎』を紹介しましたが、今年も「龍」にちなんでこちらの作品を紹介します。 皆さんは、ドラゴンを飼いたいと思ったことはあるでしょうか。本作はそんな夢を少し独特な形で満たしてくれます。 迷い子ドラゴンを飼い猫が拾ってきたことで一緒に育てていくほのぼのコメディです。猫と一緒に暮らして育てられることで、自分を猫だと思いこんでいるドラゴンのかわいい仕草が特徴的です。 丸まったり、鍋に入ったり、伸びたり、いたずらをしたり……。フルカラーで描かれる、2匹を中心とした猫っぽさ溢れる営みに癒されます。猫好きな人ほど、思わず「あるある」に口元を緩めてしまうのではないでしょうか。 ハロウィンやクリスマスなどさまざまな年中行事も描かれ、こたつにみかんのお正月シーンもあるのでこのお正月に読むのにもピッタリです。 タツノオトシゴであったり来年の干支である蛇も登場して干支感もあるので、一気に読むのも良いですがシーズンごとに少しずつ読んだり読み返したりするのも良いかもしれません。 今年は年始から大変な災禍が起きて始まってしまいましたが、世界の人々の安寧を祈っています。悲報に心が疲弊してしまった方も、こうした作品を読んで気分を紛らしていただければと思います。 被災地以外の方は心身共に元気に過ごして経済や社会を回すことで、直接的な募金などの支援を生む余裕を生み結果的に最大の支援に繋がることもあるかと思いますので。

鉄鍋のジャン

勝つための料理を追求した男ジャン

鉄鍋のジャン 西条真二 おやまけいこ
六文銭
六文銭

もう28年前?の漫画のようですが、めっちゃ面白かった。 タイトルに記載したとおり、当時のグルメ漫画って『美味しんぼ』や『中華一番!』など、より美味しいものを競ったりや食べる相手を満足させるための要素が強かったと思うのですが、本作はそれらとは一線を画す。 中華料理界において偉大だった祖父の教えを叩き込まれ、とにかく料理とは勝負で、彼が追求するのは勝つための料理。 美味しいとかではなく、勝つためなら何でもするということ。 ここが他の料理漫画とは違う。 最初のうちこそ、祖父のライバルだった男の店「五番町飯店」へ修行にいき、祖父から仕込まれた料理の腕を発揮して、他の料理人を圧倒したり、時に挫折したり、といったオーソドックスな少年漫画的な展開なのですが・・・・ 1巻からすでに、マジックマッシュルームを使って審査員を撹乱させるようなこともはじめていきます。 他にも上げればキリがないのですが、特に最高なのが、若手料理人選手権大会の予選課題「チャーハン」の回の時。 火力がほしいからとガス管潰して自分のところに集中させたり、あげくスプリンクラーをまわして他の料理人のチャーハンを水浸しにするんです。(自分はラップまいて、さっさとその場から逃げる) 基本的に上記であげた料理漫画で出てきたら 「絶対悪役だったろ!」 と言わんばかりの悪行がでてきます・ 料理マンガのダークヒーロー的な存在。 顔つきもドンドン悪くなっていく(気がする) 料理=幸福を与えるもの というのが、ある意味定説になっていただけに、勝つためなら何でもする、主人公の潔さが斬新な作品でした。