兎来栄寿
兎来栄寿
11ヶ月前
10月発売の中でも最注目作品のひとつでしょう。 スピードワゴンは 「環境で悪人になっただと?  ちがうねッ!!  こいつは生まれついての悪だッ! 」 と、かの名台詞で説いていましたが、この社会には間違いなく環境が生み出してしまう悪があります。 本作の主人公たちは、まさにそういった類の人種。凄絶な家庭で生まれ育ち、若くして天涯孤独の身となって薬の売人をして口に糊している雪人。彼の親友であるメイジ。世界が彼らに生ませたグチャグチャな感情を、音楽として世の中に吐き出すことで昇華していく物語です。 助けてくれる大人もいない世界で、身も心もボロクズになりながら生きてきた日々。どうにもならない絶望の泥濘の中で溺れながら辛うじて息をしている雪人の仮面のような笑顔からは、熱さのような痛みが、飛沫となった血潮が溢れ出しています。 それでも、確かに雪人は亡くなってしまった母や姉に愛されていた。だからこそ、失わずに済んだものがある。それ故に、曲げられない生き方とそこから紡ぎ出せる雪人だけのリリックが存在する。それを最大熱量で、親友と共に解き放つ。そんなエモい話があるでしょうか。 生き方も言葉も真っ直ぐにぶつけてくるリリーとの出逢いを始め、違うけれど同じように苦しんでいる同じ時と場所に生きている人物たちと交差しながら、クソみたいな人生が少しだけマシになっていく。 雪人ほど酷くはありませんが、碌でもない家庭で育ったもの同士だからこそ解り合えることというのはあるので、メイジとの絆が芽生えたときのエピソードなどは強く共感します。 単体で見ればかわいらしさもありながら、それ以上に斬り刻むようなリアルさを迫力として体現する薄場圭さんの絵も作品にガッチリとハマっています。 荒々しく、血を流してマンガを描いている。鋭利に突きつけてくる、愛しい作品です。
まみこ
まみこ
11ヶ月前
そんなことは、残念ながらございません。 諸々の社会的問題を、バイクやキャンプ、麻雀、野球、サッカー、バドミントン、それらを漫画で描くことで解決できる訳ではない、これは厳しい現実ですが、それを諦めてしまうには、惜しい浪漫もあります。 「江戸前鮨職人 きららの仕事」のスピンオフ。 最強の敵、ヴィランである、長身マッチョ眼鏡オールバック成金ガチ巨根、坂巻慶太の若かりし頃の前日譚。一応、取ってつけたように、銀座で寿司職人として鍛えられたセンスも腕も良い料理人、と言う設定もありますが、まぁ、噺のスジとしては些末なことです。 早い話、映画「バットマン・ダークナイト」における、映画「ジョーカー」の様な存在、って、無駄に分かりにくいですね。 何かしら困っている人や迷っている人を、美味しい料理で柔らかく解放する、と言うのは食漫画の基本ですが、この作品はそれは半分位でしょうか?残り半分は、頓知や腕力で解決します。 …え?解決できんの?とは思いますが、まぁ、やっちゃうんですね。それもまた浪漫です。 壮絶ネタバレですが、ラストの「イルカに乗った全裸青年」の描写は、謎の感動的感情が込み上げますが、その置きどころを何処に持って行けば良いの?は、また別の命題でしょうか…。