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2020/02/17
小さな島を舞台にした掴みどころのない2人の恋模様 #1巻応援
小さな島の役所で働く穂高大志、44歳。一級建築士でありながら現在は土木課に勤務しており、一人暮らしの家事も完璧にこなす。どうも過去に何か秘密があり、建築事務所を辞めたのにも理由がありそうなんだけど、淡白な振る舞いからあまり考えの底が見えない人物。 そして突然孤島に現れた女性、嶋燈子、28歳無職。私有地にテントを張って居座り、「ここに家を1人で1から建てる」と嘯く。どうやらそのために会社も辞めてきたらしいけど、貯金自体はしっかりとあり、冗談で言っているわけではない様子。 という全然違う意味で掴みどころのない2人が出会い、燈子の"家を建てる"という目的のために距離感を近づけたり遠ざけたりしながら進んでいくラブストーリー。 端から見れば掴みどころのないキャラクターの2人なのに、物語が進むごとにモノローグでお互いの心の中が描写されて、何を考えているのか、過去にどういう秘密があったのかが徐々に明かされていく感じが新鮮で面白い。今のところは奔放な燈子に当てられてなのか穂高のほうが心を徐々に開いていっている感じがあるのだけど、1巻の終わり方を見るとまだまだ大きく物語が動いていきそうであり、また穂高・燈子それぞれの過去について完全に明かされたわけではないので、ここからどう進んでいくのか楽しみな作品。 1巻まで読了
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2020/02/16
甘酸っぱいだけでは終わらない"魔女先輩"との恋愛物語 #1巻応援
どこにでもある普通の会社に勤めるOL・星野は実は魔女。といっても、物を魔法で動かしたりほうきで空を飛んだりする以外は普通に会社で仕事をする普通のOL。そんな彼女と、彼女の後輩・美園とのほんわかラブコメディ。 …というのが試し読みを読んだ印象だったのですが、続きを読んでみると少しだけ印象が変わってきます。作品の世界は魔女が人間社会の中で共存しているのですが、どうも身の回りに"普通に"いるというわけではないようで、魔女に対してちょっとした偏見をもっている人もいる様子。そのうえ静はちょっと気が弱くて他人の押しに流されやすく、それによって苦労していることも多々あり。なのでラブコメ的には意外とビターな展開も多く、でもだからこそ魔女がいるというちょっと不思議な世界観を純然なファンタジーではなく"この世界のどこかで実際に起こってそうな物語"という感じで受け取れる気がします。 1話のページ数が短くてちょっとTwitterマンガっぽい雰囲気がありますが、それを理由に試し読みだけで見切ってしまうにはもったいない、酸いも甘いも織り込んだ物語です。 1巻まで読了
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2020/02/16
異なる呪いに囚われた美女と野獣のファンタジー #1巻応援
美しい女性をさらって殺してしまうと野獣が出るという言い伝えのある森に禁を破って入ってしまった少女・ベル。ただの御伽噺だと訝しむベルだったが、目の前に本当に野獣が現れ、ベルを追って森に入ってきた母親をさらって行ってしまう。数年後、ベルの目の前に再び野獣が現れたことから物語が動き出す。 二度野獣と対峙することになるベルであったが、一度目の遭遇の後に伴侶を亡くした父親に監禁され、人の目にに触れない生活を送ることになる。元々自分が特異な髪の色をもって生まれたことを気にかけていたベルが、最愛の母親を失い、父親からも自身の過失を咎められたことにより、快活だった性格が見る影もなくなってしまう。特に母親がベルから野獣の目を逸らせるために言った「この子は美しくない」という言葉が呪いとなってベルの心に刺さってしまっている。一方、ストーリーが進んでいくと、野獣・キリルは実は城の王子で従者もろとも何かしらの呪いを受けて異形の姿になったことが示唆される。この"呪い"の掛かった両者が再び相まみえることで新たな化学反応を生み出していくファンタジー。 1巻まで読了
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2020/02/07
バトルも頭脳戦も最高にカッコいい女刑事の活躍劇 #1巻応援
誰もが認める凄腕の刑事でありながら、その能力の高さゆえに独断での行動も辞さないという暴れ馬・氷堂楓。近未来のような、洋画の中のような世界で活躍する彼女と、彼女が事件の解決に乗り出すことになる"犯罪者だけを狙った連続殺人事件"の首謀者「幽霊卿」との対決を描くサスペンス・アクション。 彼女の向こう見ずに事件解決へと突っ走っていく性格や身体能力の高さから来る派手なアクションシーンに目が行きがちですが、個人的には彼女の最大の魅力の根源は事件の本質を見抜くその洞察力にあると思っています。その洞察力は事件の推理を行う際だけでなく連続殺人鬼と対峙した際にも遺憾なく発揮され、彼女の行動力や事件解決能力を裏打ちしています。 また、キャラクターとしては一匹狼のような雰囲気が強い主人公ですが、彼女の周囲を取り巻く登場人物との関係性も魅力的に描かれます。彼女の思考の根本までは理解していないにも拘わらず、阿吽の呼吸で彼女をサポートする同僚のビリー。長年連れ添った友人のような間柄の検死官のキーナ。おそらく過去の何らかの事件で司法取引を行って彼女に協力するハッカーのジル。そして、出会ってすぐ惹かれあって結婚した最愛の夫・アーサー。どこをとってもそれぞれがバディのような深い関係値を示していながら、実際に事件解決に向かうときには単独行動。この外連味溢れる感じが、好きな人にはたまらなく刺さる作品だと思います。 さて、物語のほうは1巻の終盤で一気に加速していきますが、ストーリーが進むにつれてその展開がこの作品の大いなる導入に過ぎないことに気付かされます。ここからどう事件が連なって楓と連続殺人の黒幕とが引き寄せられるのか、かなり長丁場になりそうな予感があるので、是非作者が満足できるどころまで描けるよう応援していきたいところです。 1巻まで読了
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2020/02/04
何者にもなれない全ての人に捧ぐ物語
私は"LGBT"という呼称が好きではない。L/G/B/T(もしくは"Q"に分類される定義も含め)それぞれが全く違う性質を有しているのに、"LGBT"という名前を獲得した結果、あたかも同一の性質をもった1つの集団のように見える感覚、それがどうも受け入れがたいのである。 この作品の主人公・神鳥谷等(ひととのや ひとし)も、子供の頃から自分で自分を"普通"ではないと認識しながら、どうにも名前をつけること、定義づけをすることができないある"性質"を持っていた。 神鳥谷のその"性質"はジェンダーなのか、好みの問題なのか、それとも何かの病気なのか。そして果たして自分は何者なのか。これはそんな悩みを持つ神鳥谷と、彼とは逆に自分自身に対して不満も疑問も全く持たない大学の同級生・佐原真人、そしてその周囲の人々との物語。 神鳥谷の疑問に対して作品の中から無理やり答えを捻り出すとするなら、「自分は自分でしかない」という陳腐な言葉になるかもしれない。しかし、それを神鳥谷と佐原の、そして周囲の人々との交流を通して作品全体で表現している。物語としても、雑誌連載の作品を単行本化する際に話と話のつなぎ目をなくして1本の大長編のような構成にすることで、神鳥谷と佐原がともに歩んだ人生をまるごと描いたような、そんな壮大な雰囲気の作品になっている。 読む人によって、誰の視点を強く意識するか、そしてこの作品がどういう物語なのかという定義が変わってきそうな、いろんな表情がある作品。タイトルだけを見るとジェンダーがテーマのようにも見えるけど、実際はもっと受け入れる裾野の広い、"何者にもなれない"全ての人を肯定してくれる物語。 上下巻読了
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2020/01/27
あらすじを見て0話切り、ちょっと待った!
イケメンリア充で文字通り女の子をとっかえひっかえ、座右の銘は「据え膳食わぬは男の恥」。そんな高校生・庄司奏大(かなた)が女の子から"ヤリ部屋"の美術準備室に呼び出されて意気揚々と向かうと、そこには"先客"とそれを外から覗いている他校の女子が。どうやら近くのお嬢様学校の子みたいで、声を掛けてみると一言、 『私はただSEXしてくれる男性を探しにここに忍び込んだだけで…覗きをするつもりはなかったんですっっ!!』(原文ママ) という、強烈な導入から始まる作品(なおここまでたったの6ページ)。最初読んだときもこの女子・九条美雪に対する「なんだこの"非実在女子高生"は!?」という印象が強すぎたんですが、これが読み進めていくとどんどん"純愛"の物語へと変化していきます。 見るからにチャラ男だった奏大が絵に書いたような世間知らずのお嬢様の美雪に惹かれていくというギャップ、もちろんこれも1つの要素なのですが、美雪がセックスにこだわる理由、お互い望んでるはずなのに何故か発生する2人がセックスに至るまでの駆け引き、さらにそれを見せながらグイグイ進んでいく展開で、ちょっと引き気味に構えて読んでいたのに気付いたら前のめりに物語に入っていってしまいます。 そして、1巻では4話収録しているのですが、3話でストーリーとしても作品としても1つの節目を迎えます。実は3話までは奏大視点で物語が進むのですが、4話で初めて美雪視点による物語が描かれます。この4話で物語の見え方が広くなり、さらに2巻以降の作品の雰囲気が一気に変わる仕掛けも用意されてます。なので、1話で興味を持って頂いた方はもちろん、あらすじを読んで「これは自分向けじゃない」と思って0話切りしようとした方も、まずは1話、できれば1巻の最後まで読んで判断してほしい、そんな作品です。 1巻まで読了
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2020/01/26
料理好き人見知りJK×釣り好きヤンキーJK、ボツから蘇ったガールミーツガール
親の仕事の関係で東京から福岡の田舎に転校してきた女子高生・白梨翡翠(やまなし カワセミ)。料理好きな彼女だけど、持ち前の人見知り能力を遺憾なく発揮して調理部の門を叩くことすらできず、転校初日からぼっち生活まっしぐら。そんな中、見た目どう見ても田舎ヤンキーな同級生女子・魚取魚鷹(うおとり ミサゴ)に声を掛けられ、「ちょっと付き合え」と半ば強引に拉致られて連れてこられたのは山の中。死を覚悟したカワセミだったが、ミサゴが取り出したのはただの釣り竿。ということで、料理好き人見知り女子と釣り好き田舎ヤンキー女子とのガールミーツガール(?)から始まる作品。 ヤンキーっぽい雰囲気のミサゴが釣りに対してめちゃくちゃ詳しいというギャップもいいけど、人見知りだけど初めて体験する釣りに新鮮なリアクションを見せたり料理のことになると豹変するカワセミの一挙手一投足が面白くて、コメディとしてだけでもずっと読んでいられる作品です。 また、キャラの造形だけではなく、釣り上げた魚や料理、水面や風景まで、細かい部分の作画を丁寧に描いているのも注目すべき点の1つ。さらに福岡が舞台であることによる方言女子の要素や、ミサゴの家族から勝手に認定された公式百合要素まで、楽しそうな要素がたくさん詰まっていいます。 ちなみにこの作品、双葉社による"プロのための「セカンドオピニオン」"という企画によって連載にまで至った作品。この作品が一度でも企画が通らずボツになりかけたというだけでも驚きですが、それを見事に拾って頂いた双葉社と連載に至ってもこれだけ面白い作品を描き続けて頂いてる匡乃下キヨマサさんには感謝しかありません。 1巻まで読了。
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2020/01/09
ヤクザに少女マンガの真似事は難しい…?
"鬼の愛染"の異名を持つ日文組の若頭・愛染恭司。彼が一目惚れしたホステス・幸善子に「俺の女になれ」と詰め寄ったところ、幸善子は愛染にビンタして一言「お断りよ!わたし、"こいまん"みたいな恋がしたいので!」 "こいまん"とは今巷で大人気の少女マンガ「友達以上恋人未満」のこと。この日から幸善子"こいまん"みたいな恋に落ちさせるため、"こいまん"ファンの舎弟・ヤスの協力を得ながら"こいまん"の作中シーンを再現しようとする愛染の日々が始まった…という作品。 愛染のほうは幸善子を好きな気持ちに偽りはないものの、ヤクザらしく暴力で問題を解決しようとしたり心のなかでは欲望丸出しだったりと、少女マンガとは似ても似つかない人物。 一方の幸善子は普通の女の子かと思いきや、頭の中をかなり"こいまん"に侵されているのか、わりかし普段どおりのヤクザっぽい振る舞いをしている愛染に"こいまん"の主人公の姿を勝手に重ねて勝手に胸キュンしていく。最初に愛染をビンタした勢いはどこへ行ったのか、ただただちょろい。 そんな噛み合わない2人の関係が絶妙なご都合設定を駆使して上手く回っていく様子にはニヤニヤが止まらない。 そして、愛染を始めとした彫りの深い顔面の作画と"こいまん"のベタな少女マンガ展開とのギャップ、そしてそれが(主に幸善子の脳内で)重なり合うというアンマッチな感じが最高に面白い。舎弟のヤスや日文組組長・権三郎、幸善子とSNSで繋がった"こいまん"ファンの女子高生・康江と、サブキャラクターもおしなべて味付けが濃くていい感じ。雰囲気は「ヒナまつり」や「Back Street Girls」に近いので、このあたりのコメディ作品が好きな方にはオススメ。 しかしこうやって並べてみると"ヤクザ"と"コメディ"って案外相性が良いみたいですねw 1巻まで読了
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2019/12/24
フルカラー少女マンガメタコメディという新たなジャンル
Q.ある日突然妖精のような魔法使いが現れて「あなたにイケメンとのラブ展開を与えるので少女マンガのような生活を送ってください、その代わり恋愛の妨げになるのであなたの好きなものは没収します」と言われたら? 主人公・杏子(ゲーム・チョコ・猫好き枯れ女子)の答え:「好きなもの没収されるならイケメンいらない!」 それを受けた魔法使いの回答:「うるせェ!ゲームもチョコも猫も全部ボッシュート!ついでに両親もボッシュート(アメリカに転勤)!」 ということで、強制的に一人暮らしが始まった杏子が好きなものを取り返すために妖精(が作り出したしたイケメンとの少女マンガ展開)と戦っていくという凄まじい設定のコメディ。 杏子も恋愛に全く興味がないという感じではないんだけど(まぁ乙女ゲーやってるし)、三大欲求(ゲーム・チョコ・猫)と比べたら重要度は段違い。一方の魔法使いも郵便局員の父親を海外転勤させるなど容赦なく魔法を使って包囲網を敷いてくる。 果たして杏子は三大欲求を取り戻すことができるのか?それともイケメンとの恋に落ちてしまうのか!? …と、冷静になるとどっちに転んでも杏子は幸せになれそうな気がしないでもないんだけど、「少女マンガ展開に必死に抵抗する」という設定が斬新で、杏子に感情移入しながら、でもつい笑ってしまいながら読み進めてしまう。 大枠で言うとラブコメになるのは間違いないんだけど、個人的にはどうしても"少女マンガ"自体をメタネタにしたコメディを狙って作ってるように見えるんだよなぁ。だって1話のサブタイトル「魔法設定なのに漢字が多いんだよっ」ですよ? 1巻まで読了
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2019/12/22
この作品、埋もれさせるわけにはいかない
姉の美羽と弟の蒼介は、両親の再婚で家族になった義理の姉弟。美羽には蒼介の紹介で知り合った西条くんというカレシがいて、蒼介は蒼介でお隣に住んでいる百華から好意を寄せられている。遠目から見るとお似合いない2組。ただ1点、蒼介が美羽に対して"異性としての好意"を抱いていることを除いては…。 この作品はいわゆる義理の姉弟の関係を含めた三角関係、四角関係の物語ですが、それだけに留まらない複雑な人間関係とその心情描写がこの作品の特徴です。 美羽は西条のことを彼氏として大事な存在として思っていつつ、蒼介に対しても姉弟以上の感情を抱えているというアンビバレンツな思いを内面に抱えていて、その感情の上にさらに「家族の関係を守りたい」という別の感情が蓋をすることで体裁を保っているという状態。なので蒼介から明らかに姉弟以上の関係を思わせるアプローチを受けても"姉としての振る舞い"に徹しています。一方、蒼介と西条はそれぞれ美羽のことを一途に想っているのですが、蒼介が西条のことを紹介したということからも分かるとおり、元々蒼介と西条は親友同士。そして西条と百華は美羽と蒼介が"義理"の姉弟であることを知らない。という、それぞれが内なる思いを隠したり、蓋をしたり、もしくは堂々と相手に伝えたりしながらどんどん複雑な方向へ進んでいくというのがこの作品です。それを神寺さんの繊細な絵柄とモノローグ多めの心情描写で丁寧に表現しているため、関係性の複雑さに比べてドロドロな感じはあまり受けず、純粋に登場人物に感情移入して読める作品です。 この作品、少女マンガ好きには是非オススメしたい作品なのですが、このクチコミをご覧の方で作品のことをご存じだった方はほとんどいらっしゃらないのでは無いでしょうか。 実はこの作品、松文館という出版社のガールズポップコレクションというティーンズラブレーベルから出版されている作品です。しかも、松文館から紙書籍で発売されている単行本はこの4年間でこの作品のみという状態で、そのため書店でこの作品に出会うことは非常に困難な作品となってしまっています。ティーンズラブのレーベルではありますが過激な描写はほとんどなく、少女マンガを読まれる方であれば広く楽しんでもらえる作品だと思うので、もしこのクチコミを見て興味を持って頂いた方は是非、まずは電子書籍からでも良いのでお買い求め頂ければ幸いです。 ちなみに先日、異例のフルカラー版単行本が電子書籍で発売されました。そちらももしよろしければチェックしてみてください。 5巻まで読了。
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2019/12/19
世にも微笑ましい"限定コミュ症"の物語
「限定コミュ症」とは:人とのコミュニケーションを上手く取ることができない"コミュ症"だけど、幼稚園児くらいの子供相手であれば積極的に対話をすることができる、そんな症状のことである。障害があるということではなく、特定の相手に対してそのような症状が出る、だから"コミュ障"ではなく"コミュ症"。 そんな"限定コミュ症"な主人公の梨川益臣、彼が高校の幼児教育科という保育士になるための学科で送る日々を描いた物語。 限定コミュ症なだけに同級生とのコミュニケーションにはなかなかに苦労する梨川。それでも、舞台が幼児教育科だからなのか、彼の周りには個性が強いながらも梨川と自然と接することのできる友人が集まっている。また、子供とならコミュニケーションが取れるというだけではなく、実は保育士的な意味でも梨川がハイスペックな面を見せたりする。そういう意味で、よくある"コミュニケーションを取るのが苦手な主人公"の物語とはちょっと違う、卑屈な雰囲気の薄い、むしろ爽やかな青春感の溢れる物語。 というか、子供とハイテンションで触れ合う梨川くんが普通にカッコ可愛いのでそれだけ見てても癒やされる作品。 ちなみにタイトルと表紙からは一切わからないけど作品の舞台は神戸。ということで、全編(神戸弁寄りの)関西弁でお送りしている作品でもある。神戸弁に限らずだけど、もしかしたら標準語よりも方言のほうが、普段の会話と子供相手の時とで言葉遣いの差が小さくなっているのかもしれない、と読んでて思った。 1巻まで読了
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2019/12/13
性別と感情のグラデーションの間で生まれる歪み
「男女の友情は成立するか?」令和に入った現在でも未だに時折見かける話題である。この話題、肯定派も否定派も、大抵が"男女の仲が深まった時に恋愛関係に変わるかどうか"という論点に持ってくんだけど、そのたびに私なんかは『なぜこの人たちは"同性だと恋愛に発展しない"って前提で話をしてるんだろう』と思ってしまう。この辺りはマンガ読みの方々なら割と同意頂けるのではないかと思う。 この作品は、人間関係の中で相手のアイデンティティにどれだけ"性"を内包させて捉えるか、ということを描いている作品なのではないかと思う。 現実世界での潮流もあり、セクシャルマイノリティの人々を描く作品は近年増えてきている。ただ、多くの場合は同性間の"恋愛"のみにスポットライトが当たり、もしくは恋愛感情と友情等その他の感情との"違い"をピックアップして描かれているような気がする。でも、性的指向が白か黒かではなくグラデーションが存在すると言われるようになってきた、それど同じように、恋愛か友情かというような感情の間にも濃淡があるものなんじゃない?と、この作品を読んで感じるようになった。 最初の問いに戻るが、「男女の友情は成立するかしないか」という問いは「相手に対する好意が、中身が全く同じであっても相手の"性別"という基準だけで”恋愛感情”に認識が変わるかどうか」という表現に言い換えることができるかもしれない。つまり、相手のアイデンティティの中にどれだけ"性"を含めて認識をするか。今作で言えば、性別によって間違いなく変わると思っているのが増尾、その辺りを特に意識せずに生きてきたのが太一や二葉、同じく無意識だけど実質的に性に囚われず恋愛感情を認識しているのが桃真や真澄、そして半ば自覚的に”性”という基準の占める割合は相手によってグラデーションがあると認識しているのがマミや仁井村、だと思っている。そして性的指向がそうであるように、この価値観もそれ自体を否定することはできないし、されるべきではない。マミや仁井村のスタンスが正しいように見えるけど、増尾の考え方だって悪ではないし、そもそも増尾の価値観の方がきっと現実世界では多数派なのではないかとも思える。 しかし、この作品ではこの価値観の違いが少しずつ関係性にひずみを生み、物語が進むにつれて次第にそのひずみが大きくなっていく。価値観の違う人間に直面した時にどうするか、特にそれが親しい関係の相手だった場合にどうするか、それがこの作品の肝なのではないかと思う。 作中では桃真と増尾の価値観の違いを発端に無関係の人を巻き込んだ大きな騒動になりつつあるが、実は規模の大小はあるにせよ同様のすれ違いは日常でも普遍的に起こりうる、というか起こっている、と私は思っている。例えば、告白した相手に「異性として見られない」と言って振られたり、異性の友達と食事に行っただけで恋人に浮気だと窘められたり。個々の事象しか見えないから意識することはほとんどないけど実は人はみんなそれぞれの感情のグラデーションの歪みの中に生きていて、今作はそれを「同性を好きになった」という、より大きな歪みでかつマンガの読者層に受け入れられやすい形で表現しているように思う。 作品の主題として見せられるとすごく特別なことのように感じるけれど、実は私たちの身の回りにもありふれた価値観の歪み。それを太一たちの10代の高校生の物語として誰の目にもはっきり認識できる形で描いているからこそ、多くの人の共感を得る作品となっているのではないだろうか。 7巻まで読了