線セーショナル2024/06/13ネタバレ恐怖かどうかは置いといて傑作である 楳図かずおが描く恐怖は常に霊や悪魔などの、形而上学的なものではなく、科学的もしくは主観的なものである。つまり超自然的な存在の否定なのだ。愚かな人間達の科学実験により生み出された化け物、もしくは人間の強い精神が生み出したものが常に恐怖の対象となる。 唯心論的な怖いと思うから怖い。怖いと意識した人間は見た目もバケモノみたいに怖くなっていく。怖いと思った人間が世界そのものが怖くなってしまう。すごく主観的な恐怖なのだ。この作品以降に日本の漫画のみならず、海外ドラマなどでもサバイバルホラーが増えていった。この作品とあまりに似ている映画化もされたホラー小説の帝王スティーブンキングのミストが書かれたのは80年代だった筈なので、この作品がいかに先駆的だったかよく分かる 漂流教室〔文庫版〕楳図かずお4わかる
線セーショナル2024/06/06何度も読み返す為の短編集諸星大二郎の作品展は一度買って消費することの出来ない何度も読み返し味わいたくなる様なホラーでもファンタジーでない奇妙な作品群なのだ。特に凝った設定や特殊な演出などは何もしていないのに、諸星大二郎が漫画家of漫画家と言われるのはその線とコマが全てを物語っているからだ。その諸星大二郎にしか出せない奇妙な線とコマ割りがシンプルで不気味な物語に読者を没入させてくれる。これら物語のアイデアとビジュアルは他では絶対に目にすることのない存在感を放った唯一無二の短編集である。諸星大二郎特選集諸星大二郎3わかる
線セーショナル2024/06/05目を背けてはいけない暴力性漫画はキャラだと言う言説が存在するが、この漫画はテロリストが主人公という、漫画史において前代未聞の物語は、よくこの漫画を連載させてくれたことに我々読者は漫画の懐の深さに感謝しなければならない。この漫画を暴力的だからということで嫌うのは簡単すぎる結論の出し方である。しかしこの漫画にはその暴力性や物語の筋を一瞬忘れさせられる様な瞬間のコマが存在する。線画が突出して、上手いという訳ではないが物語の世界観とマッチしてハッとさせられる瞬間が本当にいくつもあるのだ。それは決して過激な暴力シーンではなく、別の瞬間にある。この漫画が突きつけてくる命やそれと切り離せない魂や神という信仰の問題、徹底して馬鹿として描かれる大衆。重い腰をあげながらもその期待にはしっかりと答えてくれる単なる面白いでは終わらせない傑作すぎる漫画である真説 ザ・ワールド・イズ・マイン新井英樹8わかる
線セーショナル2024/06/05ネタバレ自分を偽っている人間達へホムンクルスは頭蓋骨に穴を開けることで他人の内面が視覚化されるというアイデアだけでもビジュアルだけでも読み進めたくなる物語なのだが、主人公の名越が他人が偽ってきた、内面を救済していくたびに、主人公名越自身のそして現代の読者の偽りがあぶり出されてしまうのだ。前作の殺し屋一から遙かにグレードアップされた、絵柄はこの手の青年漫画の中でもトップクラスのリアリズムを醸し出しているホムンクルス山本英夫4わかる
線セーショナル2024/06/05傑作怪奇ミステリー漫画の傑作ミステリーといば?と言われて何が思い浮かぶだろうか、soilはコナンや金田一などのただ面白いだけのミステリーとは違ってミステリーの革新に近づいていくに従って人間が長い歴史の中で常に自分達にとって都合の悪いとされるものを排除してきたという恐ろしいテーマを浮き彫りにしていくのだ。一見綺麗に整えられた新興住宅地soil、一見穏やかな住民達、全てあくまでも括弧付きの一見で、掘り下げていけばいくほどこの町の不気味さが涌いてくるのだ。この物語にのみ相応しいと思わされる様に、一見物差しで引かれたと見まがう整った背景もよく見ると丁寧なフリーハンドで描かれていることにカネコアツシの絵の上手さが分かるSOILカネコアツシ2わかる
線セーショナル2024/06/04五十嵐大介は漫画を愛してはいない?私は漫画を愛してはいない、線を信じていない作家は嫌いなのだが、五十嵐大介は唯一例外である。五十嵐大介は恐らく漫画とは別の抽象的な目に見えないものや生命への愛みたいなものを信じている気がする。五十嵐大介の線は他の誰かから影響を受けた形跡がほとんど皆無で、油絵を描くようなタッチで線を加えていく。彼は別に自分の表現したい事がたまたま漫画がやりやすかったから漫画を描いてる感じがする。 五十嵐大介は漫画を愛してはいないが、漫画が五十嵐大介を愛しているのだ。海獣の子供五十嵐大介5わかる
線セーショナル2024/06/04ネタバレ革命的な漫画水木しげるの最高傑作は何かと問われた時に私は貸本版の悪魔くんであると断言したい。悪魔くんの千年王国以後のバージョンは凡庸な勧善懲悪に成り下がっていて物語の奥深さがない。貸本版の後に描かれた松下一郎版の千年王国は水木以外の線が入っており、さらに悪魔くんによる革命が達成されたかの様に物語が終わってしまう。この終わり方ではまるで、過剰な左翼思想、革命、70年代の学生運動を肯定してしまっている。 しかし、貸本版の悪魔くんは結局最後に殺されてしまうという終わり方が、アリストテレス的に言う所の、悪は過剰に宿るというテーマを物語で提示していることとなり、人々が受容する物語としてはこちらが正しい。さらに貸本版の悪魔くんの重要な所は世界を救うため悪魔を召喚したら、その悪魔はなんとただの口のうまい金に汚い凡庸な人間が召喚されるという所。そして水木しげる一人で描かれた描き込まれすぎていない、美しいバランス感覚の線によって物語に流れる深く緩やかな線で世界観を表現している。貸本版悪魔くん 【水木しげる漫画大全集】水木しげる9わかる
線セーショナル2024/06/04最も異端かつ独創的な漫画諸星大二郎という作家は他の追随を許すことのない唯一無二の作家である。これは海外の異端な芸術家、映画監督、文豪、音楽家に広げても諸星大二郎の独創性を上回る作家など殆ど存在しない。妖怪ハンターは人間の根源的な知的欲求、未知、何故世界は存在するのかというあまりに壮大で抽象的な概念を諸星大二郎の線に還元している。このいまにも崩れそうで保っているような不気味な線の快楽が我々を未知の世界へ引き込んでくれる。妖怪ハンター諸星大二郎5わかる
線セーショナル2024/06/04漫画史上最高傑作 わずか1冊の単行本の中にものすごく壮大なテーマが託されている。 あえて手前の部屋と向こうの部屋のパースをずらすことで、あちらの世界とこちらの世界の彼岸を再現していたり、ベランダの柵がコマ割りとなっていたり、ここでは書ききれない程の重層的な技法が含まれている。そして、それら全てを包括するように、あえて切り離された記号とも文字とも絵とも捉えられる高野のみが到達出来た線画によって描かれている。黄色い本 ジャック・チボーという名の友人高野文子4わかる