いわゆるガロ系の漫画家の問題は、絵柄がつげ義春に引っ張られ過ぎていて、実際の所新たなオリジナリティに欠けるある意味呪いを抱えている。しかし長い時を経て、ようやくそれを上手く越えられる作家が現れた。ガロの線を残しつつも、新たな絵柄を取り入れガロ特有の重苦しさから解放された、軽やかで風通しの良い線となっている。
主人公ホナミは戦争で母を失い飲んだくれて、新しい母と新たな子供を設けた父と家族を嫌い、よく家出をする。そのせいかホナミはひたすら自立と解放を重んじるキャラである。当時女性で珍しい獣医を目指し、女性が結婚というシステムに縛られ男性に奉仕する関係を拒否し、恋仲の村上とも結婚しようとせず、とにかく解放を重視する。
一方、医者の私は敗戦後、特有の頑固で痩我慢を美徳として生きる典型的な古い男である。本来の気持ちとは相反して強がった言動を繰り返すうちに少しづつ不幸へと向かっていく。
ホナミが犬に左足につかれるのを嫌がるのは自立心のない男に寄りかかられるのを毛嫌いするかの様である。解放を重んじるホナミが踊るシーンが印象的だ。ルックバックの主人公を少し思い出した。犬のベティは私の理想の姿なのだろうか?内面が通じあっている割に犬も解放的である。ホナミとの裸のについての会話にそれを感じる。そして現代の結婚という男女関係にも少し考えさせられる